遠い遠い、未来の宇宙で

ЙЖЦあとごふんよ~」

淡いピンク色に輝く型銀河が伴星雲をたしなめた。形成途中の星雲は渦状腕を伸ばしてしがみ付く。

「まだだと言ってるでしょう」

λ781は子を再び叱った。成長期の星雲は食欲旺盛だ。調理中の銀河系えものが熟すまで待てない。炭素型生命は自分の巣に通信網を張り巡らす習性がある。過剰な消費文明は貪欲に資源を欲し、恒星やブラックホールからもエネルギーを簒奪する。その根本にある享楽と堕落が銀河の潜在エネルギーに「芳醇」な味わいとコクを与えるのだ。λ781たち簒奪型星雲知性は中心核に強力なブラックホールを持ち、爆発的な荷電水素ガスが思考回路を形成している。ただその維持には燃費がかかる。彼らは腹を空かせて宇宙を彷徨っている。

伴銀河は宇宙スケールの「ЙЖЦ」が待てなかった。

λ781の陰から飛び出すと調理中の乙女座銀河に食いついた。

「ああっ!」

制止する間もなく、莫大な重力波が発生し空間のゆがみから裸の特異点が襲い掛かってきた。青白い星間ガスが我が子から引きずり出される。母は銀河系の調理を諦め、裸の特異点めがけて投射した。女が肩まで伸びた髪を払うようにλ781の渦状腕がゆらめく。

「彼女」はやわではない。これまで何度となく特異点を退けてきた。最初のЙЖЦが勝敗の分け目だ。球状星雲を連射して相手の動きを読む。特異点は囮に食いつかず、不規則な軌道を描いて伴銀河に先んずる。

彼女は祈るような想いでおとめ座銀河の熟成を待った。特異点は知的生命体も観測しているだろう。神の視点を中心核に向けた。ある星系では先端文明が徒党を組んで裸の特異点破壊砲の建造に取り組んでいる。

「頑張って!あとЙЖЦよ」

母は獲物内部の存在に運命の一部を預けた。

取って食おうというのに…。

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ななめ上の竹槍で突け 水原麻以 @maimizuhara

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