第3話 意外と世界は簡単に作れる
「あんまり前世と景色は変わらないんですね」
改めて敬語で管理人と自称する女の子に薫は話しかける。実際、薫たちが歩いているのはただの住宅街のように見えた。ただ、その道を歩いているのは薫たち以外にはいなかった。
「ただあっちの世界の景色をコピペしてきただけですからね。ドアを開けても誰もいませんけど。」
あ、そういえばと彼女は続ける。
「ここにあるものや建物はすべて自由に使っていいですからね。一応学校にあなたの部屋はありますがどこで寝泊まりしても構いません。壊したいものがあれば壊していいですし、毎日自分の好きなように過ごしていいです」
「成仏するために?」
「未練がなくなれば成仏できるって言いましたけど、実際未練をなくすのは難しいんですよね。だから前世を忘れさせることを目的としてるんです。こっちの世界が楽しければ前世の未練なんてどうでもいいと思いますよね」
一つ疑問が浮かぶ。薫の未練は何なのか。自分に未練があるとは思わない薫は少し気になっていた。正直な薫の本音はやっと借金生活から解放されたという喜びしかなかった。
「僕の未練ってなんなんだろうな」
ぽつり。と独り言。
「一応私は知ってますよ」
「教えてくれたりしますかね」
「教えられない決まりなんです。自分の未練を知っちゃうと成仏しにくくなっちゃうんですよね」
どういう理屈だか知らないがそれがルールなら仕方ないものである。自分の未練を知ったら焦ってしまうのだろうか。
「さ、つきましたよ。ここがあなたが通う
黄泉川学園と呼ばれるその建物は周囲に溶け込む気など一切考えていない、全面ガラス張りの10階建て以上のビルだった。周囲が住宅街であるところを考えると完全に浮いている。
「すごい建物ですね」
「そうですよね?日本にある中で新しいのを選んでみたんですよ」
別にほめたつもりはなかったがそうとらえてもらえたなら行幸である。こんな学校が実際に存在するのが驚きである。こんな学校学校に通う人は人の目を気にしないのであろうか。
「早くしないと置いていきますよ」
学校の外観をまじまじと見ているとすでにその女の子は入り口前で薫を待っていた。
「それじゃ今日は校舎を案内したり、あなたのクラスメイトに自己紹介の日にしますか」
校舎の中はありきたりな学校と変わらなく下駄箱があり、廊下では数人の生徒が歩いている。
「ここは10代の子供が集まるって話だったんですけど先生はどうしているんですか。てか、死んだのに勉強する意味あるんですかね?」
「前世を忘れるくらい楽しい学校生活を送るのに必須なのは友人関係なんですけど、手っ取り早いのが同じ部屋に突っ込んでおくことなんですね。あと、ここに来る人は義務教育を受けてない人が多いんで、知識の偏りで苦労しないためってのもあります」
先生のことなんですけど、と職員室らしき部屋を指す。
「教師は全員私ですよ」
その部屋にいたのはすべて管理人さんと全く同じ女の子たちだった。一人一人違う仕事をして、生徒もそれを気にせず談笑している。
「結構何でもありなんだな」
こっちに慣れるには時間がかかりそうだと薫は思う。
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