目次 2021/2/01-2021/2/29

現代ドラマ・現代ファンタジー系・ハイファンタジー・SF系 はじまりはいつもひとり

『外出制限』

浴槽にかき氷シロップを流す。

鮮明な青が薄れて消えていく。

海にウイスキーを垂らして夜光虫が光るのを、見に行けない代わりにこんなことをしている。

流れる量と値段は、1分に300円ほどか。

海に行くまでの交通費と同額、流し終えるまでに満足できるか?




『孤夜』

寝なくていい身体になった。高校生の俺は胸を弾ませた。

皆が寝る間勉強すれば東大にだって行ける。ゲームもし放題だ。

あの子に自慢のLINEをして、返信がないことに気がつく。いつもならすぐに既読つくのに。

そういえば今は午前3時。寝てるのか。

長い夜だった。




『何を見たのか?』

奇妙な出来事が相次いでいた。

少女は自分が一つ目だと叫び、大人は交差点で踊りだした。

全員が数日前から「月が橙色に揺れて見える」と話していた。

現代医学はたった一言で収拾をつけた。

「幻覚症状のでる伝染病」

現代怪異の敗北の瞬間だった。




『プールキス』

水のなかは静かだ。あれが好きで夜に忍びこんではプールに潜っている。

でも今日はうるさかった。

見れば何本もの手に気弱な顔が沈められている。

私は顔を水中に引きずりこんだ。

驚いた手が離れる。

私は気にせずに、彼と唇を合わせて空気を吹きこんだ。




『主人公、意表をついてお前!』

この世が四次元の書く漫画だと知ってしまった。

「お兄最近変」「突然隠れたりね」

自宅にいる家族の言葉も読める。

主人公は別にいた。展開を読むに辛い人生だ。

不自然でも、彼を避けて幸せに暮らしてやるぞ。

※※

なんだこの新しい枠線は?

