適合魔法は、召喚魔法だけ?!






「お前さんは召喚魔法に向いてるな」



「しょーかんまほー?」



「そうだな。それにお主、召喚魔法しか使えない体じゃ。魔法のコントロールが出来てもなぁ」



「召喚魔法、オンリー……??」






『占いやぁ』に入ると、中はバーテンダーのようにカウンター席がずらりと並んでいて、カウンターを挟んだ向かいに一人の老婆が黒白のユニホームを着てシェイカーを器用に振っていた。



 店内に入ると俺の存在に気付いたのか、シェイカーを振るのを辞めると「いらっしゃい、占いに来たんだろ」とだけ言うと、シェイカーからグラスに透明な液体を移し、「ここに座りなさい」と誘導するように長椅子の正面に置いた。



「あんた、まだチェリーボーイだなぁ。彼女できたことないじゃろ」



「いきなりなんですか、失礼な。それに彼女くらいできたことありますよ」



 早々何を言うんだと思えば……。長椅子に座ると老婆と同じ目線になり、老婆のよぼよぼな目を見る。本当に大丈夫なのか。さっそく先行きが怪しくなってきて、こっちまで目がよぼよぼになる。



「どうやって占ってくれるんですか、おばあさん」

「誰がおばあさんだい。私はまだぴちぴちの99歳じゃ」



 99歳って、ぴちぴちでもよぼよぼでもねー。からっからだ。おばあさんはジャケットの内側から杖を取り出すとそれをじっと見つめる。



「おばあさん、どれで占ってくれるんですか。その杖ですか」

「それじゃ」おばあさんは杖で透明な液体の入ったガラスを指す。

「この液体ですか?」



 きっとこの液体にはとてつもない何かが入っているのかもしれない。それにしても透明すぎじゃないか……?



「この液体って、何ですか」

「これはな、水じゃ」

「水?」

「そうじゃ。一口飲んでみ」



 飲んでもいいものかと思ったけど、俺は躊躇なくグラスに入った水を飲む。それは確かに水だった。でもちょっと何か違うような。



「これって、ただの水ですか」俺はグラスを置く。

「ただの水ではない。それはトイレの水じゃ」

「おえっ、ゥヲロロロロ……。せーふ。っておい! 何飲ませてくれてんだ!!」俺は水を勢いよく吐き出すと、中の物まで一緒に出そうになる。



 トイレの水だ? 冗談じゃない。いくら透明でもトイレの水だ。しかもどっちの方かを知らない。上の流れている水なのか、それとも下にあるメインルームの水なのか。上でもまあまあアウトに近いのに。



 いや待てよ、この老婆はさっきこの水をシェイカーで振っていた。という事は、それなりの措置を行っているはずだ。でなきゃ、「飲んでみろ」なんて言わない。そうだな。そのはずだ。



「ところで老婆、この水に何か手は加えられているのか? 浄化とかなんか、綺麗にするための処置を」 

「いやぁ何も。100%自家製のトイレ水じゃよ。何か問題でも?」



 問題しかねーよ!! それになんだよ自信満々に100%自家製とか言いやがってー!



「じゃあさっきのシェイカーは何だったんだよ。カクテルのなんでもねーじゃんか!」

「シェイカーは雰囲気作りじゃ。占いに集中するために、昔からああしておる」



 この老婆駄目だこりゃぁ。雰囲気作りくらい他で代理とかできないの? しかも占いって、忘れかけてたわ占い。トイレ水の印象強くて、一瞬ここトイレ屋かと思ったわ。とりあえずトイレの話から遠ざけたいが、最後にこれだけは聞いておこう……。



「確認なんだが、このトイレ水、トイレのどの部位から仕入れたんだ?」



 老婆の目がキランと鋭くなる。



「メイン、ルゥーム」



「メインる……」シュラの頭上に大きな雷が落雷し気絶してしまう。そしてシュラは頭から床に「ドン」と鈍い音を立てて落ちてしまう。



「ちょっとあんた、大丈夫かい」老婆の問いかけには全く反応せず、シュラはその後1時間ほど起きることはなかった。



 ――――――――――



 ここは? 目が覚める、というよりか、何かを見ているに近い感覚。目の前には、結構若いな。20歳ぐらいの女性が顔や腕に傷を負っていて、胸元に付けているエメラルドグリーンの結晶がぎらりと輝く。




「君にしかできないんだ。それが君の役目なのだから」



 役目、何を言っているんだこの人は。目の前には大きなお城のような建物が、全体を焼き尽くすほどの大きな炎で覆われていて、今にも崩壊しそうな状態だった。



 場面が変わる。そこは草原。見たことのない場所だ。しかし、どこか懐かしい。おかしい、なんでこの場所を知っているんだ。そして、そのあとの事も……。



 ――――――――――



「――やっと目を覚ましたかい。大丈夫かいあんた、いきなり気絶しおって」



 ここは……。どうやら長い時間眠っていたらしい。ほんのちょっとしか覚えていないが、さっきの光景は一体? 燃える城に、あの草原。何だったんだ。思い出そうとすると、記憶はだんだん遠のいていく気がしたので、心にとどめておくことにした。



