2話

 ひとまずなんとかなりそうであると、友人から連絡が来た。

梅雨のころである。

そいつの要望でひっそりと戸籍が改竄される運びとなったそうだ。

なんとも徳の深い措置をしてくれたものだ。

行政と学校にはメディアに嗅ぎつけられぬよう、頑張ってもらいたいものである。


 性転換事件(私の勝手な命名)が起きていく日か。

私とあいつの関係はなにも変わっていなかった。

いつも通りただ意味のない会話ばかりをしている。

私はそのいつもと変わらぬ会話に安心した。

実はなにか変化がおきて友人と全く話せなくなってしまうのではないかと危惧していた。

なにごともなくて、一安心である。

しかし、最近少し話す機会が増えた気もする。

いつもは、なあなあで話していたが、最近はかのSNSで呼びかけられて、そこから会話が始まることが多い。

まぁ、あいつの友人関係がほとんどリセットされたからであろう。

寂しい奴め。


 さて、今日もまた議会に議題が投げられた。

あいつからの問いである。

『女子諸君とどのように付き合えばいいだろうか』


 「そんなことは知らぬ。」


私は、いつもの場所で、バッサリと切ってやった。

そいつは顔をしかめて、そんなことはわかっている、と言いやがった。


 「大方、お前は女子と話すことなどないから、そんな事言うのだろうと思ってた。」


なんだとこいつ。

まぁ、確かに女子と話す機会はあまりない。(ないわけではない。)

しかし、こいつよりも明らかに私のほうが話しかけやすいだろう。

私はとても紳士的で、こいつは扱いにくい奴なのだから。


 「ところがどっこい、私は女子になったのだ。」


なぬっ。


 「女子というものには付き合いがある。個々でいる男とは違い、社会性というものがあるのだ。」


なんてことだ。こいつは私より女子と親しくなりうる可能性をもってしまったのだ。

ニマニマと、あいつがこちらを見てくる。

ええいっ、忌々しい。

この議題、どうせ私のことを嘲笑うために投げかけてきたのだろう。

私が一人拗ねていると、すまんすまん、とこいつは気持ち悪い笑みを浮かべながら、私をなだめた。

どうやら相談したいのだということは、本当らしい。


 「いやなに、私の性別は女子になってしまったろう。元男が女子達とどう付き合うべきか。つまり身の振り方を知りたいんだ。ほら、男がズケズケと女の輪に入っては気持ち悪いであろう。」


なるほど、殊勝なことである。

変に真面目なこいつは、女子諸君の気持ちを心配したのだろう。


 「そんなもの、女子から見たならなにもわからないだろう。気にする必要はあるまい。」

 「いや、私が気にするのだ。」

 「ほう。」

 「こう、自身に気持ち悪さを感じるというか。振り返ると嫌な気持ちになるのだ。」

 「女子に馴れ馴れしく話す自分にかい。」

 「そうっ、そうだ。」


ふむ、ふむ。

なんて面倒くさいやつだ。

今までも面倒なやつとは思っていたが、まさかここまで拗らせているとは思わなかった。


 「面倒なやつめ。」


行ってやった。


 「真面目に答えろ。」


怒られた。さもありなん。


 まぁ、少しは考えてやろう。

ようは、こいつが女子に罪悪感感じることなく話せる方法を考えてやればいいのだ。

さぁ、どうすればいいだろうか。


 「女子に事実の告白。」

 「無理。」

 「実は男より女が好きなのといい、罪悪感を減らす。」

 「却下。」

 「女の子と付き合わないと死ぬという設定をつくる。」

 「論外。テキトーに言ってるだろう。」


なんだとっ。


 「ええいっ、知らんっ。そんなどうでもいいことは知らんっ。心底どうでもいいっ。」

 「そうか。」


友人はがっくりと肩を落とした。


 こいつは難しく考えすぎなのだ。

それが議論を変に捻じ曲げ、おかしなものにしている。

私はとても気疲れしたので、テキトーに、ことを述べてみることにした。


 「あれだ、気休めだが、女子と男子そんな変わらないと考えたらどうだ。」


理想論である。


 「どういうことだ。」

 「つまり友情に男と女は関係ないということだ。よく、男女で恋愛はなりたつかと言うだろう。変に男女を意識するからそうなるのだ。女子と話す時、一々そんなこと考えていては気疲れするだろう。そこでだ、友人は友人、恋人は恋人と分けるとどうだろう。」


口から出任せである。

まぁ、こいつはどーしようも無いほどに拗らせているやつである。

こんなポッと出の言葉で納得などしないだろう。


 「ほぉ、なるほど。」


なるほどだって。

ええっと、私、最初のやつらのほうが考えていたぞ。

こんなテキトーな答えが解決の糸口になるわけない。

なにがなるほどなのだろうか。


 「ありがとう、ようやく腑に落ちたよ。」


なんとかなっちゃったよ。

本当かよ、そんなほんのちょーっと5秒くらいで考えた陳腐な答えで納得できる奴じゃないだろ。


 「おっ、見ろよ、曇ってたのに晴れてきたぞ。」


私の友人はそういって、心底スッキリとした顔をして、空に指をさした。

待って待って、私まだ納得してない、納得してないっ。


 こうして今回もまた議論は終わりを迎えた。今回の結論はなんだかよくわからないものとなった。まぁ、それもまたいつものことである。友人は晴れやかな様子で、家へと帰っていったのだった。


 なお、私は未だにこの結論に納得しきれていないのだ。

こんな労力のかかってない言葉で解決するなんて。

本当はもっといい言葉をかけられたはずなんだ。

もっと、こう、うーん、うーん。

労多くして功少なし。

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