チートスキル、『飛び下痢』と『回し下痢』をぶっ放すだけの話
夏目くちびる
第1話
さて、なんやかんやでパーティを追放されて、なんやかんやで爆乳の聖女的な女と旅をすることになった俺は、君の察している通り、実は色々と出来る有能だ。こんな具合に、三次元に干渉出来るくらいだからね。いぇーい、見てる?
しかし、そんな俺だけど、生まれた時に神様から貰ったスキルの一つにどうしてもよく分からないモノがあって、いい機会だからこれを発動してみたいと思ってるんだ。
「どんなスキルなんですか?」
「『飛び下痢』に、『回し下痢』だってさ。どう思うよ」
「どうもこうも、汚いですよ。神様の手違いか、スキルボードの誤植なんじゃないですか?」
「でもさ、世界の情報のソースコードを書き換えたりするスキルに、どんな攻撃も受け切る無敵の防御スキル。なんでも複製できちゃうコピースキルから、おまけにどんな相手でも死ねといっただけで殺せちゃうスキルまで持ってて、その中に一つたけ、跳び蹴りと回し蹴りが入ってるかね?普通」
「知りませんよ。絶対発動しないでくださいよね」
爆乳の聖女、ハクは呆れたように言った。
「一回だけ、飛び下痢の方だけでいいから、ちょっと見ててくれない?」
「話、聞いてました?話、聞いてましたか?フツーに嫌ですし、やりたいなら私の知らないところで勝手にやってくださいよ」
「でも、仲間がどんなスキル持ってるか知っておきたくない?」
「いいですよ、別に。あなた、敵に負ける要素ないじゃないですか。それに、1つや2つは謎があった方が、男の人はかっこいいです」
「そうかなぁ。俺は、好きな人の事は何でも知りたいし、何だって共有したいよ」
「まるで私があなたの事を好きみたいな言い方するの、やめてもらっていいですか?」
「そうはいってないよ。俺がハクの事を好きってだけ」
「ゆ、ユウさん……」
彼女は、今日初めて俺の名前を呼んだ。
「だからさ、お願い」
「え、でも恋人になるのは少し早すぎるって言いますか。もう少しくらい、お互いのことを知ってからの方がいいっていうか……」
「飛び下痢、見てよ」
「なんの話ししてるか忘れてましたよ!もうバカっ!」
言って、ハクは俺に向かって持っていたコップを投げつけた。ちゃんと飲み終わってから投げるあたり、よく出来た子だと思った。
「使ってみたいなぁ……。スキル、とびげ……」
「ちょちょちょ!待ってくださいってば!何しれっと発動しようとしてるんですか!?」
「ちょっと、ぶりぶりしてきちゃって」
「なんですか、ぶりぶりしてきたって!頭おかしいんじゃないですか!?」
「あ、気づいた?」
「……えっ?なんでいきなりそんな悲しそうな顔するんですか?」
「実は、俺は医療科学の被検体でさ。子供の頃、人の脳みそをどうイジれば恐怖を忘れられたり、体の限界を超えた命令を出せるかの試験として、何度も改造手術されてるんだよね。だから、普通の感覚って、あんまり分かんなくて。ごめんね」
「えっと……。ごめんなさい。私、そんなこと知らなくて、ついそんな事を……」
まぁ、嘘だけどね。
「だから、どうして俺がパーティから追放されたのかも分からなくて、ずっと自分のおかしい部分を考え続けてたんだ。そこで、この飛び蹴りと回し下痢は、そんな自分の狂ったところを見直せるいいきっかけになると思うんだよ」
「……そうなんですか?」
「そうなんです。だから、ね?一回だけ、飛び下痢、してもいいかな?」
「それは……。いや、ちょっと待ってください。ユウさん、初めてあった時に仕事サボり過ぎてフツーにクビになったって言ってましたよね?」
「そうだっけ?う……っ!頭が痛い……っ!誰かが、5次元から俺の脳内に干渉してる!姿は見えないけど、確かに脳の裏側に誰かがいる!ほら見て!時計の針が不規則な動きをしているよ!」
