第11話 モンスターブリダーズトーナメント一回戦:中編

正直いって策があるわけではない。俺は、ほとんど逃げる間に崩壊してしまった城の一角でスライム1匹と息をひそめていた。

少し先ではスイトとスイミが剣を持ち、下っ端ゴブリンたちとつばぜり合いをしていた。つばぜり合いと言っても一方的に受け止め時間稼ぎをしているだけだが


「おい!出てこい!残りは8匹だ!!もう降参したらどうだ!!」マコトの声が鉄と鉄がぶつかる最中でも聞こえてくる。どんだけ声でけぇんだよと文句を言いながら、残り1匹をスライムを体に張り付け走りはじめた。


「おっと!?アユム選手。体にスライムを張り付けッ!マコト率いるゴブリンたちから離れていく!!敵前逃亡かぁ!!」

逃げるんじゃねぇ!ここじゃスライムの体の体を活かせない。


だがその逃げにクイーンゴブリンが反応し、マコトへとその行為が伝わる。

「敵前逃亡とは情けない。おいゴブリン!その2匹は時間稼ぎだ。もう合わせる必要はない」そう言いとつばぜり合いしていたゴブリンは動きを変え、2匹のスライム真っ二つに刀で切り裂くとマコトの元へと戻った

「時間稼ぎに付きあってやったがもう時間切れだ。スライム使い。やはりお前はそれほどの男だ」直ぐにアユムは追い付かれる。城の反対側、城裏の用水路付近。


「ああ。時間稼ぎに付き合ってもらったおかげでこっちも準備万端だ」インスタントダンジョンの用水路には基本的に水はない。

「せっかく付き合ってやったんだ、それほどのものを見せてもらおう」ゴブリン2匹が飛びかかり、その後ろにキングゴブリンが、それらを強化するメイジ。そしてゴブリンたちを鼓舞するクイーンゴブリン。

観客の誰から見ても残り6匹、しかも散らばらせたスライムはあれから音沙汰なしとアユムの負けは確定したものだと観客は所詮は初戦敗退のレアだけ魔獣使いだと再度確定させた。だがアユムは決して表情からは諦めの色はない。

それを真っ先に気づいたのは負けムードの中、アユムを応援していた。ハンスだった。この時のハンスはこう語った。

「5匹のスライムいるだろ?その中にスイセイっていうスライムがいたんだ。あいつはあのウォータードラゴンの一件に関わったスライムなんだが、最初からあいつを戦わせないのは何かあると思ってな」


そのハンスの言葉通り、慢心かそれとも自分のゴブリンたちによほど自信があるのか、マコトはスライムが得意とする水辺の近くへとやってきてしまったのだ。

いや水が出来た場所へとやってきてしまったのだ。インスタントダンジョンには基本的に水はないことはマコトも知っていた。だから考えたのだ。きっと最初の5匹のスライムは用水路に水をためるための犠牲。

だからここに来たって計5匹のスライムとしか戦わない。と高をくくった。スライムだと括った高が、そうさせる。


「これからとくと見せてやるよ。下級魔獣の意地ってやつを」アユムが宣言すると水辺の中から出てきた3匹のスライムを並ばせた。

「倒したはずの2匹が戻った所でッ!!」2匹のゴブリンがスライム2匹に張り付き核から体から抜き取ろうと刀を振るうなか、城の壁が大きく崩れ去った。


「やっとお出ましか。もう少し鎧を覚えさせておくんだったな」

「鎧を纏ったスライムだとぉ!!」キングゴブリンを鎧スライムにぶつけようとするが、間に合わず計4匹の鎧スライムの一撃にメイジゴブリンが吹き飛ばされ、場外へと吹き飛び事実上の戦闘不能となる。いくら魔法で防御していても場外に出てしまえば声も届かず事実上の負けとなる。

2匹のゴブリンもメイジゴブリンからの攻撃魔法が抜け、力技で押しのけていたスライムに押され始める。力では決してスライムはクイーンゴブリンの子供である上位ゴブリンには勝てない。だがスライムは変幻自在。メイジゴブリンのスライムを触ることのできるように魔法をかけてもらっていたがいない今では、どんなに力が強くても魔法を使えない力だけのゴブリンでは力負けするほかない。水を掴むようなものだ。

やがて2匹のゴブリンが捕まり、残りマコトのゴブリンはクイーンゴブリンとキングだけとなる。

「ひとまず引くぞ!」クイーンゴブリンの魔法であるテレポートを使いキングとマコト、クイーンはその場から立ち去る。


「一気に場面が変わったぞぉ!!」「しかし!テレポート魔法は多く魔力を要します」「クイーンゴブリンはもう動けませんねぇ!!どうするんだぁ!!!」

「そしてアユムのもつスライムたちが今回でそろった。4匹で1匹となった鎧スライムにたった1匹で用水路の水を一杯にしたスライムに、さっきまで負けていたスライムが全員復活だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

剣を持ったスイトとスイミが鎧スライムたちに張り付き武器を持たせる。さながら立ち振る舞いは歴戦の戦士を思わせる。誰も中身はスライムだとは思わないほど。だがあれはスライム。紛れもないスライムなのだと、これが初戦敗退したレアだけスライム使いのスライムなのだと皆スライムに対する意見を手のひらを反すように翻した。

一気に歓声が上がり、ゴブリンムードが一気にスライムムードへと変わる。


(このままのムードで押し切りたいが、マコトはここの立場まで上がってくる存在だ。油断はできない)


「さて!お互い、行動もせず10分が経過いたしましたッ!どちらも動かなそうなので!モンスターブリダーズトーナメントとは何かを説明いたしますッ!」

一場の猛攻からアユムは様子見をしていた。モンスターブリダーズトーナメントは出たいからと言って出れるものじゃない。


「モンスターブリダーズトーナメントはその名の通りッ!魔獣使いの一番を決める大会となります!各国々から任命され来るものもいれば、おのれ自らの手で勝ち取る者もいます」

モンスターブリダーズトーナメントは指名制と自力制の2種類の出場枠がある。指名枠は各国一番の魔獣使いがフリーデンス国の研究試験場までやってくるため、実力とも桁を外れている。国を背負っているからともいえよう。

自力制は国の指定する魔獣を生きたまま捕獲してくること。これらはフリーデンス国の研究魔獣を連れてくるのが名目であり、俺は前回は理炎蝶と呼ばれる最上級魔獣を捕まえてきて出場枠を手に入れた。今回はフリーデンス国からの指名だけど。

「それらをッ!自力制、指名制と分け、トーナメント表も分けられております。つまりはッ!決勝で当たるのは自力枠最強と指名枠最強といううううううことッ!デスッ!」

さらに歓声のボルテージが上がり、この後に響かないか少し心配になってきた。まぁ気にしてる場合ではないのだが


「スイト、スイミ。体はもう大丈夫か」刀で切られ、体の水分が削られ動けなくなっていたスイトとスイミにスイセイの水を含ませる

「行くぞ」完璧に復活。無駄な時間稼ぎはせずにさっさと終わらせるッ!

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