運命の人
三枝 優
運命の人
直人は、目を覚ました。
今まで、夢を見ていた。女性の出てくる夢である。夢の中で、その女性は直人にやさしく微笑み抱きしめてくれた。
美しいロングヘア。細面で優しげな眼。
現実では、会ったことのない女性だ。夢の中だけの人。
ここは、海外出張先のホテル。エンジニアである直人は、C国にある工場に打ち合わせのために出張していた。
出張は4日間の予定である。
今日も、忙しい日になる。
幸せな夢を見たので直人は、いい気分で仕事に向かった。
一日が終わり、直人はホテル近くのレストランで一人夕食を取っている。
この国の食事は、人によって合う合わないがあるようだが直人は美味しいと思っていた。レストランは、かなり混んでいる。
「日本人の方ですか?こちら相席よろしいかしら?」
急に声を掛けられた。意表を突かれた直人はその人物を見た。
瞬間、息が止まった。
美しいロングヘア。細面で優しげな眼。
今朝見た、夢の中に出てきたい女性と瓜二つだったのだ。
「え・・・・えぇ、いいですよ」
「ありがとうございます、私は日本語を勉強しているので良かったら話をさせていただいてよろしいかしら?」
「そうなんですか。よろこんで」
直人は、まじまじと女性を見る。本当にそっくりだ。
信じられない気持である。
現実とは思えない。幻想の中だろうか。
その後、話が盛り上がった。
映画が共通の趣味とわかり、話が弾んだ。
「直人さん、よかったらこの後は別の店で少し飲みません?もうすこし話したいのです」
「は・・はい、喜んで」
まるで夢のよう。夢の中の女性が現実に現れたのだ。
直人は確信した。
この人こそ、直人の運命の人だと。
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外に泊まっていた車の中。後部座席には、隠しカメラと盗聴器で直人たちの様子を監視する男二人。
「今回もうまくいったようですね」
「あの、夢を見させる装置ができて仕事が楽になったな」
彼らは、C国のある企業の人間であった。
彼らの目的は、優秀なエンジニアの引き抜きである。
もちろん、女性はその企業の社員。彼らの指示のもとハニートラップを仕掛けたのだ。
女性にとっても、優秀で高収入を約束された男性と結婚できるチャンス。喜んで協力してもらっている。
彼らの手口は簡単である。
あらかじめターゲットを決め、その人物が宿泊する部屋のベッドに仕掛けをする。
それは、極秘に開発した遠隔操作で夢を操作して映像を見せるもの。
その夢の女性の姿を、今回の協力者の物に挿げ替えたのだ。
「それにしても、疑わないのですね、ハニートラップだなんて。特に日本人があっさり騙される」
「日本人の男。特にエンジニアなんて、仕事は優秀でも精神的には幼稚だからな。ちょっと女性に優しくされただけでも、コロッとだまされる」
「そんなんで、うちの会社で仕事できるんですかね?」
「まぁ、特別に優秀そうなやつだけターゲットにしているからな。頭の中はおこちゃまでもなんとかなるだろう」
こうやって、企業に引き抜いた人材はすでに10人以上。
世界的にも特に優秀な学者やエンジニアを引き抜いている。
そうやって、会社の技術力を向上させている。
「ま、日本人の男全員がこんなんじゃないと思いたいですね」
モニターに映るのは、デレデレとにやけた直人が女性の後をついてバーに入っていくところだった。
もう、このターゲットは確保したも同然。
「まったくだ。あまりにも幼稚な奴ばかり見ているが、こんな奴らばかりだったら他の国からもカモにされ放題だからな」
「そうなっても、うちは困んないですけどね」
「いやいや、美味しいお客さんが他の国に取られちゃ困るよ」
ちょっとした幻想を見せれば、コロッとだまされる。
日本人が哀れに思えるほどである。
(了)
運命の人 三枝 優 @7487sakuya
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