二
今にも崩れそうな小さな駅の待合室で列車を少女と二人で待つ。雪が静かに降っている。
少女を前に平静を装っているが、内心は線香花火のように燻る思いで満ちていた。
「今でも待っている?」少女が声をかけてくる。
「何を?」きょとんとして言葉を返す。
「何でもいい」
「そりゃあ、誰だって何かを待っているんじゃないか?」
「じゃあ、あそこまで来てくれる?」
「あそこって何処だよ」
「星の似合う場所」
「はぁ?」
「じゃあね」
「ちょっ、きちんと質問に答えろよ!」
「がんばってね」
「はぁ?」
低いエンジン音を唸らせながら茶色い汽車がやってきた。そう、僕らはこれを汽車と呼んでいた。今にも壊れそうな車体を奮い立たせるように雪の中を驀進してくる。
「──できれば一緒に行きたかったけれど」
ホームに停まると幾らか静かになってドアが開いた。雪が灯りに煌めく中、少女は笑顔を見せ、乗っていく。ドアの前でこちらを向いた様子はまるで絵画だ。
彼女の後ろには何人か古い友人の姿が見えた。
「美知代! 修一!」
呼び切る前にドアは閉まり、声は雪に溶ける。
窓から少女は手を振っている。こちらも振り返すと、彼女は笑顔を大きくして、そのまま汽車は走り去っていった。星の似合う場所の方へ。
ホームから遠ざかる間際、彼女は口を動かしていた。その動きを反芻する。
『本当にありがとう、来てくれて』
前に「これで、おしまい」なんて言われた事を思い出す。
「いつまで、こうして会えるんだろう?」
雪が静かに降り続けるだけで答えはない。
忘れられないようにするためか。
忘れそうになっていたからか。
反対方向に向かう藍色の汽車がやってきた。乗り込むと客は僕一人だけ。
いつまでも降り続ける雪を窓からずっと眺めていた。
いくつかのトンネルを通る。
その度に体が強ばる。
「もうすぐ終点だから大丈夫ですよ」運転手に声をかけられた。「こんな時間だと他の汽車は走ってないですし」
小さく頷く。
運転手は昔遭った事故を知っているのかもしれない。
そのまましばらく走り続けた。小さな駅に停まっては、出発を繰り返す。その間、誰も乗って来なかった。
大きな衝撃で目が冴える。思わず身構えた。
「着きましたよ、お客さん」
さっきまで通ってきた駅とは比べものにならないほど大きい。
隣のホームにこれから乗る夜行列車が停まっている。
「ありがとうございました」
ホームに降りるとまず空を仰ぐ。雪は降っていない。
ただ空は厚い雲で覆われていて、星は見えない。
星の似合う場所に向かわなかったのだから仕方がないか。
「まもなく発車致します。ホームに降りているお客様は速やかにお戻り下さい」
急いで向かいのホームの列車に乗り込む。
ドアが閉まる間際、振り返るとさっきまで乗ってきた汽車はもういなかった。
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