ナーロッパで多次元解釈知ってる俺、異端か?w
「どういう仕掛けかは分かりませんが、どうせユウさんがやってるんでしょ?もう騙されませんよ」
「違うよぉ」
「この前だって、メロンにはメロンキナーゼっていうすごい栄養が入ってるとかいう意味分かんない嘘つかれましたし。なにがメロンキナーゼですか、お陰で恥かいたじゃないですか」
彼女は、酔った勢いで他の冒険者にドヤ顔で雑学を披露して、顔を真っ赤にしていたのを思い出した。
「ごめんね?代わりに、取っておきの雑学を教えてあげるから許してよ」
「なんですか?」
「トマトって野菜あるでしょ?あれね、どの国の言葉でもトマトって言われてて、全ての言語で同じ意味、同じ音の単語は、5兆を超えるモノの中で、トマトしかないんだよ?」
「えっ?すごい!それ本当ですか!?」
「ほんとほんと。試しに、ここの店員さんに聞いてきてごらんよ。あの人、世界中の言葉を知ってるから」
言うと、ハクはとてとてと歩いていって、店員に何かを話した。
「どうだった?」
「どうだったじゃないですよ。えっ?意味分かんない。なんでそんなしょうもない嘘つくんですか?ちょっと、マジで意味分かんないんですけど」
「まぁ、そういうこともあるよね」
「なにがそういうこともある、なんですか?ホント信じられないんですけど」
彼女は、俺の肩にパンチをしてから正面に座った。
「つまりさ、ちゃんと意味や理由は調べようって言いたいんだよ。今だって、自分で言葉の意味を調べておけば、こんな事にはならなかったよね?」
「なぁ、お前マジでふざけんなよ?」
「だからさ、飛び下痢と回し下痢の効果も、ちゃんと調べておくべきだと思うんだよ。どうかな?」
「……私、ユウさんの言ってる言葉の意味が分かんないよぉ」
シクシクと泣き出したハクの顔は、妙に色のある女っぽい顔だった。
「じゃあ、ちょっとだけ飛び下痢していい?」
「ちょっとだけってなんですか!?」
「言うなれば、飛び下痢の先触れ。全貌を知るには、俺たちはあまりにも未熟だ。だから、その恩恵の僅か先端を、啓蒙してみようってワケ」
「やだ!いや!絶対にイヤ!そんなんたから、パーティクビにされるんですよ!分かってんですか!?」
「あー!あったまきた!それは言っちゃいけないでしょ!?」
「うるさい!もう知りませんから!下痢でもゲロでも勝手にしてくださいよ!」
「むかちーん!じゃあやるからな!よく見とけよコラ!」
言って、俺はテーブルの上に飛び乗ると、ズボンをおろして高らかに叫んだ!
「スキル、飛び下痢!」
瞬間、光速を超えたスピードで俺のケツから下痢が発射されたかと思うと、カッ!と光って熱を放出し、相対性理論を超えた超常的な現象を伴って、強烈な衝撃波を生み出した。
爆発、だろうか。しかし、その正体を掴む者は、もうこの世界にはいない。観測者は未来へ、俺の下痢は過去へ向かったからだ。そして、放出した俺の体も充分な固定がされていなかったため、下痢によって加速して過去へ戻っっていた。そうか、飛び下痢は、タイムマシンだったんだ!!
そして、時空をトラベルした俺は、半ケツのまま初めて勇者PARTYと挑んだクエストの最中にいた。そういえば、この辺にはいないはずのミノタウロスと戦ったんだっけなぁ。
「ユウ!攻撃を頼む!」
言われ、俺は思った。
じゃあ、回し下痢はどんな効果なんだ?
やりてぇ〜。一体どうなるのか、試してみてぇ〜。
「ユウ!早くッ!」
「よし!任せろ!スキル、回し下痢!」
そして、この世界は滅んだのだった。
〜fin〜
チートスキル、『飛び下痢』と『回し下痢』をぶっ放すだけの話 夏目くちびる @kuchiviru
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