珍獣 貫門一角!

Jack Torrance

珍獣 貫門一角!

私の名は、ニック フォルサレム。アメリカ全土の野生保護区や森林保護区を巡回して主に絶滅危惧種の鳥獣などの保護や研究をしている第一人者である。私は現在65歳を迎えるのだが今から45年前に大学在籍時に読んだ古い文献に記されていたある珍獣に魅了されて、その日以来45年間の長きに渡り私はその珍獣に遭遇出来ないものかと千載一遇のチャンスを今か今かと待ち侘びている。その珍獣の名は貫門(かんもん)一角。この書を読んでいる読者諸君にこの貫門一角とは何ぞやといったところから説明せねばなるまい。目を見張るのはその一角とその醜悪な姿態である。一角は殊更重要なので後に回すとして先ずはその醜い容姿から説き明かそう。その形相は豚のようであり頬は弛み円らな眼球は埋没してその小さな眼(まなこ)から放たれる眼光は鋭い。時の主要国家の元帥を思わせる風貌だ。耳は猫のように尖っている。上顎と下顎に2本ずつ対になった犬歯のような牙があり、これは貫門一角が肉食獣である事を示唆している。体長は大型犬のアイリッシュ ウルフハウンドを一回り大きくしたような感じで、体高1m20cm、体重85kgくらいが平均で後ろ足で立ち上がった時には2mを優に超す。そのしなやかな筋肉は百獣の王ライオンと何ら遜色はなく、その毛並みは山嵐のようであり攻撃的になった時には針のように鋭い棘へと変貌し相手の皮膚をも貫く。この棘からも貫門の名が名付けられたと記述が残っているが、後に記す一角の攻撃力に比べたら微々たるものである。毛色は黒で前足と後ろ足は熊の手のように肉厚で鋭い爪を持っている。ここで、読者諸君が興味を抱いている一角の説明に入るので心して読んでいただきたい所存である。諸君が念頭に浮かべている一角とはユニコーンやサイ、中国の伝説上の生き物カイチなどを想像するだろうが、そんな生易しい物ではない。眉間の上から飛び出しているその一角は人間の陰茎の形を成しているのである。そのグロテスクな一角は大人の玩具を連想させる。角の長さは25cmくらいだ。その硬度は象牙やサイの角よりも堅く、特筆すべきは陰茎に例えるならば尿道から亀頭の部分にかけてカミソリのように鋭い刃のように研ぎ澄まされているのである。この貫門一角はこの角に嗅覚のようなものを備えているのである。この貫門一角が恐ろしいのは、犬が肛門腺の臭いを嗅ぎ分けて相手を認識するように、貫門一角もその角の嗅覚から人間の肛門の臭いを嗅ぎ付け、そのカミソリのような一角、いや、その姿形からも男根と呼んでもいいのかもしれないが、その万物の創造を凌駕する驚異的な一角で肛門を一突きにするのである。これは切れ痔どころの騒ぎでは無い。肛門を貫通し直腸までをも鋭く切り裂き人間はその凄まじい激痛の末に絶命してしまう。この一連の殺傷能力から貫門一角と命名されたのである。一部の貫門一角生存説を唱えている学者達の間では通称ジャングル界の切り裂きジャックと言う異名で呼称されている。デヴィッド フィンチャー監督の映画『セブン』で肉欲の罪で殺される娼婦が実際のシーンでは映されていないが、ケヴィン スペイシー扮するジョン ドゥに大きなナイフが付属されたペニスバンドを男に装着させた状態で銃で脅されながら娼婦と性交させたシーンがあった。このシーンを観た時に私は脚本を書いたアンドリュー ケヴィン ウォーカーも貫門一角の事を知っているなと推察した。そして、貫門一角はその死んだ人間の肉を喰らうのである。山や森林で白骨化した遺体が発見されているのは2割くらいは遭難や事故死だと思われるが残りの8割は貫門一角の仕業だというのが私の考察である。この論文を去年の学会で発表して私は他の学者の笑い種となった。私は誓った。今に見ておれ。この愚かで浅はかな馬鹿共奴が。絶対に長年の夢である貫門一角を発見して世界を驚愕の渦に叩き込んでやるのだと…そして、とうとう私が長い間、そう、冬眠する動物達が春の訪れを待ち焦がれているかのように貫門一角と相見(あいまみ)える時が来たのである。