成仏部のみなさん
たつなり
第1話 彼は何も知らず、何も思い出せない
一歩を踏み出だすたびに自分が非日常にいるような感覚に襲われる。精神が衰弱しているのだろうか、前に踏み出す足がおぼつかない。雨上がりの夏の太陽が彼をあざ笑うかのように照りつける。
「ここまで不運な奴って存在するのかな」独り言のように
薫は世間一般で見れば高校生に分類されるが、学校というものに通ったことはなく、幼少期から借金取りに追われる日々であった。
何をしたわけでもなく、ただ両親が闇金で借金をし、子供だけ残して遠い所へ飛んで行ってしまった。
借金二千万円。それが両親から始めてもらったプレゼントだった。
そんなこんなで法外な利息と戦うこと数年、今日の職が見つからない、今日の飯代がないなど日常茶飯事な出来事。そんなことで一喜一憂していては体より先に心が死んでしまう。薫は多少の不幸では動じない、というより都合の悪いことはすぐに忘れるようになっていた。
理不尽なんて当たり前、明日どうなるかなんて関係なく今日さえ生き抜くことができれば及第点。すれ違う同年代の学生を羨みながら一歩を踏み出す。
空には雲一つなく夏の太陽が咲いていた。
以上回想終了
気が付くと何もない部屋にいた。ここを部屋と呼べるのだろうか、前後左右周り一面がすべてが白で埋めつかされて奥行すら認識できない。
もちろんドアや窓も存在しない。どうしてここにいるのか、どうやってここに来たのかわからない。頭の中に霧がかかっているようだった。
「ごめんなさい。こんな時間に来るなんて思ってなくてまだ準備が整ってないんですよ」と何もないはずのところから女性の声が聞こえる。
「あのー、何なんですかここ。白くて何も見えないんですけど」声のした方にそう投げかけると、どたどたと薫の前に何かが近づいてくる。思っているより下の方から声がする。
「目がこっちの世界に慣れてないんですよ。目をしっかり閉じてゆっくり開いてを繰り返してください」言われたように繰り返すと眼鏡の度が合うように薫のいる場所がわかってくる。
そこは小さな事務所のような、カウンターが一つしかない簡素な部屋だった。
「やっと目があいましたね。初めまして、神道薫さんでいいんですよね?」
声の主は彼の腰くらいの身長の小さな女の子だった。年齢はまだ二桁に行かない程度のように見えた。
何が何だかわからない。ただ道を歩いていただけの自分がなぜここにいるのか、目の前の女の子は誰なのか。薫の小さな脳では処理しがたい状況が眼前に広がっていた。
「君はここがどこだか分かる?さっきまで外にいたはずなんだけど」出したことのない猫なで声で優しく尋ねる。
「ここに名前なんてないんですけどここにいる人には管理室って呼ばれてます」その女の子はなぜそんなことを聞くの不思議なのか、きょとんと首を傾げる。
「もしかして神道さんは何があったか覚えてないんですか?」
「なんでこうなってるか知ってるの?」
「なんでこうなってるかって、死んだからに決まってるじゃないですか」
は?
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