理想
「おはよ。」
優しい彼の声で目覚める、気持ちのいい朝。
部屋の窓のカーテンは開けられていて、柔らかな光が部屋に差し込んでいる。
「朝食、できてるよ。早くおいで。」
そう言って、彼は私のおでこにキスを一つ。
爽やかな笑顔を見せて、寝室から出て行った。
着替えてリビングに行くと、コーヒーのいい香りが私を出迎えた。
続いて、フレンチトーストの甘い香り。
私の大好きな、休日の朝ごはん。
「いただきます!」
フワフワでプルプルでホカホカのフレンチトーストを一口パクリ。
「おいしい~っ!」
それはもう、ほっぺたが落ちそうなくらいの美味しさ。
これならいくらでも食べられそう。
一口食べるごとに、幸せが体中に広がって、心が満たされていく気がする。
隣には、フルーツいっぱいのヨーグルトも用意されていて。
デザートだけど、思わず手が伸びてしまう。
「これも、おいしい~!」
なんて幸せなんだろう、私。
そんな私を、コーヒーを飲みながら、彼が穏やかな笑顔で見つめていた。
「こっちがいいかなぁ?それとも、こっち?」
両手にハンガーを持ち、気になるトップスを体にあてながら、彼に意見を求めてみる。
「う~ん、そうだな。」
私と同じくらい真剣な顔で迷って、彼は言った。
「どっちもすごく似合っているけど、俺はこっちが好きだ。」
そんな真剣な顔で『好きだ』なんて言われると、洋服選ぶだけなのに、キュンてしちゃうじゃないの。
もちろん、私は彼が『好きだ』と言った方を購入した。
買い物を終えると、すかさず「持つよ。」と言って、買ったばかりの服の入った紙袋を持ってくれる彼。
完璧なエスコート。
なんて素敵なデートなの!
幸せに浸っている私に、彼が言った。
「ねぇ、そろそろお腹空いてきたんじゃない?」
言われてみれば、少しお腹が空いてきたような?
少し、じゃなくて、だいぶ空いているような?
右手をお腹にあてたとたん、ぐぅ、と私のお腹の虫が鳴く。
ちょっと、私のお腹っ!!
台無しじゃないのっ!!
と思ったが、彼は可笑しそうに笑ってこう言った。
「ナイスタイミング!お店、予約してあるんだ。行こう!」
『ナイスタイミング!』は、あなたの方じゃない!なんて素敵なの!!
差し出された彼の腕に腕を絡ませ、私は夢見心地で彼のエスコートに身を任せたのだった。
「今日は、どうだった?」
お風呂上がりの彼が、缶ビールをプシュッとしながら、同じく隣で缶ビールを飲んでいる私を見る。
「今日はねぇ・・・・」
言いながら私は、朝起きた時から夕方までの一日を振り返ってみた。
うん。
完璧なんじゃないだろうか。
「100点満点です!」
「そっかぁ。あんな感じが理想なんだね。やっと100点満点貰えたよ~。」
あはは、と笑い、彼は豪快に缶ビールを飲み始める。
「うん。ほとんどの女子の理想なんじゃないかなぁ?」
「そうなの?」
「うん。たぶん、そう。」
実は、彼は休日ごとに、私の『理想』を追及する、という挑戦をしていた。
今日で、10回目の挑戦。
きっかけは確か、一緒に見ていたドラマかなんかだったと思う。
私が、『こういうの、理想だな~。』とか漏らした一言。
『こんなの、俺にだってできる!』
と、ムキになっちゃって。
それで始まった、挑戦だった。
「じゃあ、さ。」
あっという間にひと缶飲み干し、2本目の缶ビールをプシュッとしながら、彼は言った。
「『理想』の俺といつもの俺、どっちがいい?」
挑戦時間は、朝から夕方まで。
今はもう、挑戦時間は終了している。
今、私の隣にいる彼は、いつもの彼。
お風呂上がりで、ボサボサのままの髪の毛で、トランクス1枚にバスタオルを肩にかけただけの、いつもの姿。
たぶん、明日の朝は、お互いに目覚まし時計をどっちが止めるかでまずひと揉めあって、その後はバッタバタで朝ごはん作って食べて、一緒に走って出勤するんだと思う。
いつものように。
今日の一日とは、まるで大違いな日常が戻る。
でも。
「そんなの・・・・決まってるじゃん。」
そう、決まってる。そんなこと、聞くまでもない。
なのに、何をそんなに心配そうな顔、しているのよ。
そんな顔をされたら・・・・余計に愛おしくなっちゃうじゃない。
手にしていた缶ビールをテーブルに置き、私は腕を伸ばして彼を抱きしめた。
「いつものあなたが、最高に好き。」
「・・・・そっか。」
私の腕の中で、彼が安心したような照れたような顔で、笑った。
愛すべき彼氏たち 平 遊 @taira_yuu
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