第10話 モンスターブリダーズトーナメント一回戦:前編
何度来てもこの会場の雰囲気には圧倒される。大理石で作られた壁へ床に無数の傷が刻まれ、見上げると客席が囲むように空を見える。
子供の時に来て、スライム使いになった苦い思い出の時から何一つ変わってはいなかった。
「第一回戦!!スライム使いのアユムVッS!!!東の国からの出場者である鬼使いことゴブリン使いのマコトだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
解説役の何倍にも拡散された魔法声が会場を揺らし、それにも負けないほどの声援が会場を大きく揺らした。
全身が身震いを起こす。俺は再度ここにきても思う。
「今度こそは絶対に勝つ」
モンスターブリダーズトーナメントのルール説明
魔獣は研究員たちによってランク分けされ、それに応じて連れて行ける魔獣の数が決まっている。
ドラゴン族のような最上級魔獣は1匹、シルバーウルフのような上級魔獣は3匹。その他中級は5匹、下級は10匹と決まっていて、連れて行ける魔獣は一族のみ
勝ちは基本的に相手の魔獣を全て動かなくさせるか使い手の敗北宣言、使役をしない無命令状態にさせること
魔獣の止め行為や命を奪おうとする行為は原則禁止で審判役に奪う行為と認められた場合は無条件敗北となる。
その他魔獣使い本人に攻撃もしくは、本人自らの攻撃も無条件敗北となる。
そして会場はインスタントダンジョン。インスタントダンジョンとは魔法魔獣なのだがここでは省こう。
インスタントダンジョンの形にはいくつかあり、城や草原などあらゆる場所が容易されている。場所によって魔獣の得意不得意があるため運が悪ければどんなに強い魔獣使いでも初戦敗退はざらにある。
「さてッ!!!気になるインスタントダンジョンの場所だがぁッ!!!ここだぁ!!!」解説役が何かを投げたと思ったら地面が大きく裂け口のように何かを飲み込んだ。
次の瞬間、全身を揺らすような地震と共に城が地面から浮き出てきた。
「おーとインスタントダンジョンが選んだのは攻城戦だぁぁぁぁ!!ゴブリン使いが有利なッ!場所ッ!!スライム使い!!アユムどう出るのか!!」
解説役が一通り喋りゴングが鳴らされた。俺は10匹のスライムを連れ、城の中へと足を進めた。
城の中はどこにでもあるような内装であった。赤いじゅうたんに石レンガが作られた冷たい作り、とてもじゃないがこれが魔法魔獣の体内だとは思いもしない。
「インスタントダンジョン。魔法魔獣の一種。捕食者を待ち構える洞窟or家の形をし、その中で死んだ魔獣、人間を食べる魔獣」声がした。その声の主とは言うまでもない
マコト、鬼使いが階段上の通路で5匹のゴブリンを連れ立っていた。
「早速か」俺は5匹のスライムを円状で待機させると残り5匹を城内に散らばらせた。
(ゴブリンは武器を使う。スライムは核さえ狙わなければ大丈夫だが、何分あの剣の形が気になる。カジノ会場から借りてきたのを傷つけるのは忍びないが)
「お前の名を知っている。アユム。ドラゴン使いと戦い唯一無命令退場をくらった選手。なぜノコノコと参加している」その言葉の間もマコトはゴブリンを2匹、王室らしい部屋へと進ませ、3匹のゴブリンたちに武器を持たせた。
「別にいいだろ。それに剣なんてゴブリンにはもったいないぜ」
「フッこれは剣(ツルギ)ではない刀だ!」2匹のゴブリンが刀を持ち飛びかかってきた。すかさずカジノ会場から借りてきたメッキスライムで受け止めさせるとすかさず反撃させる。スライムに吹き飛ばされたゴブリンはぶつかり声をあげる。
これで一匹動けな……?!吹き飛ばしたはずのゴブリンが立ち上がっていた。だがそのわけはすぐに判明する。マコトのそばから離れない1匹のゴブリン。身長が高く、一瞬だが女性にも見える。離れているためよくは分からないがゴブリンの頑丈さからみて間違いない
「クイーンゴブリンか……」クイーンゴブリン。ゴブリン族は基本的にオスしか生まれてこない。そのためゴブリンの繁殖方法は他種族の卵巣を使った托卵繁殖を用いるためゴブリンの強さは托卵したメスによって変わると言われている。
だが最近の研究結果によると、数万分の一の確率でメスが生まれることが判明した。メスゴブリンを持った一族は他のメスを狙わなくなり、メスゴブリンで繁殖すると言われている。なぜ他のメスを襲わなくなるかメスゴブリンの生態に由来している
メスゴブリンが生まれたゴブリン一族は飛躍的な戦力の増強が見られ、ゴブリンの托卵とメスゴブリンの繁殖では、メスゴブリンの繁殖のほうが明らかに個としての戦力が上がっていた。
それはどんな上位魔獣に托卵させてもメスゴブリンの繫殖のほうが勝つ。ゴブリンは托卵した魔獣によって力を変えると言ってもいい、ならば常に強いゴブリンが生まれてくるメスゴブリンがいる一族はどこまで強くなるのだろうか
生唾を飲み込み、一度スライムたちを連れ、退却させる。こちらも準備が必要だ。
なに、数はこちらが勝っている。動けなさせればいい。俺は城を出ると、外に置かれた農具を取り出しスライムに持たせる。出てきたところをやるッ!
「近づいてくる……」ずっしりと重い足音が近づいてくる。近づいてくるたびに、嫌な予感が……
「ッ!!!避けろ!!スイト!スイカ!!」呼び声と共にスライムが飛び上がる。それと同時に大きな砂ぼこりを上げ、城門が吹き飛んだ。
「嘘だろ……ゴブリンが?」ゴブリンの力はせいぜい成人男性より少し弱いくらい。だから数を考慮して中級という格を与えられているはずなのに、
「城門ごと吹き飛ぶっておかしいだろ」城門が吹き飛んだ先でインスタントダンジョンの主である小さな蟻型魔獣が蜘蛛の子を散らすように去っていく中、砂煙の先にはゴブリンとは到底似つかない筋骨隆々の巨体が立っていた
「おおおおおおっと!!!キングゴブリンの登場だぁぁっぁ!!」その姿に観客のみならず解説役も大きな声を上げる。中にはキングゴブリンは上位魔獣だろという声も上がるが研究員たちの意見はただの環境に応じてでかくなっただけのこと、知能や技術力の向上が見られないということでの中級
だがそれは、自然界。人によって調教、飼育、繁殖されたキングゴブリンは……はっきり言ってヤバイとしか言えない。
「お前の敗因はただ一つ」砂ぼこりの中から2匹のゴブリンとクイーンを連れた中にもう一匹のゴブリンの姿があった。とんがり帽子のあいつは
「キングゴブリンを見破れず、メイジゴブリンの攻撃魔法を受けさせてしまったことだ」紛れもないメイジゴブリンであった。
キングゴブリンに魔法をつかさどるメイジゴブリンだけでも厄介なのに、それらを鼓舞するクイーンに手下のゴブリン2匹。はっきり言ってこのゴブリン一家は上級魔獣を優に超えている。
アユムはすかさず、メッキスライムを軸にスライムたちに陣を組ませた。
さながらゴブリン王国に反逆する村人だとスライム使いは思った。
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