三
「まもなく終点です、お忘れ物をされませんよう、今一度お手回りをよく確認の上、お降り下さいませ」
アナウンスの声で目覚める。
冷や汗と。
心臓の高鳴り。
窓には夜明けに浮かび上がる都市の光景。空の色は鈍く、重い。
夢の記憶は飛び上がるヘリコプターのようにフェードアウトしようとする。
離れたがるように、こちらの意志と関係なくとりとめのない形になってしまう。
寝起きのぼんやりとした意識の中で夢の中身を掴んでおこうとする。
雪。
少女。
汽車。
小さな駅。
終点の先。
事故の思い出。
星の似合う場所。
途中、目覚めた夜の出来事。
乗っていた女性を知っている。
夢に出てきた少女と同じ人。
いや、そんな事はありえないと分かっていても。
そうだという予感がする。
もし、今でも会えたら、あんな美人になっていたのだろうか。
久しぶりに乗る夜行列車だから、懐かしい夢をみただけかもしれない。
きっと忘れた頃になるたび形を変え、姿を変え、夢に出てくるのだろう。
いつまでも。
気になって車掌室に行こうと思ったけれども、放送の声が違うので思い留まる。
「雪だ」
「初雪だ」
他の客の呟く声が聞こえた。
窓から空を仰ぐ。
天に上がって消えていった夢と思い出が落ちてくる。
昔の友達の名前とか。
よく行ったお店の場所とか。
教室でのしょうもない出来事とか。
携帯にメッセージが届く。
〈政重:そろそろついた頃か? また会おうな〉
昨日まで向こうの地元で遊んで、列車に乗るまで見送ってくれた友達からだ。今でも繋がりのある数少ない同郷の友達。
本当に遠いところに来てしまった。故郷に戻るにも、今となっては遅すぎてどうしようもできない。
もうすぐで駅に着く。それに丁度、今雪が降ってきた、とすぐに折り返した。
汽笛を鳴らして、夜行列車はビルの隙間に置かれた駅に滑り込んでゆく。
さよなら、ありがとう、思い出しかないふるさと。
ただいま、おはよう、今の僕の街。
夜光列車 - Dream in Midnight train 雪夜彗星 @sncomet
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