召喚されたのは、魔法使いの女の子でした






「お主、召喚魔法を一回つかってみぃ」

「使うって、俺まだ一回も使ったことねーよ」

「お主のステータスを見た感じ、魔法欄に『Fランク獣 召喚』と書かれておるぞ。お主、自分でステータス見れないのか」



 俺は首を上下に「うんうん」と動かした。そして老婆は俺の方へ手のひらを向けると、手の先から魔法を放った。この場合が正しいのか。どちらにせよ、その魔力はどんどん俺の体の中に入っていった。



「これは?」

「簡単に言うと、取扱説明書のようなものじゃ。魔法本体をコピーしてお主にあげることは不可能じゃからな、使えるようにするための補助的なもんを今送った。頭の中で強く自分についてを想像するんじゃ」



 俺の名前、使える魔法、俺という存在を想像すると、スキルなどが書かれた文字がARのように宙に浮かんで表示された。念のために魔法欄を確認するが、もちろんそこには『召喚魔法』の気の毒な文字しかなかった。



「ステータスの表示はもう完璧かな。では、召喚魔法を使ってみぃ。狭い空間じゃがFランク獣じゃろ、コボルト辺りが出てくるくらいじゃろうし」



 ステータスの召喚魔法欄には、召喚魔法についての詳細が載っていた。どうやら魔法陣を頭の中で想像すると、それが実際に現れ、そこに集中する魔法量によって召喚される魔物が異なるらしい。説明によれば、手ごわい大便と戦闘する時に使う体力が、Fランク獣の召喚に使う魔法量と同じくらいらしい。



 しかし、『特性:X』ってなんだ、これ。ステータスの一番下にポツンと書かれていた特性。まぁそこまで気にするもんはねーか。老婆に言われた通り、コボルト辺りの小柄なモンスターが来るんだろうなと思いながら、召喚したい場所に魔法陣を想像する。



「できた。あとはここに魔法を集中してっと……」緑色に光る魔法陣が出現し、そこに魔法を集中したら、今度は暖かい白に光った。来るっ。俺はその瞬間、いったいどんなモンスターが来るんだろう、と思って目を輝かせた。その輝きぐらいに部屋が光に包まれると、その光の中からモンスターが現れた。



「最初の、モンスター! って……、え?」



 そこにいたのは、コボルトとか言うFランモンスターではなくて、人間の女の子だった。白い肌に白い髪質、魔法使いなのか? 魔法使いが着るような黒いローブを身にまとっている。山脈は……というと、登山レベルDよりのCか。いい山脈だ。



「――ここは?」魔法使いが喋る。

「ここはとある占い屋で、俺はシュラ。召喚魔法でFランモンスターを召喚しようと思ったんだけど……。君、コボルト?」



「そんなわけないじゃないですか。私はシルエ、なんで召喚魔法に私が選ばれたのか知らないけど、私は見ての通りコボルトじゃなくて魔法使い。今自宅のトイレから出てきたところよ」



 もうちょっと早かったら修羅場になっていただろう。てか、その格好でトイレに行ってたの? うわーいちいち脱いだりするのだるそう……。



「大変ですね」

「あなたに召喚されて大変ですよまったく」

「すみません……」



 シルエは「はぁ」とため息をつくと辺りを見渡した。と言っても狭い部屋だし、変な老婆が営む怪しい店だけど、特に怪しいものなどはない。はずだ。そういえば自分もよーくこの部屋を見ていなかったと思い、辺りを隅々まで見る。



 見てわかった新しい情報はというと、まずは実験で使うようなガラス容器に入った紫色の液体に入った蛇の死骸。そして、見たことのない色や種類の昆虫たちの標本。最後には、人間なのか、人の骸骨が棚の上に置かれていた。よくこんなものに気付かなかったと自分の目を疑った。どれもこれも、気味が悪い。



「なんなのこの骸骨……。気味が悪いわ」シルエと俺の考えが一致する。

「それは昔懲らしめた盗賊の首じゃ。実に骨格がよくてな、つい標本にしたくなっちゃったんじゃ」

 いやいやいや、そんな発想には至りません! やっぱりこの人のいう事はおかしいんだ! 試しにもう一回自分のステータスを確認する。でも、そこにあるのは『召喚魔法』の心配になる四文字の漢字だけだった。