5ヶ月前、私は北カリフォルニアとオレゴンを一望するロウアー クラマス野生生物保護区を訪れて散策していた。それは昼下がりの長閑な午後だった。昼飯に持参したサンドイッチとポットに入れたドリップコーヒーを胃袋に流し込み心地よい眠気が襲ってきた頃合いだった。背後で男の「ギャアーーー」という悲鳴が轟いてきた。私は何事かと恐怖に襲われて悲鳴が聞こえた方へと振り返った。か、か、貫門一角!!!30mくらい後方だった。そこには、猟銃を肩に担いだ齢30過ぎくらいの男が貫門一角に肛門を貫かれ頭上高くに突き上げられ、この世のものとは思えないほどの苦悶の表情を浮かべ貫門一角は興奮し下から肛門をズンズンと突き上げていた。猛り狂いながら執拗なまでに男を突き上げ男も己の身体の重みで一角にどんどんめり込んでいく。そして、男は事切れ翻筋斗(もんどり)打って地表に伏した。切り裂かれた肛門からは脱肛したかのように男の体内から飛び出している腸をガツガツと喰らう貫門一角。男は鹿か野鳥の密猟者だろうから私は憐れみの感情は沸き起こらなかった。寧ろ、神は天罰を下されたのであろうと私は思ってしまった。私は恐る恐る茂みから近付きデジタルカメラで貫門一角を収めようとした。すると、貫門一角の嗅覚が私の肛門の臭いを嗅ぎ付けたのである。私はカメラに収める事に夢中になり貫門一角の角の嗅覚が警察犬にも匹敵するという事を忘れていたのである。貫門一角は密猟者の肉を喰らうのを止め私の肛門目掛けて猪突猛進、いや一角猛進のように疾駆して来た。私は貫門一角に背を向け一心不乱に駆けたが貫門一角のスピードを上回って駆ける事は常識的に無理難題であった。貫門一角は私の肛門にその豪快な一突きを見舞った。私は囚人が刑務所でファックされる衝撃を味わった。それは、地の底から突き上げられるようなマグニチュード16,0のような凄まじいものであった。しかし、私はこの予測し得る事態に備えていたのである。いつ何時に貫門一角と遭遇するかもしれないと思っていた私はチタン合金で作られたブリーフ型貞操帯を45年間身に着けていたのである。しかも、肛門部分の厚みを3cmという重層さを兼ね備えていたのである。貫門一角の角は全ての盾を貫く矛では無かった。一角は根元からへし折れ貫門一角は凄まじい血飛沫を上げて絶命した。その代償に私も尾てい骨と腰骨を骨折する重傷を負ったがデジタルカメラは手放さずに死守した。4ヶ月後、傷が癒えた私はサンディエゴで催された野生生物保護学会に出席した。先日の学会で笑い種となっていた私が進行役の男から紹介された時には会場に軽い失笑が起こった。私はそんな馬鹿な学者の失笑など意に介さず堂々と、そして晴れやかな気持ちで壇上に立った。「お集まりいただいた皆さんに野生生物界で誰もまだ目にしていないと言われる貫門一角を私は実際にこの目で目撃しカメラに収める事に成功しました。では、その一部始終を皆さんにお見せしたいと思います」プロジェクターでスクリーンに映し出される貫門一角。その映像が始まるやいなや会場は響めき度肝を抜いた。醜悪な姿態を曝け出しながらズンズンと肛門を貫かれ残酷に殺害される密猟者。体外に飛び出した腸をガツガツと喰らうそのグロテスクな映像に一人の学者が前席に座る学者の頭に吐瀉物をぶっ掛けた。それを皮切りに嘔吐の連鎖が始まり私を扱き下ろしていた学者達は頭や顔、学会用の一帳羅のスーツをゲロ塗れにしながら悶えていた。会場内に酸っぱい悪臭が鼻を突く。私はその光景を壇上から見下ろしながら思った。いい気味だ。さながら、『スタンド バイ ミー』でパイの早食い競争大会でゲロの連鎖シーンの再現を見ているようであった。私は私を扱き下ろした学者達の無様な様子を一望し優越感に浸りながら堪えきれない笑いを噛み殺すのに必死だった…

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