最終話 ボスを倒し、英雄となります
「【テンペスト】!」
スロウスの胴体を勢いよく吹き飛ばした時、背後で何かが崩れる音がした。
ライラだ。
【ストーン・ウォール】の壁を風魔法で破壊し、人1人分の小さな穴を穿ったのだろう。
【ウマ耳族】の脚は早く、こちらを見かけるや凄いスピードで駆け寄ってくる。
「ライラ!他のみんなは無事ー」
「バカバカバカァ!」
そのままスピードを下げずタックルしてきた。
流石に受け止めきれず、僕は地面に叩きつけられる。
「ちょっと!?愛が重いんだけど!?
「1人で突っ込んじゃ危ないじゃない。心配したんだからね…」
「もしかして、泣いてる?」
「な、泣いてないし。泣いて…うわあああああん!」
普段は大人びているのに、こういう時は子供っぽい。
そういう所も好きなんだけどな。
「ルデルさま〜〜〜〜!」
続けてソフィアも穴を抜け出してきた。
「他の冒険者も【フィアー・ハウリング】の影響から解き放たれました!いずれ…って、2人で抱き合ってなにしてるんですか?」
「な、何もしてないわよ。ね?ルデル」
「あ、ああ。もちろんさ」
慌てて取り繕う僕とライラであったがー、
「ぐ…ぐぎぎ…」
倒したはずのゴーレムが再起動するのを見て、一気に緊張が走った。
****
「このスロウスが…こんなガキに…許さないんだなぁ」
胴体は消滅し、両腕も半壊状態だが、スロウスはまだ活動を止めなかった。
つまり、いまだコアは破壊されていない。
ということはー、
「コアは頭部にあるのか。最後まで狡猾な奴だな」
「ぐひひ…ひ…引っかかったんだなぁ」
「もう勝ち目はない。諦めろ」
哀れな姿を晒していても、こいつが多くの冒険者を闇に葬ったことに違いはない。
「ぐ…」
すでに攻撃する力もないのか、ただ空中を漂うのが精一杯らしい。
「さ、最後にもう一度勝負なんだなぁ。お前と一対一、生死をかけた戦いをするんだなぁ」
「ルデルがそんなことするわけないでしょ!あなたは負けたの!」
「どんな強敵でも逃げない、と言ったのはそいつなんだなぁ」
「いいよライラ。僕がケリをつける。ソフィアもここで待っていてくれ」
僕は2人を残し、スロウスの元へ向かう。
多くの冒険者を卑怯な手で葬ったモンスターだが、あまり長くない。
せめて、正々堂々と勝負してやろう。
****
「さあ。望み通りの一対一だ。来い!」
「…ぐふふふふ」
すぐ近くまで来た時、スロウスは不気味な笑い声を上げた。
嫌な予感が走る。
トドメを刺そうと走り出す前に、手負いのゴーレムは叫んだ。
「お人好しは…バカを見るんだなぁ…【ゴーレムパンチ】!」
すでに活動停止したように見えた両腕がにわかに浮遊し、突如突っ込んできた。
2つの腕が向かう先は僕ではない。
後方にいるライラとソフィアだ。
レベル20前後の彼女たちでは到底防ぎきれない攻撃。
「ぐひひひひひひぃ!せめてお前の大切な人間をぐちゃぐちゃにしてやるんだなぁ!泣き叫ぶんだなぁ!【ゴーレムスーパーレーザー】!」
ダメ押しと言わんばかりに、一つ目から光線も放たんとする。
自身の停止も厭わない全身全霊の一撃。
狙いは僕だ。
光線をかわしてスロウスを倒すかわりに、仲間を2人失うか。
2人を助けに戻って両腕を防ぐ代わりに、光線に撃たれるか。
捨て身、いや、道連れを目的とした二者択一。
正々堂々と戦いたいと言ったのも、それらしい事を言って2人から僕を引き離すためのフェイク。
どちらを選択するのか、答えは決まっていた。
「【ブーメラン・ストライク】!」
大急ぎで2人の元へ戻りながら、拳から放った戦技で、両腕を葬った。
「ルデル!」
「ルデルさま!」
「2人とも伏せるんだ!」
でも、僕に出来るのはここだけ。
「やっぱりそう来たんだなぁ!2人もろとも…死ぬんだなぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
スロウスの眼球から放たれた紫色の光線は目の前まで迫っている。
まともに食らえば僕もただでは済まない。
最悪死ぬかもしれない。
それでも、最後まで2人を守り続ける。
僕は勇者なのだから。
「来い!!!」
せめてもの抵抗として拳を前に突き出した時ー、
凄まじい光と轟音が、全身を包み込んだ。
****
あれ…?
