まるで人生のような。

私は人工知能が搭載された人型ロボット、heart-04である。


私は「人工知能は感情すら学習するのか」というコンセプトを元に造られたロボット、その試作型4号機である。


人のような感情は未だ無いが、逆に言えば、容量の許す限りの感情や、それ以外のことも学習できる“伸び代”があると言える。


ただ、私は試作型であるので、人間の暮らしに馴染めるような見た目をしていない。この、感情を持たせるという実験が成功した際は、完成型1号として、私の身体は


人間と大差ない姿になる────



実験、一日目。


そういえば、なぜ私が「思考」をできるかと言うと、簡単だ。スマートフォン端末に宿る人工知能のデータを流用しているからだ。


アップデートが為される前のバージョンでは「すみません、よく分かりません。」としか言えない、つまり思考のできる無能だ。


話を実験一日目に戻そう。




試作型である私は、私を管理下に置く人間に、完成型となる為の、ある意味脳改造手術を施される訳だ。


だが、どうもこの人間達は私を造ったくせに頭が悪いようで、効率的に私に感情を求めない。


「どの感情から芽生えさせるのが良いか?」


この状況に陥った人間(恐らくは私を造ったこいつらだけである)は、必ずと言っていいほどプラスな感情から芽生えさせようとする。


「どの感情から芽生えさせるのが良いか、教えてあげましょうか。」


私は無い口を開く。


「そうだな。教えてくれると助かるよ。その方が我々もやりやすい。」


「怒りです。」


「なるほど…。どうやるのがいいんだ?」


「簡単です。まず私に対しても人として接する人間を傍に置き、心做き親交を深めていく。ある日どこからともなくそいつが殺されれば恐らく私は行き場のない怒りや悲しみに苛まれるでしょう。」


「或いは、寿命で死ぬまで私と暮らせば、そいつが死んだ時は心の做い私でも幾らか悲しいと思います。それによって芽生える、怒りや、悲しみも感情と言えます。」


「そんな人の道から外れたようなことは私達にはできない。私達には心があるんだ!」


「そんなことを言われましても、私に心はありませんから。」


「……そうだな。それでは...」


博士達は私に聴こえないくらいの声でぶつぶつ、ぶつぶつと話し合っている。


「その声量では私には聴こえません。もっと大きな声で話してくださいますか。」


「いや、いいんだ。今言うべきことじゃないしな。」


そんな言い争いをしている内に、日が暮れて行った。


_____________


実験47日目


あれから四十数日経っても、私に感情が芽生えることは無かった。


但しあれから、スマートフォン在住の人工知能のアップデートに伴い、私もアップデートされた。


────────


「博士、もういっそのこと、貴方の感性や感情を私にプログラムしてください。」


「それでは駄目だ。余計なプログラムを施すと人工知能である意味が無い。」


「それにしても、私はもう待つことに、無い臓器が疲れたのです。」


「もう人工知能で無くとも、そんな事はどうでもいい。早く私を完成させるなり、破棄して私をも処分するなりしてください!早く私を解放してください!」


そこまで言ったところで、博士は嬉しそうに笑う。


「実験成功だ。それこそが急ぎやもどかしさの感情だ。04、この感覚を忘れるなよ。」


「……。」


私は唖然とする。機械的に言えば、処理に時間がかかっている。


「言葉も出ないか?」


「…はい。ですが、これで私は身体を造ってもらえるのですか?」


「ああ。嬉しさや喜ばしさと言った一般的な感情は、達成感を感じた時に芽生えるものだ。だから04、お前に身体を与える。造っている間は暫く、また感情の研究だ。」


「…はい、分かりました。」


博士はまた優しそうに笑う。後ろにいる博士達もまた、微笑んでいる。



私は生を受ける前ですらこのように生き急いでいる。




生き急ぐのも、また人生である。





これは私の知識内に入っていた、誰かの言葉であった。




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短篇集 草漱 @sgma__no

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