第5話「キャットウォークの終着点」

 道化の仮面のことでひと悶着あったが、動物病院にて無事に子猫二匹を預かってもらい――


「ずいぶんとひどい話でしたね」


 ココロが言うと、ミドリは無言で首肯した。


 獣医師に事情を説明すると、やはり捨て猫とのことだった。あの白猫は親というわけではなく、偶然見つけたのを保護していたのかもしれない。


 段ボール箱から距離を取った場所にいたのは、車やカラスなどの危機から守るため。そしてペルソナは白猫に協力して、信用できる人間を連れてきたのだろう。


「私たちが見つけていなかったら死んでいたかもしれないと思うと、なんだかやり切れないですね」

「そうですね……」

「しかし現実問題、そういうことはあるんだよ。あの子猫たちに限った話じゃない」


 白い仮面を着けた道化は淡々と言う。


「そうだね」と力なく同意する。


「ペルソナくんがいなかったら、わたしたち素通りしていたかもしれないんだよね」

「ただでさえ猫の……いえ、動物の飼育は大変ですから。特に生まれたばかり子どもだと、うまく育てられずに死んでしまうケースが多々あります」


 ココロの言葉には実感がこもっていた。


「なんだかやり切れないね」

「だが、ペルソナくんのおかげで命が救われた。それだけでも良しとしようじゃないか」

「にゃあ」


 タイミングよくペルソナが鳴いた。ちなみにもう逃げ出さないようにと、ココロの腕に抱かれている。


 動物病院の前で、ミドリたちとココロは別れることとなった。


「先ほどから気になっていたんですが」

「はい、なんでしょうか?」

「ええと、道化さんでしたっけ? ……あなたは〈マスカー〉なんですか?」

「そうだね」


 さらっと肯定したが、ココロは別段驚く気配はなかった。ペルソナの背中を撫でつつ、ぼんやりと「そうですか」


「ニュースで聞いているものとは違うというとなんですが、いい〈マスカー〉さんもいるんですね」

「まぁ、〈マスカー〉が犯罪者の代名詞であることは否定しないよ。実際、悪用しているのがほとんどだし」

「でも、あなたは違うんですよね?」


 道化は頬の部分を指で掻いた。照れているのだろうか。


 すでに太陽は沈み、街には明かりが点いている。


 ココロはもぞもぞと腕を動かし、時計を確認した。


「遅くなってしまいましたね。長々と申し訳ございませんでした。ありがとうございます」


「こちらこそ」とミドリも同じように頭を下げた。


「引島ミドリさん、でしたね」

「はい」

「また会えるといいですね」

「そうですね。その時はペルソナくんも」

「はい。その時は遊んであげて下さいね」


 それでは、と頭を下げながらペルソナを連れていく。


 ココロの背中が見えなくなると、ミドリははぁっと息をついた。


「なんだか疲れちゃったね。もう帰ろうか」

「そうだね。周りの視線も気になることだしね」


 確かに、往来を行き交う人たちの怪しむような視線が先ほどから向けられている。


 ここで騒ぎになってはまずいと思ったのか――「行こうか、ミドリくん」


「うん。早く帰らないとアカネちゃんとアオイちゃんに怒られる」

「君の叔父さんは?」

「今日は仕事で遅くなるって。冷蔵庫の中身もあんまりないから、カップラーメンにするつもり」

「……君の叔父さんに同情するよ」


 あははと笑いつつ、ミドリと道化は肩を並べて歩き出した。

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~幕間~「猫と道化のキャットウォーク」 寿 丸 @kotobuki222

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