2.合コン
女性ばかりだとそれはそれで恋バナはやっぱり尽きない。ときおりは合コンに来てくれないかと先輩に誘われた。男女で数を合わせないと幹事として失礼だからって。その先輩は社交的で、人の恋仲を取り持つのが趣味らしく、いつも合コンの話をしていた。
わたしなんかがコンパに行っても仕方ない。男の人と話せないんだから。
だからいつも断っていたけれど、あるときどうしてもって強めに言われた。
仕事で助けてもらって良くしてくれてるのだから、ここまで言うのだから、たまには頑張ってみないと。
そう思って、残業のない水曜日の夜、先輩の後について駅近くのものすごくオシャレな雰囲気のお店まで出かけた。
お酒がメインの店だけどレストランみたいで照明は明るく、でもカジュアルじゃなくモダンで、わたしは中に入る前から気後れして誘いを受け入れてしまったことを後悔した。
職場の知ってる人が他にもいると思っていたのに、わたし以外の女性は先輩のお友だちだとかで、事前に確認しなかったことも悔やまれた。本当にわたしはこんなふうにぼんやりとしていて、これから先、生きていくのさえ怖くなってしまう。
すっかり身を縮こませてずっとうつむいているわたしは、自己紹介すらできず、代わりに先輩が「ツグミちゃんでーす。この中でいちばん若いでーす」と明るい声で披露したのにも居たたまれなかった。
「ここのお料理おいしいから、会費分ばっちり食べてね」
でもその後は、先輩はそんな風に言ってくれて、会話をふられることもなく、あ、これは黙々と食べていればいいのかなって、都合のいい解釈をして、ひたすら目の前のお料理を口に運んだ。
お料理はとにかく美味しくて、なんていうのかもわからないけれど、たぶんサーモンのマリネが美味しくて、これもっと食べたいなあと見入ってから、空になったお皿を脇にずらしたとき、
「これ、手付けてないから」
向かいの席のひとが、ずいっとわたしの前にサーモンのお皿をくれた。声がのどの奥に引っ込んでとっさに返事ができない。
「ぼく、生のたまねぎ嫌いなんだ」
ああ、そういうことなら。わたしはろくに相手の顔も見ず、そのひとのスカイブルーとグレーのストライプのネクタイの柄を視界に入れながら、かろうじてもごもごとお礼を言った。
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