3.ストライプのネクタイのひと

 目の前のお料理をたいらげた後にはすることがなくて、帰りたいなあ、でも帰りますって言い出せるわけもなく、そこでようやくわたしは顔を上げて視界を広くしてみた。


 それぞれ五人が並んで向かい合って座る十人掛けのテーブル席の、わたしはいちばん端にいて、右隣に先輩が座っているのは最初から変わらずだったけれど、他の人は席を移動しているようだった。それぞれグループに別れて話し込んだり、かと思えば合流して賑やかに笑い合ったり。

 みなさんわたしより年上で、人付き合いが上手な人たちなのだろうなと思った。社交的。わたしからいちばん遠い性格だ。


 この場でどうしていればいいんだろう。困って自分のグラスに手を伸ばしながら目を上げると、正面にはさっきのストライプのネクタイのひとがまだ座っていた。

 んん、今ぱっと目をそらされたような。そのひとは、天井のランプでも眺めているのか上を向いているけれど。


「ツグミちゃん、お腹いっぱい?」

「あ、はい」

 先輩にいきなり話しかけられてちょっと焦る。

「あっちにデザートビュッフェがあるんだよ、一緒に取りに……」


 言葉の半ばで先輩はすうっと視線を横に流した。女性のひとりが席を立ってテーブルを離れるところだった。先輩も他の二人の女の人も上品なスカートスタイルなのに、その人だけは今どき珍しいスキニーなジーンズ姿で、グループの中でもタイプが違う感じがした。


 先輩だけじゃなく、お友だちさんたちも、男性たちも話を止めてジーンズの女の人の後姿を見送っていた。しばらくしてから、男の人たちはにやにやと顔を見合わせ、女の人たちは言いたいことを我慢してるようすで目配せをし合った。なんだろう? 男の人もひとりいなくなっているのはわかったけれど。


 そんな中、ストライプのネクタイのひとはずっと天井を見上げていた。

 何を見てるんだろう? さすがに気になってわたしも首を曲げたとき、どこからか大きな声が響いてきた。ストライプのネクタイのひと以外の男性たちがすかさず立ち上がって声がした方へと向かった。


 先輩たちもそっちを見ている。それでわたしも椅子に横座りになって背後を振り返ってみた。

 テーブル席が並ぶ空間の向こう、通路につながっているっぽい壁際で、女の人と男の人がもみ合っていた。何か言い合っているけど、よく聞き取れない。


「あらら、シュラバだ」

「キヨシだっけ?」

「つうか、あれアキじゃん」

「ほんとだ、リョウコはどうした?」

「っぷ。いつものあれか、アキの横取り」

「違くない? なんかようすがいつもと違う」

 先輩たちがささやきあっているけれど、わたしにはさっぱりわけがわからない。

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