ロマンスはひつよう
奈月沙耶
case one ツグミ
1.怖い
ちいさな頃から人見知りで引っ込み思案、幼稚園ではいつも男の子にいじられてた。通園バッグを隠されたり、おトイレに行けないように通せんぼされたり、いきなりお腹を殴られたり。こいつイライラするって言われた、何もしてないのに。何もしないのがいけなかったんだなって今ならばわかるのだけど。
そうそう、同じ組の女の子がいつもかばってくれたっけ。アイちゃん? アキちゃんだったかな? わたしと同じでちっちゃくて細いのに、男の子を蹴り飛ばしたり棒で殴ったり、すっごく生き生きとしてた。わたしもそれくらい強ければよかったのだけど。
男の子は怖くて乱暴、近づくのもいやになった。小学校でも中学校でも、目立たない女子たちのグループに所属して教室では息をひそめるようにしていた。
中学生になると、友だちはみんな本格的に恋バナを花開かせるようになり、わたしもしきりに誰が好きなのかと尋問された。
好きな男の子なんかいない。運動部で活躍しているようなリーダータイプの男の子たちは声が大きくて言葉も荒くて怖い。比較的静かにきちんと話してくれて制服もちゃんと着ている生徒会役員なんかをこなす男子とは少しは話せたけれど、でも話せるってだけだ。あんまり近くにいたいとは思わない。
実のところ、女子のみんなが気にしているような目立つタイプの男の子のことを、わたしもカッコイイなって思ったりはした。笑顔が素敵だなってドキドキしたりした。
でもそれを好きってことだとは思いたくなかった。その男の子がどんな性格の人なのか知りもしないで見た目だけで好きっておかしくないかな。見た目でドキドキするのと、好きは違うんじゃないかな。
とはいえ、結局怖くて男の子と話もできないわたしが、性格を理解できるまで仲良くなれるはずもなかった。
高校と大学はどちらも女子校だったからとても安心だった。でもその七年間で自分がもっとこじらせてしまったことに就職活動のときに気がついた。
セミナーや順番待ちの列で、前の席、隣の席に男の人が座ると、ものすごい圧迫感と熱を感じた。男の人ってだけでみんなわたしよりも体が大きいんだって改めて感じた。
やだな、男の人がいないところがいい。そう意識して、女性が多い職種の女性ばかりの職場を選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます