4.ドラマチック
そのうち、言い争っていた男女ふたりは静かになったと思ったら、女の人がぎゅうっと男の人に抱き着いた。うわあ、こんなみんなが見ている前で。
わたしは恥ずかしくなってテーブルの方を向いた。そんな間にもストライプのネクタイのひとは静かに身動きもしていなかったようだった。
「なんか、ゴメン。あいつほんと馬鹿でさぁ。もう帰るみたいだからさ」
戻ってきた男性たちが口々に謝るのに、そりゃそうだよねぇ、と先輩たちは薄く微笑んでいた。
その後すぐにお開きになり、「二次会どうする?」という男性たちの多分お誘いを、「明日も仕事だし」と断わった先輩は、男性グループと別れた後でわたしに言った。
「今日はありがとね。コーヒーおごるからさ、もう少し付き合って?」
お友だちさんたちもにこやかに、一緒に行こうよって言ってくれて、近くのコーヒーショップに行くことになったけど、ジーンズのひとだけは「疲れたから」って駅へと去ってしまった。
「リヨウコのヤツ、機嫌悪かったね」
「そりゃあんだけ蚊帳の外にされれば」
「いいクスリだよ。もうあいつ誘わないでよ」
「で。結局、キヨシってのはアキの男だったわけ?」
「状況から見るに」
「なんかいつもと違ったね。ポイ捨てはやめたってこと?」
「そういえば、去年からあんまり見かけなくなってたもんね」
先輩たちがしきりにアキさんというひとのことを話題にしているから、わたしは幼稚園で同じ組だったアキちゃんを思い出した。
「アキってのはね、うちらの友だちでもなんでもないけど、有名人でさ」
コーヒーカップを抱いてぼーっとしているわたしに気を遣ったのか、先輩が説明するように言った。
「一言でいうと、合コンキラーね」
「ハンターともいう」
「自分は一人でぶらっと来て飲んでてさ、外からよその合コングループの男にアピールして、かっさらっちゃうの」
「すごいオンナだよねぇ。でも、リヨウコみたいに嫌われないのは、媚びないタイプだから?」
「サイクルは早いけど二股しないね、だから恨まれないんじゃない?」
……今夜は初めての合コンに、初めて見聞きするようなことばかりで、情報の処理が追いつかない。そのアキさんが、あのアキちゃんなのか確かめようもなくて、でもわたしは鈍い頭で、ドラマチックなひとなんだなあ、なんて思っていた。
「なんつうか、恋愛ってさ、いろいろだし人それぞれだよね」
「フォローになってるような、なってないような」
「そういうセリフは、恋愛してるヤツは言わないんだろうな」
「えげつなー」
「おもしろくないしー」
ひとしきり会話とコーヒーに時間を費やしてから、お友だちさんたちふたりは「お先に」と席を立った。あれ? とわたしが戸惑っていると、
「ツグミちゃん」
改まったようすで、先輩がわたしをじっと見つめた。
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