都合のいい人生は召喚できませんか?

魔法使いと言えば『杖』だよな






 故郷の村を出発し、最初の朝を迎えた。実家から持参してきた寝袋が以外にも寝心地がいいので、これからの睡眠には問題がないので安心だ。



 そして安定の大便は人生で二度目となる野糞で片づけた。一回目は、どうしても我慢できなくてフィネの家の裏でこっそりしたのを覚えている。排出物はバレないように、落ち葉でカモフラージュした。匂いは消せないけど……。



 そんなこんなで俺は魔法使いを目指すわけだが、魔法使いと言っても色々な種類がある。攻撃魔法や治癒魔法、科学魔法に技術魔法。専門とする魔法で仕事をしているわけだが、最近は科学魔法と技術魔法が合わさった「科学技術魔法」なんかもある。



 色々ある中で、魔法使いにはあるしたものがある。それは、杖だ。「魔法使いと言えば杖だよな」と言われるほど、杖は印象深いものだ。杖は魔法ではなく、魔法を使用する人自身に影響を与える。



 杖を使えば魔法の威力が上がるし、習得が困難な魔法だってちょっとした手を加えれば、すぐにものに出来る。



 そんな杖だが、杖と言ってもただの木の枝では意味がない。しっかり魔力が流れている物では意味がないのだ。つまりだ、杖は「買う」しかないのだ。しかし安いのだとそこまで意味がないし、だからと言って高いのにすると家の半分は買えちゃうし……。



「とりあえず街に行きますか」



 昔の記憶を頼りに、子供の頃行ったことのある街に向かった。






【初心者の街・ネル】



 野宿した場所から一時間くらいでついたここネルは、他と比べ武器や道具が安価な割に、意外としっかりしていてしかも品ぞろえもいいので、初心者魔法使いにとっては優れた倉庫だ。



「とりあえず情報収集かな、情報屋があるはずなんだけどな」



 大抵の街には情報屋と呼ばれるその名の通り情報を専門としている場所がある。そこにいる人達は「通信魔法」によって、国中から情報を仕入れそれを住民に新聞や掲示板などによって提供している。ネルのような駆け出しのルーキーがこぞって集まる街では、求人や武器の仕入れ情報などが多い。



「いらっしゃい若造、どんな情報が欲しいんだい」



 情報屋の店内には色々なポスターやチラシが壁一面を覆いつくし、そこの中央にポツンとカウンターが設けられていて、そこに座っている眼鏡をかけたおじさんが慣れた口調で接待をする。おれは指定された対面にあるパイプ椅子に腰かける。



「杖が欲しいだけど、特化したものじゃなくて、全般的に使えそうなものを」

「わかったよ、まだどんな魔法使いになるのかは決めてないようだな。どんなもんに興味があるんだい」

「攻撃魔法か科学技術魔法です」



「科学技術魔法か、それはちと難関だな。実績を積んでからをおすすめする」

「そうなると、攻撃魔法ですかね」



「そうだな、攻撃魔法は魔法の中でも簡単に覚えやすいけど、意外と奥が深いものでね。それに、攻撃魔法となると4人組のパーティーを組んで任務に出る必要があるから、それだけで食っていくには、最初の頃は苦労ばっかさ」



 おじさんはカウンターに杖についての情報がいくつも書いてある資料を並べると、そこにある一つの杖を眺めた。



「おじさんは昔、パーティーを組んでいたんですか」

「まぁな、40年も前だけどな」



 一段トーンが下がったように感じた。あまり良くない話なのかもしれない。おれは少し前かがみになる。



「あの時私たちのパーティーは調子が良かった、そこそこの盗賊を片っ端から掃除したり、当時の六神の一人だって倒したからな」



「六神ってなんですか」

「六神っていうのは、反王国勢力の幹部6人の事を言ってな、その力はあまりにも強大なものだから、王国はその者たちのことを六神と呼ぶようにしたんだ」

「その六神を倒したんですか、すごいですね! どんなパーティーだったんですか」



「私たちはウィグルというパーティー名で活動していた。バリバリの攻撃チームでな、3人攻撃の1人治癒だった。その一人には色々と手間かけたな――」



 おじさんは思い出に浸るように話す。楽しかった思い出は笑って話すし、パーティー総出で敵を倒したっときは力強く話した。話を聞く限り、とても仲がいいんだなと感じさせられた。こんなパーティーが組めたらな、とうらやましく思う。



「――長い戦いの末、私たちは勝利した。三日ほどだった。だがな、勝利には失うものが付き物だ。私たちは一人の仲間を失った。あまりにも失うものがデカすぎた……」



「――誰が、亡くなったんですか?」

「彼女の名はリーネ。唯一の治癒魔法の使い手だった。彼女の治癒魔法は王国一で、離れた腕を治すほどの魔法を使えるほどだ。あれは治癒どころではない。再生魔法だ」



「そんな人が実在したなんて。再生魔法……、あまり聞かない魔法ですね」

「それもそのはず。彼女の魔法は彼女しか使えないものさ。オンリーなのさ」

「オンリー……」



「――本題に戻るか。続きはまた今度だ。ほれ、どれがいい」。おじさんは資料に描かれている杖を指さすと、「これもいいな」などとおすすめの杖に指をなぞらせる。



 おじさんが紹介する杖は聞いた感じ、どれもよさそうな物がたくさんだ。攻撃魔法全般で使える杖から、炎魔法・水魔法・雷魔法など、専門に特化した杖まで。多種多様な杖を知ると、どの魔法を使おうかごのみしてしまう。



「どの魔法を使いたいか迷っている最中だろ」



 心を見透かされた気分でいると、おじさんは「いいとことを知っている」となんだか都合がいい話を持ち掛けてきたので、乗ってみることにした。



 「そこはな――」情報屋を出て右に曲がったところを100m。そこを左に曲がった狭い路地の先にそれはある。話通りにたどり着いたその場所は、大通りにある店の中でも一際目立つピンクが主張の外観で、そこには大きく『占いやぁ』と書かれていた。ていうか大通りに出るんだったら狭い路地歩く必要あったのか……。そこを通った時に、変なべとべとした液体踏んで靴底にへばりついているし。



 俺は歩きながらそのべトベタを地面と擦り合わせて全部取り除いた。



「その店で、自分に最も適合する魔法を教えてもらってこい」



 店の前に立つと、さっきのおじさんが言っていた話を思い出す。それにしても占いって……、大丈夫なのかな。







 

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