T.o.A (短文詩作)

春嵐

T.o.A

5人いる。

ひとりは、会社で殴られ蹴られのサラリーマン。会社のルールは、人間のルールよりも優先される。それが彼の生きる場所。

ひとりは、意固地な善人。戦場や紛争地帯に赴いて、音楽で人を安らげようとする。彼の目には力がみなぎっていて、なぜか悲愴感を想起させる。

ふたり組。そのひとりは、将来を嘱望された演奏者。隣にいるのは、その恋人。彼女を捨てて音楽の道を行くか、音楽を捨てて彼女と共に歩くのか。彼にとっては、2つに1つ。彼女は、それを見つめることしかできない。

ひとりは、ぼろぼろのインストクリエイター。ただただ、ぼろぼろで。生気がない。覇気がない。

最後のひとりは、歌手。震えている。人の前に立って歌う前、必ず彼女は震える。止まらない震え。両腕で、自分の身体を頼りなげに押さえている。それでも。震え続ける。歯が鳴る。足がすくむ。


そして。

曲が始まる。

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T.o.A (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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