第12話 モンスターブリダーズトーナメント一回戦:後編
いつの間にか修繕されている城の前まで立つと少し匂った。
流石インスタントダンジョンと言ったところだが、こんな匂いはしただろうか?少し酸っぱいともいえる匂いは城の奥底から匂ってくる。
門を開けると匂いはより一層濃くなる。鼻を突くような匂いが脳裏にある嫌な予感を生み出した。
「もしや?」俺は急いで駆け出した。匂いの元は最初にマコトが2匹のキングゴブリンとメイジゴブリンを奥へと追いやったあの部屋から
その扉を鎧スライムでこじ開けると、酸っぱい匂いは強烈な臭みへと変わった。油断してしまえば吐いてしまうほどの汚臭。
眼すら開けにくい部屋でアユムは目を疑いたくなるような光景が待っていた。
「ギャギャギャ!!」小さなゴブリンの群れというべきだろうか?マコトの周りに小さなゴブリンが烏合の衆を作り出している。
そして何より、何とも言えぬ匂いはクイーンゴブリンのほうから匂っていた。それもそのはずだ。腹と体は何倍にも膨れ上がり、今もゴブリンを生み出しているのだ。
嫌な予感がさらに加速した。こちらに子ゴブリンが気づいたのだ。それにはマコトも気づき、嬉しそうに言った。
「助かったよ」と次には波のように子ゴブリンたちが押し寄せ、俺は急いで鎧スライムの後ろへと隠れるとスライムたちに指示をした。
「後方に下がりつつ、出てきたやつを一匹ずつ動けなくしろ!」出場魔獣ではないため、殺してしまっても何も問題はないのだが、後味が悪い。
「お前ッ!何をやっているのか分かっているのか!!子ゴブリンは!!」
「ああ。分かっている。だからこうした」俺はあまりの身勝手さに舌打ちをしスイセイの水を辺り一面にばら撒かせた。
ゴブリンは他の魔獣よりも知能が優れているため、使役するのはかなりの努力と時間が必要なのだ。それはゴブリン自身に自分を認めさせるほどの実力が無ければ。
だがこの状況は、その信頼関係すら出来上がっていない子ゴブリンが群生している。外に出してしまえば、何が起きるか分からない。俺自身でさえ子ゴブリンに捕まれば何をされるか。
一度に動きを封じるには?どうすれば?
ふと何か閃く、だが時すでに遅し、波となってやってきた子ゴブリンに押され、鎧スライムごと壁へと叩きつけられる。
肺の空気が全て飛び出る。声も出ない、出せない。だが言わなければ。言わなければ負ける。
「お、おま……がっ……だ」
聞こえたのか分からない。そもそも言葉を理解しているのかすら分からない。スライムたちが何かを分かったかのように子ゴブリンに核を狙われながらもスイセイがまき散らした水を吸い込み体を大きくしていく
やがてその体は入り口を塞ぎ、各スライムたちの体を押しのけながら巨大化していく。子ゴブリンもキング、クイーン、俺でさえ、スライムに押しつぶされていく。マコトの影はなかった。きっと咄嗟に逃げだしたのであろう。
城の壁を壊し、大きなスライム4匹が城を飲み込んだところで終了のゴングが鳴らされた。その時に俺は目が覚めた。終了のゴングと共に目がさえ、空を見上げていた。青スライムの透き通った体に緑の物体と共に空を映し出していた。
「勝負は決まったぁぁぁぁぁッ!!勝者!!アユム選手!!!最後に残ったクイーンとキングの動きを止め、残り全て子ゴブリンの動きを止めたぁぁぁぁ!完全勝利とはこのことだぁぁ!」
歓声が巻き上がり、スライムが抱えきれなくなった水を噴水のように吐き出し、第一回戦は幕を閉じた。
何とか勝ったと安堵の息をあげたスライム使いであった。
スライム使いの日常@しばらく更新停止中 青白い魚 @himanan8620
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