第2話 意外と死ぬのはあっけなく
神道 薫はもう一度思い返す。ただ道を歩いていただけ、思い出すことができるのはそれだけだった。その行為のどこに死ぬ要素があったのだろうか。
「栄養失調、睡眠不足に加えて日射病ですか。不摂生も積み重なるとどんなに若くても死んじゃうんですね」
小さな女の子はどこからとってきたのか何枚かの紙の束をめくっていた。
言葉を聞いて思案する。幼い子供からの突拍子もない発言、これから薫が導くことができた現状の説明は一つだった。
「君はもしかして迷子なのかな?お兄さん今忙しいからごめんね」
貧しいものは相応に忙しいものである。これは迷子と気が付いていない子供のおままごとだ。薫はそう決めつけると即座に外に出ようとする。さっさと寝て電気代と食費を節約することに考えが移っていた。
「それなら死ぬ瞬間見てみます?覚えてないとか信じてくれない人は見てもらった方が話が早く済みますので」
女の子が一度手をたたくとそこは映画館になっていた。広いホールにポツンと一人取り残される。スクリーンがカウントダウンを始めていた。
開演ブザーが鳴りスクリーンに記憶に新しい光景が映し出される。スクリーン中の薫は青白い顔をしてふらふらと今にも死にそうと言っている。少なくとも薫にはあれが同一人物とは思えなかった。すれ違う人は心配しつつ、関わりたくないのか一歩距離をとる。
いきなり、というかついに立ち止まる。別に疲れているわけではないのに足が前に出ない、口は動くのに声が出ない、彼の体と脳は全くリンクしていなかった。目をつむるつもりはないのにどんどん周りが暗くなっていく。
もう一度手をたたく音が聞こえると先ほどの事務所に戻っていた。
「どうです?思い出しましたか?」
「いや、あのなんて言ったらいいんだろうか」
次の言葉が浮かんでこない。確かにここが自分のいた場所でないことは理解できる。かといってここが夢とも思えない。この現状の理解には少し時間が必要だった。
「まぁ、理解する必要なんてありませんよ。ただ、今あなたが見たり聞いたりしている物が現実なんですからゆっくり慣れていってください」
その女の子は優しく言葉を紡ぐ。
「まず第一にここは未練がある亡くなった10代の子たちが集まります。次に未練を断ち切ることができれば
「なんで未練を断ち切る必要があるのかな?」
「未練を残す人は大体不慮の事故とで学生生活を十分に楽しめていない人が多いんですよね。そんな状態で来世に行くのかわいそうじゃないですか。」
「理由それだけ?」
「それだけです」
神様、仏様は意外と人間のことを気にかけるものらしい。
「どうやってその未練を断ち切るのかな?」
「それは学校に通う以外にないじゃないですか」
それは当たり前といえば当たり前だとは思うが薫は未だこの場所しかこの世界を知らなかった。
「それじゃあ学校へ案内しますね。皆さん良い方なので安心してください」
その女の子が事務所のドアを開ける。新しい生活といっていいのか神道 薫の奇妙な生活の幕が開く。
「名前はなんていうのか教えてくれる?」
「管理人さんって呼んでくれればいいですよ。あと、一応私1000年くらいここにいるのでそういう幼子に向けての話し方あまり好きじゃないです」
いくら神様、仏様が優しく世界を作っても、この世が理不尽なのは変わらないらしい。少し重くなった一歩を薫は踏み出した。
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