一
決まった周期の揺れが止まるのを感じ、気絶のような眠りから微睡みへと移ろう。
乗っている列車が駅に停まったらしい。窓を見てもどこか分からなかった。時計を見たが本当なら走っているはずの時間だ。遅れているのかもしれない。スマートフォンの地図アプリを立ち上げて、現在地を見ようとしてもエラーが出た。こんな事が今どきあるのか。
今遅れていても、朝には予定通りに戻っているだろうと気を取り直して目を瞑る。
でもすぐに瞼の向こうに光を感じて目が冴えてしまった。
向かいのホームに列車が入ってきていた。車内に明かりはついていない。
気になって自分の座席を離れる。音を立てないように歩いていたつもりだが、それでも車内に足音が響いた。それぐらい静まっている。寝台特急ならまだしも、普通の座席ばかりの列車ではあまりこうなっている事はない気がする。だいたい車内灯も点いたままなので大体寝れずにいる人がいくらかはいるものだ。
そう、車内灯。普段はついているはずだが今は消えている。
何かが変だ。
ドアは閉まっていたが、手をかけると簡単に開く。
やはり、おかしい。
ホームに降り立つ。
向かい側に停まっている列車に近づく。一両だけのローカル線のようだ。
脳裏を何かが過る。
ホームを見渡してここがどこかを確かめようとしたが手がかりになるものが一切見当たらない。駅名の看板さえもない。
向かいのホームの列車に近づく。中は暗く人がいるか分からない。
藍色の車体だ。子供の頃に同じようなものに乗った事がある。
車内が気になったがドアは開かなかった。仕方がないので列車の横を歩いて様子を見て回る。
「まもなく発車致します。ホームに降りているお客様は速やかにお戻り下さい」
アナウンスが響いて急いで夜行列車に向かう。
背後から唸るエンジン音。
聞き覚えがある。
乗り込みながら振り返る。
車内が明るくなり、動き出した。
こちらを見ている女性と目が合う。
驚いていると、女性は手を振ってくれた。
「ドアが閉まります、ご注意下さい」
こちらの列車も動き出す。
何かを思い出させそうな気がしたまま、ドアの窓からさっきの女性を見つめる。
ローカル線は分岐していく線路の向こう、闇へと紛れていく。
こちらの列車はトンネルに入った。
自分の座席に戻る前に車掌室に寄る。今の駅がどこだったのか、さっきの列車が何だったのかを訊きたかった。
出てきた車掌さんの名札を見て胸の奥が騒つく。
古松 修一。
「さっきの駅の向かいにいた列車ですか? ええ、僕らのよく知っている『汽車』ですよ」亡くなった友人と同姓同名の人はそういった。
記憶に電撃が打たれる。
褪せた思い出か色づいていく。
綺麗な藍。
さびれた茶。
鮮やかな赤。
静かな白。
僕らは、あの汽車が向かった先の村にいた。
「なあ、修一、どうしてこんなところにいるんだ?」
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