魔法操縦型家庭用車両(ファシナール)






「シュラさんが召喚魔法使えないことが少々不便ですね」



 シルエはまったく悪気がなく言ったのだろう。だが、俺の心にはまっすぐに突き刺さった。



「ごめんなさい、俺がこんなへぼで。でも、魔法のコントロールはいいほうだと思うから、その辺は任せて」



 村や小さな町ではあまり見かけないが、王国などの大きな国では魔法を使った乗り物や建物などがある。ネルの隣町には「ハルバード」という王国がある。そのハルバードには、他の国とはちょっと変わった魔法の使い方をしていて、と呼ばれている。



 乗り物は主に二つ種類がある。一つは、自家用か。二つ目は自家用じゃない、か。自家用の乗り物は「ファシナール」、公共の場を走る乗り物を「スクリュー」と呼ぶ。ファシナールは成人したら誰もが乗れるものだが、スクリューにはちゃんと運転手がいて、ファシナールと比べて移動速度が全然違う。便利ではあるが、その分のf(フィール:通貨)を払わなければならない。



「ファシナール運転なら私にお任せを。こう見えても私、この年齢で愛車持ってるんで」シルエは自慢げに言う。



「じゃあ、そのファシナールで、どっちが運転上手か確かめようじゃないか! ちなにみシルエ、何歳なんだ?」



「17です。ステータスにあるはずですけど……、シュラ。運転上手は私ですよ」



 くそ、同い年かよ! ステータスに年齢があるなんて、人権ガバガバかよっ。ていうか、同い年でこんなにも魔法の差があるのに、それに加えて愛車持ちかよ。いったいどこのお嬢さんだあ。



 ネルの中心部から北側に進むと、がらっと建物がなくなり、代わりに高さ10mほどある木々が乱れて立ち並んでいる。さらにその奥を進むと、一か所だけ開けた場所が現れ、町の人はその場所を「公園」と呼んでいるらしい。その公園には歩いて10分ほどだったが、着いた時にはシルエが待ちくたびれた顔をして愛車にもたれていた。



「何分待てばいいのでしょうか。呑気に歩いてきたように見えますが、実はまだ心の準備がまだとかそーゆー感じですか?」



 清楚系なのか、実は意外とお嬢様系なのか……。事を上から目線で発言してくるところにに少々引っかかる感じもあるけど、まだ召喚して間もないけど仲間宣言をしたやつだ、今はまだ慣れていないだけだ、多分。



「あんたは自分のファシナールがあるからいいけど、こっちはないんだよ。それとも、運転上手とか言いながら実はすぐ事故しちゃうみたいなそんな感じですか?」



 冗談交じりでさっきの発言を言い返すように言ってやった。するとシルエは予想外の行動をした。どうせ「何を言うんですか、私に失敗という文字は存在しません」とでもかっこつけて言うのかと思えば、シルエはすぐに口を開かずに、人差し指どうしをくっつけると、そのままそっぽっを向いてしまった。



『図星っ?!』



 いや、冗談で言ったはずなのに、まさかそんなわけないよなシルエさん。運転なら任せてくださいって言ってたのはただの強がり? いや、そうだとしてもそこまで下手じゃなくて許容範囲ならばまだ許せる。それに彼女、ステータス的に強い魔法持ってるっぽいし。



 それにしてもシルエ、全然あそこから離れないな。ずっと愛車のよりかかったままで。それに、唇を不器用に突き出して力のない口笛を吹いているけど……。嘘下手かよ! 本当にこんな感じで茶化そうとする人いるんだなぁ。



 ていうか今思ったけど、その愛車はどこから持ってきたの。召喚したときは当然なかったのに。四次元的な白いポケットが存在するなら合点がいく。まぁそんなことはどうでもいいわけで、なぜシルエがずっとあの場で直立不動なのか、俺は一つの仮説を立てた。