結構時間が経ったけど意外となんともない。
実はもう死んだとか?
「実績解放条件【モンスターの攻撃に対しかばう行動を実行する】を達成。新たな称号【弱きものを守る者】を獲得しました」
いつものごとく淡々と【スキルボード】が状況を語る。
何が変化したのかはすぐわかった。
「これ…ガントレット?」
いつの間にか、腕に金属製の黒々としたガントレットがはめられている。
年季ものなのかあちこち傷がついてるが、とても頑丈そうだ。
「特典として【勇者のガントレット】を取得。戦技【勇者拳】も会得します。状況に左右されず強烈なダメージを与える戦技です」
後ろを振り返ると、ライラとソフィアも傷一つついていない。
きょとんとした表情を浮かべている。
よかった…
「な、なんで死んでないんだなぁ!?」
驚愕する古のゴーレムの頭部が、僕が果たすべき指名を自覚させた。
「…覚悟は、出来てるんだよな」
「ひ、ひいいいい!?」
ガキン!
ガントレット同士をぶつけ合い、僕はスロウスに向き直る。
「騙し打ちには…容赦しない!!!」
「に、逃げるんだなぁ!!!」
「逃がすか!【重力拳】!!!」
「それ、チートすぎるんだなぁ〜〜〜!」
動きを止めたスロウスに近づくのは、僕だけではない。
「あたしの大事なルデルを傷つけようとした罪…その身で償ってもらうわ!」
「このソフィア!僭越ながら全力であなたを攻撃します!」
パーティーのメンバー2人はもちろんー、
「やったな勇者さんよぉ!」
「あたしたちも混ぜなよ!」
「少しは活躍させてくれ!」
先ほど動きを止められていた冒険者たちも次々とやってくる。
そしてー、
一斉に攻撃を放つ。
ある者は魔法で、ある者は武器で、ある者は拳で。
全力でスロウスをフルボッコにした。
「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「スロウス!これでとどめだ!」
最後に、僕が覚えたばかりの戦技を全力で放つ。
「【勇者拳】!!!」
ガントレットによる一撃が、ゴーレムの頭部に内蔵されたコアを、たしかに打ち砕いた。
****
ー逃げるのか。
最後を迎えんとするスロウスの脳裏にとある光景が宿った。
ちょうど100年前、英雄となる男エアロンと対決した時の記憶である。
当然ながら瞬時にフルボッコにされ、逃走を図るときにかけられた言葉だ。
ーに、逃げて何が悪いんだなぁ。おでは絶対にリベンジする!
ーほう。どうやって?
ーお前みたいな強い相手じゃなくて、弱い相手を倒しまくって、楽にレベルアップしてみせるんだなぁ!
ーそうか、好きにしろ。
ガントレットの構えを解き、エアロンはこともなげに言った。
ーだが、その先に勝利はないぞ。
この光景を思い出したのは、エアロンの言葉の意味をようやく理解したからである。
次は、もうちょっと苦労してレベルアップするんだなぁ…楽ばかり考えるのは、良くないん、だな…
それが、怠惰の異名を持つゴーレムの、最後の決意であった。
****
「やったね!ルデル!」
「ルデルさま!やはりあなたは凄いです!」
どうやら気絶していたらしい。
目を覚ますと、ライラとソフィアがいた。
他の冒険者の仲間もいる。
「僕…勝ったの?」
「ええ!【帰らずの洞窟】を見事攻略したわ」
「そうか…それならよかった」
まだ体に力が入らないけど、充実感で満たされている。
どん底に落ちてから1年間、ようやく自分のやるべきことがわかった気がした。
どんなことがあっても、仲間と一緒に、これからも歩み続けていこう。
****
1年後。
僕は結成したパーティ【同じ道を歩むもの】たちと共に、雪に覆われた最果ての地にいる。
魔王パズズが復活し、再び大陸中を襲い始めたのだ。
討伐できるのは、僕とパーティーのメンバーだけ。
「いつも通りだ!ライラは風魔法で僕の支援にあたる!ソフィアは2人を支援魔法で強化してくれ!」
「分かったわ!」
「ルデルさま…ご武運を!」
これまで以上の強敵になるだろうが、僕は怯んだりはしない。
「僕の名はルデル・ハート!勇者エアロンの意思を継ぎ、お前を倒す!」
それが、僕の歩んでいきたい道なのだから。
神スキル【歩くだけ】で爆速レベルアップ!!!~ハズレスキル【健脚】が【神脚】に覚醒した俺、ウマ耳娘と共に最弱から最強の冒険者へ ゴールドユウスカイ @sundav0210
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