 俺は立ち上がりながら、痛む頭を右手でおさえた。



 ていうか目が覚めたってことは……。



「トイレ水はもう飲まないからな!!」

「あれはただの誤解じゃよ、本当じゃ。ちと試したくなっただけなんだ」

「え?」俺は長椅子に腰かける。



 老婆が言うには、「あの水はちゃんとした飲み水で決してトイレ水ではない」とのこと。まぁ本当かどうかは明確にはまだ信じきれていない。占いで使う水だから、それなりに良い水なのだろう(と信じたい)。



「お主、先ほどこの水には何にも入っていないと言ったな。あれは嘘だ」

「やっぱり嘘なのかこの下水道老婆め!!」

「誰が下水道じゃ。しっかりとした水道水じゃよ」



『しっかりとした水道水?』

「まぁその水だが、この水にはわしの魔法が加わっている。最初のシェイカーがこのための準備、まぁ雰囲気づくりは嘘ではないな」

「はいはい。んで、水に魔法を入れるってどういうことだ。魔法は物体に間接的にしか干渉できないはずだが」



「よく知っておるな。浮遊魔法などの物体に効果を与える魔法なら確かに干渉できる。しかし、炎魔法などの物体として存在する魔法は、他の物体の中に入ることはできない。先に言っておくが、わしの魔法は水晶魔法。水晶に触れた者の過去とある程度先の未来、そしてその者の能力を全て見ることが出来る」



「水晶魔法って、炎魔法と同じ水晶として物体を持っているよな。じゃあ水晶は水に入ることはないから……、俺は水晶が原子レベルにまで分解された破片を飲み込んだって事か?!」



「そんなことはしないさ。お主が口にしたのは水晶魔法が水に溶けたものじゃ」



「え、でも、水晶は溶けたりしないんじゃ」



「魔法使いはある一定の数値を超えると、『魔力化』という魔法本来の姿を見せるんじゃ。その魔力化を駆使することで、どんな物体にも魔法を溶け込ませることが出来る。その応用がこれじゃ」



 そう言うと老婆は、魔法陣から一本の杖を取り出す。しかし、その杖は、杖ではなくどちらかというと枝のようにも見える。



「それって、枝、ですか」

「そうじゃ、これはそこらへんにある木の枝じゃ。しかし、この木の枝に魔力化を使うとどうなる」



 まさか、と思い俺は枝に集中する。昔からやってきた魔法コントロールのおかげで、どこにでれほどの魔法があるのかおおよそ感知することが出来る。今感じるには。枝からは何の魔法も感じない。



「よく見ておれ、一瞬だからな」そう言うと老婆は手元に魔法を集中させる。次の瞬間、手元にあったはずの魔法はいつの間にか木の枝のほうに移っていた。すごい。ただの木の枝が魔法を持っている。これじゃ完全に。



「杖じゃないか!」俺は思わず立ち上がる。両手をカウンターに乗せて、杖を覗きこむように見つめる。



「お主は水を飲んだからな、どんなステータスなのかじっくり見させてもらったわい」

「え、もう終わったんですか」俺は再び長椅子に座りなおす。

「まぁな。その杖はお主にあげる。お主が使える魔法に最も適しているからな」

「俺に、適した、魔法?! なんの魔法なんだ! 俺が最も使えるっつー魔法は」



 シュラは目をきらきらに輝かせ、しっぽを素早く振る。魔法使いとして最も大切な適性な魔法。これによって、今後の魔法使い人生が大きく変わると言っても過言ではない。普通は緊張する場面だがシュラの場合、興奮の方が上回っていた。



「お前さんは召喚魔法に向いてるな」

「しょーかんまほー?」聞いたことのない魔法に一瞬、頭にはてなが浮かぶ。

「そうだな。それにお主、召喚魔法使えない体じゃ。魔法のコントロールが出来てもなぁ」

「召喚魔法、オンリー……??」



 頭の中が真っ白になる。召喚魔法しかってことは、炎魔法や雷魔法が使えないってことなのか……?



「俺のステータスはどうなってるんだ。本当にそれしかないのか?」

「お主のステータスは……、見るべき場所を見ると、こう記されておる」




【シュラ】


『適合魔法』

 ・召喚魔法   dake


『魔法』

 ・めちゃめちゃいいのになぁ。   mottainai




「なんだよ、だけとか、もったいないだとか。本当に大丈夫なのか、お宅の水晶魔法はよぉ」俺はいかめしい顔で老婆を睨む。

「すまないけど営業妨害は受け取らんのよ。それに、その杖は召喚魔法を使う際の魔法量を激減させることができる(しかできない)ちょー優れモノじゃ」

「おい今ちょっと、しかって言ったよな。聞こえてるぞこっちまで」



 はぁ、召喚魔法か。魔法を二つ使いこなす二刀流とか夢見てたけど、無理そうだな。他の魔法使いもこんな感じなのかな、そうであってほしいぜ。まぁとにかく、召喚魔法、確かに悪くはない響きだ。



 召喚魔法、これが俺の魔法使い人生における、唯一の武器だ!



 この時俺は予想もしなかっただろう。この召喚魔法が、どれほどまで使い物にならないクズ魔法なのかを。



















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