「おいシルエ、早くそのファシナールで運転を試したいからどいてくれないか」



「……やだわよ」シルエはまた口笛を吹き始める。



 やっぱりそうなのか。シルエはきっと、この公園に来るまでにどこかに衝突してしまったんだ! そしてその傷を防ぐために、こうやってファシナールの前をどかないというわけだ。



「シルエ、ファシナールで運転上手を決める勝負はどこにいったんだ!」



「そんなの知らないわよ! また今度やってあげるわよ!」



 まさかの放棄したー。なぞこうまでも嘘をつき続けるのかは不思議だが、この勝負は絶対にやらないといけない。なぜなら、この先が不安だからだ。このまま運転技術が皆無(かもしれない)なシルエにファシナール当番を任せたら、命の保証がない。それに、俺はまだファシナールを運転したことがない。



「いいから、そこをどいてみろっ」



 俺はシルエを無理やりファシナールからどかすと、そこには予想より遥かに上回るほどの大穴が開いていた。そう、ファシナールに。貫通とまでは至ってないものの、ファシナールの内部が見えるほど穴はがら空きだ。逆にどう運転すればこんな大穴が開くのかを知りたい。



「おい、シルエ。どうすればこんな大穴が開くんだ?」



「し、知らないわ。これは、私のファシナールが自分の意志で木に突っ込んだ結果よ。私は知らないわ!」シルエは頬を赤らめてそっぽを向く。



 なんてわかりやすい嘘をつくのだろう。さっきまで上から目線の女王様気取りだったのに、今では子供のような嘘をつくまさに子供そのもののようだ。これがという人なのか。



 もしかしたらこのファシナール自体が操縦困難な可能性がある。ファシナール運転歴が俺が運転すれば、ファシナールは跡形もなくあちらこちらに部品が転がり落ちるだろう。そう考えると、この勝負はやらない方がいいのかもしれない。



「シュラは運転がよほど上手なのね。逆に大穴が開かない方法を教えてほしいくらいだわ」



「……いや、穴は普通は開かないだろ。だからと言って俺は完璧と言えるほど運転は出来ない。よって、この勝負はなかったことにしておこう」



「それは勝手すぎるわ。シュラのファシナールさばきをまだ見れていないし、それにまだ運転すら見ていない。よって、この勝負はまだ続いているわ!」



「先に聞いておくけど、このファシナールが跡形もなくボロボロに壊れたらどうする?」



「それって、私の愛車を事故らせる気? 冗談じゃないわ! 私のファシナールが可哀そうだわ」



「かわいそうだよお前のファシナールは! お前の酷い運転技術で、ファシナールはこのざまだ。これ以上このファシナールが傷ついてほしくないだろ!」



「そうよ! このファシナールには色々と思い出があるから、傷つくのは思いの外よ……。でも、シュラ、あなたにはしっかりこのファシナールで運転してもらうわよ」



「だからなんでそうなるんだよ」



「あなたを信頼しているからよ」



「その自信はどこから湧いたんだ……?」



「勘よ。なんかやれそうな気がするからよ」



「お前の思い入れがあるファシナールに、そう簡単に乗ってもいのかよ。ちなみに俺は一度もファシナールに乗ったことがない!」



「ええ、全然平気よ。なんでか知らないけど、どうやら私開き直ったみたい。思う存分かっ飛ばしなさい!」



「――わかったよ」



 意外と軽いドアを開けると、中には四つの座席と一番前左の座席には運転

 席になっていて、ハンドルが肩の位置に設置されていた。



 乗る前にシルエに操縦の仕方を聞いたけど、「魔法を使うの」とだけしか言われなかった。ハンドルを握って、言われるがままに手に魔法を集中させる。すると体がふわりと浮遊する感覚を感じる。ファシナールが浮いたのか、ガラス越しに見えるシルエの姿は小さく感じた。



 前に進みたいから前に進む感じで魔法を押して……動いた! 魔法の出力加減で速さが変わるのか。

















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都合がいい召喚魔法は存在しません ちとせ そら @TitoseSora

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