『いや、このステータス自体がおかしいんだ』

 最後の賭けに出ようと、俺はシルエを見つめて魔法の流れに集中する。いつも自分にやっていることを、相手にかぶせるように……。できた! 自分のステータスを見るときと同じように、シルエのステータスが表示される。

 おーし、どれどれー……。



【シルエ・ライマール】


『適合魔法』

 ・氷魔法

 ・雷魔法


『魔法』

 ・Baランク


『性格』

 ・とてつもなくせっかち



『いろいろツッコミたいところがある……!!」

 何なんだよ、俺が夢見てた二刀流使いやがって。それに『魔法』Ba? なんだそれ。そして最後。これに関しては得する情報なのか?! 



 まずは確認でもするかな。

「シルエ、でいいかな。どんな魔法が使えるの?」

「魔法は氷魔法と雷魔法です。ちなみに魔法はBaです」

「そうなんだ、すごいね。あと……」

「――あと、何ですか? 早くしてください」



『何でもないよシルエさん、なんだよこのステータスめためた有能じゃんっ!!』

「Baってなんのことかなーって思って、なんかの階級とか?」

「その通り、Baはある階級のことを表しています。『魔法』というものは人それぞれ強さや万能さがあるんです。その平均値を表すものがこのBaのような階級です」



 そんなものがあるのか。俺は昔から魔法のコントロールに自信があったから、きっとAくらい行くんじゃないのかな。そう思って自分のステータスを確認すると、『魔法』欄には「めちゃめちゃいいのになぁ」の後にBbと書かれていた。



「なぁシルエ。Bbってどうなんだ。いいのか、それとも悪いのか?」

「Bb……とてつもなく、普通よ。とてつもなく」

「とてつもなくっておまe……どんくらいなんだ」

「魔法ってどうも強い力と弱い力の差がありすぎるのよね。魔法の最高峰はSsと呼ばれているわ。初代魔法使いがそのくらいと言われているわ」

「初代魔法使いって確か、ルーべrうぅ」

「ルーベル・ホスキスマス。このぐらい、魔法使いなんだから覚えときなさい。――で、魔法の一番下がDc。魔法のコントロールが出来てきているぐらいの子供がここら辺ね」

「となると、Bbは。……普通だ。普通過ぎる。あ、でもシルエの魔法はBaだろ、そんなに変わらないんじゃ?!」

「変わります。底辺のa~cではそれと言って差がありません。しかし、上位ランクになってくると、上位のa~bの間にはDランクからCランクほどの差があるとかないとか」



 なんだよそんなルール、誰が決めてんだよ!! 

 しかし、強さがどうとか決める基準がこれしかなさそうなので、シュラはふてくされる。



「そんな顔しないでください。見た感じ、シュラはさんは魔法使いなりたてっぽいですもんね、それでBbはすごいと思います。」

「シルエはどんくらいだったんだ、魔法使いなりたてのときは」

「私はランクそのものがなかったです。私は生まれつき魔法が弱かったので、周りの同級生がうまく魔法を使いこなしているところをいつも遠目で見ているばかりでした。でも私、悔しかったんです。私だけ仲間外れにされているのが。だから、人一倍に努力をしました」



 シルエがたくましそうに話す姿を見ると、Baというただのランクが、特別にかっこよく見えた。と同時に、自分のランクと召喚魔法という言葉も、自分だけの特別な個性のように感じた。



 召喚してまだ間もないのに、シルエという人物の事をもっともっと知りたくなっていた。



「これはあれだな、『仲間』じゃな」老婆が再びカクテルを振り始める。

「それだよ老婆! 仲間だ仲間!」

「わしは老婆じゃなくてじゃ」

「そうか、ピノばぁ!」

「んー、悪かねーな」ピノはカクテルを振るのを辞めると、中に入っていた透明な液体を小さめなワイングラスに注いだ。



「なぁシルエ! 俺の仲間にならないか?」シュラはシルエに手を差し出す。

「仲間……、いいわね。私を召喚した罪は重いわよ、シュラさん」

なんてやめろよ、くすぐったいじゃねーか。シュラでいいよ」

「あぁ、わかった。よろしくね、シュラ」シルエはシュラの手を強く握る。






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