【スピンオフの連載開始だ】




『異世界転移』

今日は楽しみにしていた映画の公開日だ。

俳優が別の俳優を演じる話で、例えばアイドルが実力派偏屈を、美声が音痴を演じる。

どんな映画だろ。

上映後、私は落胆していた。

私にだけ俳優の入替がなかった。

ここは異世界だ。

こんなしょうもない気づき方したくなかった。




『早く言ってよ』

ぼくのクラスに妖怪タオル女がいて、いつもタオルをかぶっている。

本人は渾名を知らない。

だって変と言ったら先生に怒られるから。

タオルは彼女の個性なんだって。

「変なの」

「そう?!」

そう言って、女はタオルケットをあっさりと脱いだ。




『お前は大丈夫じゃん?利権?は?「「がっかりした」」』

「顔」を個人情報として規制する法案が国会に提出された。

皆反対するなか、僕は喜んでいた。

醜い顔を隠したい。同じ気持ちの人がいたことが嬉しい。

立案者の議員は大層美しい男だった。

その夜、議員は複数人の手で暗殺された。

私は嬉しく思いながらナイフを拭いた。




『職業柄、まともなものを食べられない』

運悪くI博士は無職となった。

彼は仕方なく、持ち前の科学知識を駆使した野草料理や薬局の物で作るレシピを考案していく。

次第に評判となり、彼は人気者となっていった。

対談番組で、彼は苦労していることを聞かれ、苦笑した。




『このままだと俺は』

下請の責任は元請の責任、議論の余地もない。

その通りだと思う。

他部署の部長が、支店に損害を与えるため、積極的に現場を壊そうとする下請を送り込んでくるまでは。

契約を切ろうにも阻む下請法。

社内に敵がいる事実を証明せねば。




『情けは猫の為ならず』

猫の恩返しを期待して猫を助けてきた。

轢かれそうな猫を助け、出産を手伝い、捨て猫の家を探した。

ついに、喋る猫がやってきた。

「猫神様、今回もお救いください!猫の国の危機です!」

誰か1匹にでも助ける意図を伝えておけばよかった。




『恋愛戦略』

Twitterラジオをやる男がいた。

時間指定でタグ付け、ツリーに男とゲストのリプが続いていく。曲名を書いて再生時間分黙る。

ある日同級生がゲストをしてくれることになった。

彼は喝采の声を上げた。

男は彼女の話を聞きたくて実名でラジオを続けていたのだ。




『仕事をとんちで切り抜けるな』

開発部Tくんは悩んでいた。明日「世の中にひとつもない商品名」を上司に報告しなければならない。

ゲームの技名はだめ、肌荒れ防止の軟膏。

そうか、思いついた。


翌朝彼は、軟膏の名前を「薬」と名付け、商品名としては初だと胸を張った。




『兵器メーカー勤務』

アイデアマンFくんがメーカーの開発部を解雇された。

案をだすだけの人員はいらないらしい。

自分も役に立つと伝えたくて、Fくんは一晩中考えた。

朝、彼は自社製品を手に家を出る。

使いこなせる様子を見せる、彼らしくもなくベタなアイデアだった。




『曖昧口糊』

商品開発部のTくんが、味を可視化できるおもちゃ「口伝」を開発した。

皆、好物をわかりやすく見れて、喜んだ。

大ヒット祝いにTくんは行きつけの一癖ある味の料亭に向かった。

この国は変わっているとはっきりした物に厳しい。

彼は閉店を前にうなだれた。




『食材ガチャ爆死』

同棲している彼女は料理下手だ。

この間はパンが具の鍋を作り、昨日は麻婆ミントアイス。

ふと本棚のレシピ本を手に取ると、妙に軽い。

料理名が切り取られている。

近くのくじ引き箱に、料理名の切り抜き。

遊び心をもって生きたい、とは彼女の口癖だ。




『桶屋』

全身の汚れが赤く染色される入浴剤を開発したTくん。磨き残しがわかるはみがき粉の全身版だ。

これでお風呂で洗い残しなく、病院や介護にも使える。

試作品を家で試した彼は、うきうきと家をでた。

折しも花粉の時期。

風に吹かれた瞬間、彼は真っ赤に染まった。




『猫は家に憑く』

祖父が急死した豪邸に引っ越してから最悪だ。

小動物の死体が集まり、吐しゃ物が室内に現れる。

原因不明で母は半狂乱だ。元の家に戻る話も出ている。引越したくなかった僕としては大歓迎だ。

だから言えない。

夜、ふわふわの猫が布団に寝にくることを。




『 「「天然」」』

溶かして固めるだけでも頑張ったから。

そう言って彼女は、チョコでできた見事な黒鳥を渡した。本命チョコだ。

贈られた彼は頷き、WDのお返しに白鳥のクッキーを送った。

対で見せるため1ヶ月間食べるのを我慢したらしい。

彼女は本命を取り消そうか悩んだ。




『迷信』

地元には神社が密集してた。

どこも夏祭りを同日にやるけど、はしごは罰があたると噂されていた。

だから、好きな子の浴衣を見るには、どの社に行くか当てなねばならなかった。

恋愛運向上の神社で片思い相手が来るのを祈る学生、これが地元での夏の風物詩だった。




『近所迷惑』

彼は昼夜で人格が変わるようになってしまった。

昼は冷徹会社員、夜は酒好きDJ。

二心同体の彼らは忌々しく思っていた。彼のせいで1日が12時間しかないのだ。

いがみ合いは殺し合いに発展した。

でも心だけ殺す方法なんてあるのか?仲良くした方が良くないか?




『真面目な先生はサボりがお下手』

学校でオンライン授業が始まった。

担任は厳しく生徒の内申点を下げる人だ。

オンラインでも頑張らなきゃ。

「皆おはよう山田いないな」

そう言う担任に違和感がある。

先生、動画に声入れてる?

あっ声では山田を叱っているのに画面では笑ってる。

大人でもサボるんだな。




『不幸せなレストラン』

昨日から幸せを感じると逮捕されるようになった。

なぜかは知らない。大事なのは俺が料理人だということだ。

どうやったら法に反せず、看板メニューの幸せになるほど美味いシチューを提供できるだろうか?

俺は皿に条文を彫り込んだ。食べ終わったときによく読めるだろう。




『安直』

巨人族と共存するにあたり、巨人用の製品を開発したいと思う。

例えば鏡ひとつとっても、人間用では彼らの喉までしか写らない。

問題は、大きくするからと単価を高くすると、巨人差別だと非難されることだ。

結局、妖精用極小鏡も同額にして乗り切ることにした。




『妖精の気を惹くと面倒なのに』

亡国の王子がキャンピングカーで旅をしている。

国滅亡関係の追手が来るため、諸国を巡っていた。

困るのは、言語と金銭感覚だ。

冬になればどこも物価が高くなる。

自然と夏を迎えた国を巡る彼は「向日葵の妖精関係者」と噂されていた。




『ふにゃらかのピ化処理藻添え』

「本日はふにゃのらか込みに藻添えて、一味違う家庭料理を作りましょう。

舌も家庭の概念もない皆様は、この後すぐ番組『実体化講座』でご満足頂けるはず。チャンネルはそのまま」

「テレビ壊れた、また第110101銀河のWifi拾っちゃってる」

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ペイルブルードット 小早敷 彰良 @akira_kobayakawa

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