第4話 彼女は僕の知らない僕のことを知っている

「はじめまして。今日からこのクラスに入ることになりました神道薫です。よろしくお願いします。」


 管理人さんに連れられた教室で簡単な挨拶をすませ、一度学校の外に向かう。


「右手に見えるのが男子寮ですね。そしてその裏手にあるのが女子寮、正門から出て左に行けば探せば何でもある学生街。他にもいろいろありますけど薫さんの目で確かめてみるといいですね」


 部屋の鍵を渡され、新しい人が来てるかもしれないからと管理人さんが別れを告げる。


「何かあったら他の私に聞いてください。それでは良き生活になるよう心からお祈り申し上げます」


 そうして校門前にポツンと薫一人取り残される。管理人さんに流されるままただ後ろをついて行き、流されるままに説明を受けたためか未だ体が追い付いていなかった。


「結構世界ってファンタジーなんだなぁ」


 この展開に対する陳腐すぎる言葉に自分頭の中身を思い知らされる。


 とりあえず自分の部屋でも見ているかと思い立ち、先ほど言われた男子寮に向かう。


 男子寮はレンガ造りのいかにも小洒落た建物で、今が授業中なのか人それぞれ思い思いの場所に住んでいるのか、男子寮には人のいない特有の静寂が漂っている。


「あら、意外と早いご到着だこと」


 部屋が空いた音に気が付いたのか奥から女性の声がする。人のいるはずのない部屋から長髪黒髪の女性が出てて来る。部屋を間違えたのかと鍵を確認するも何も間違っていない。


「ここはあなたの部屋よ。何も間違ってはいないわ」


「じゃあなんでここにいるんですかね…」


 当然の疑問である。自分の部屋に勝手に入っていた女に対してかける言葉はそれしか思いつかない。


「あなたにちょっと興味があってね」


 答えになっていない返答をしながら長髪黒髪の女が近づいてくる。


「あなたの生涯読ませてもらったんだけど、面白い未練だったから会ってみたくなったの」


 当たり前に人のプライバシーに踏み込み、不法侵入がまかり通るこの世界は大丈夫なのであろうか。


「あなた自分の未練のことよくわかってないでしょ」


 何故彼女はそのことを知っているのか。実際、自分に未練があるといわれたときから薫はそれが何なのかを理解できないでいた。


「あんたは知ってるのか」


 この時には目の前にいる女が不法侵入者であることを薫は忘れてしまっていた。


「あら失礼。私には遠野花音とうのかのんっていうかわいい名前があるのだけど」


 別にそんなんことは気にしていないかのようにその遠野花音は一つの提案を掲げる。


「もし、あなたが自分の未練を知りたいのなら私についてきてみない?」


「どこに?」


「私、成仏部っていうここにいる人を成仏させる活動しているの。未練を知りたいならこの部に入りなさい」


「なんでそんなことしなくちゃいけないんだ?」


「あなた5W1Hの質問しか出来ないの?もっと良い返し方を望んでるんだけど」


 まぁ、いいわと大きく溜息。


「あなたの未練ってすごく根が深いくせに難しいのよね。下手したら何年もここに留まる可能性だってあるの。そういうめんどくさい人たちを集めたのが成仏部ってこと。活動内容は私の趣味ね」


もしかしてこの遠野花音という女は提案をしているのではなく命令をしているのではないか。


「あんた拒否されるってこと考えてないだろ」


「えぇ、当たり前でしょ。あなたが成仏するには成仏部に入るしかないんだから」


もしかしたら未練をもって死んでいく人はどこかのネジが外れているのかもしれない。


「最上階に部室があるから。いつでもいいから一度顔を出してみて」


そう言い残すと花音は部屋を後にする。


嵐が去った薫の部屋に静寂が戻ってくる。

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成仏部のみなさん たつなり @tatsunari333

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