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俺達がそれでもこの軍に残ったのは、それが今のこの国の為だと、結論を出したからである。

過去がどうあれ、この国には人が住んでる。

俺の家族が、友達が生きてる。

それは守りたい、守らなきゃいけない。


リペスにそう諭されたのを強く覚えている。


俺に家族はいなかったが、議論の末に俺は軍に残る事を決めたのだ。


そして、それからまた何度も引き金を引いて、あの戦闘………あるテロリストの残党の殲滅戦。

ラークスという集団だった。

かつて、俺の妹と母を殺した奴等だった。

俺の10歳の誕生日に奴等のテロに巻き込まれて二人とも死んだ。

父がいなく貧しかったが、二人が俺の誕生日の用意の為、買い出しに行っていてくれたのだ。

そして死んだ。

だから死んだ。


それからラークスが壊滅したのは、6年後、俺がテロリストへの復讐と金のために軍に入った年の事だった。


あれからもう長く経ったが、俺は奴等を殺せると思うととても嬉しかった。

この作戦に同じく参加したメイバーもリペスも、俺の事情を知っていたから、とても喜んでくれた。


だが、今回の戦闘で二人は………リペスは上半身だけが見つかり、メイバーに至ってはMIA認定、亡骸さえ発見されていない。


何があったのか、未だに分からない。

ただ、ラークスでない別の組織が介入してきたらしい様なのだ。


ひどく悲しく、辛かったが、俺は闘う事を辞めた。

俺もあの戦闘で右腕と左耳、左足の指2本、小指と薬指を失くしたのだ。


治療を施せば、闘う事は出来たが、そうはしなかった。

もう厭になってしまった。


リペスにああは言われたが、これは本当に命を掛けてまでやる事なのか。

それに悩んで、復帰を止めたのだ。


貧困で、母と妹がテロにあって、殺されて、軍に入って、殺して、疑って、でも殺して、金貰って……俺もこのろくでもない世の中の歯車に過ぎない。


今度メイバー中隊長、いやメイバーとリペスの墓にでも花を手向けにいこう。

…ずるいけど、自分の為に。


結局、俺だけが生き残り、ワルシャー社、国内最大の軍需企業のイメージアップの為に作られた美化地区で平和に暮らしている。

最も、右腕と左耳、左足の指と引き換えだったが。

少なくとも今、俺は二度と戦いたくは無かった。

それはこのキナ臭い世界の情勢もそうだし、この怪我の事もある。

それに……ここには優しい賢者さまがいるのだ。

もし戦って、死んで、彼女に会えなくなる事は寂しかった。

だから、俺はこの安寧と平和の中で残りの命を生きるのだ。

そうしたいのだ。


例えそれが欺瞞であっても。


虚構を風が通っていく。

太陽が眩しかったので、そっと目を閉じた。


ーーーーーーーーーー


目を開くと、陽が落ちていた。

代わりに、小さく、現実味を帯びた雨粒が顔を叩く。寒い。

俺は一体どれほど寝ていたのだろう。

時計を見ると、4時半を少し過ぎていた。


手元にあった水を飲もうとする。

が、空いたままの容器に入っているのは、買った水ではなく、この雨水のようだった。


家へ急いだ。

走っていると、雨は次第に強くなり、とうに前が見えなくなっていた。

呼吸が辛く、息を吸おうとすると冷たい空気と水が口に通っていった。

立ち止まろうとすると、滑って転んだ。冷えきった地面にうつ伏せになる。


何となく、寝返って薄暗い空の方を向いた。

雨で起きたが、まだ眠かった。

目蓋を下ろした。

このままそうしていようか………………………


数十秒、あるいは数時間そうした後、立ち上がってまた歩き出す。

そもそも散歩に出た筈が、2度も外で昼寝する事になるとは思わなかった。

勿論、まだ雨は止んでいない。

風邪引くだろうな……

そう考えながら歩く。

走るほどの気力は濡れて消えていた。

急いだ所で、もう無駄である。


暫く歩いていると、方向がこちらであっていたか不安になった。

さっき、ベンチから確かに家の方向に歩いてきたはずなのだが、この雨では前が見えないのだ。

疑いながら歩けば歩く程に、尚疑わしくなっていく。


もう一度時計を見ると15分経っていた。

たったそれだけの時間を永遠の様に感じるのは、目が見えないからだろうか。


果たして、家があった。


安堵と共に駆ける。

家へ帰れた、たったこれだけの事が、ひどく不思議に感じられたのだ。


ポストを見ると、手紙が一通入っていた。

取り出したが、雨が降っている。

差出人は見えなかった。

まあいい、後でじっくり読もう。


不思議な幸福感と共に、ドアを開ける。

足を踏み入れる。

家へ帰る。


今日は冷えてしまった。

今日の夕飯は、温かいスープにしようか。

うん、そうだ、それにしよう。


ドアを閉めた。

ーーーーーーーーーー


「拝啓、俺の友人で、最高のエース、サイ・トーカー


御前が生きていた事を嬉しく思う。久しぶりだな。

言っておくが幽霊じゃないぜ?

死人に口無しとは言うが、俺はまだ、死んじゃいないんだ。

俺は日本にさらわれたんだ。驚くだろうが、聞いてくれ。


あの時の戦場には、俺等アメリカ、それと殲滅対象の御前の仇のテロリスト共、それも残党だけだった。だが実際は違う。

あの場にはな、日本軍がいたんだ。奴等は人体に手を加え、パワードスーツを着装させた強化兵を送り込んでいた。俺や何人かの味方をさらっていったのはその連中だ。実戦試験とモルモットの入手の為らしい。


日本をやる。

あいつら、日々力を蓄えている。このまま放っておくとマズい。未確認だが、核を保有しているとの情報もある。このままだと、確実に悪夢が起きる。狂ってやがるんだ、あの研究所の奴等、俺や他の奴を笑って化物にしていったんだよ。俺はどうにか逃げ出し、今アメリカ政府に保護されている。


結論を言おう、サイ。

リペスの仇を取ろう。

御前の力を貸してほしい。


軍が日本への調査を始めた。

その内、確実に攻撃が行われるだろう。

その攻撃に参加してほしい。

これは言うまでもなく、軍じゃなく、俺の意思だ。

勿論軍の許可は取ってある。

渋ってたが、どうにか認めてくれたぜ。

何つっても、エースのサイ・トーカーだからな。


俺だって、おかしな改造でもう長くない。

御前が怪我で軍を辞めたのは知っている。だが、戦えない訳じゃないんだろう?

もしもう一度俺の元で戦ってくれるのなら、平和を叶えようとするのなら、4月21日午前0時、リペスの墓に来てくれ。

俺はもう街を歩けるような格好じゃないからな、代わりがいくぜ。


もう一度会おう。


メイバー・ティーク」

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