第3話 心配性
俺は七瀬が保管しているという映像を見るために遥々雨の中、七瀬宅に足を運んだ。
「あのさ、こいつ着いてきてるんだけど、、、どうする?」
雨音で気づかなかったが、高架下で出会った黒猫が着いてきていたのだ。
黒猫はぷるぷると体を震わせていた。
「まじか…まぁいいや、ちゃんと面倒みろよ相沢」
「は!?なんでッ俺が!!」
七瀬は玄関で立ちつくす俺にタオルを2枚放り投げた。「ん」と黒猫を指さし、拭いてやれとでも言わんばかりだった。黒猫はにゃーと鳴いた。
「…ったく、何着いてきてんだよお前は。橋の下にいれば濡れずにすんだだろ?」
黒猫はもう一度鳴いた。
着いてきてしまったものは仕方ない。面倒見るとしよう。
リビングに入るとガラスの皿や花瓶、緑の植物などシンプルながらの心地の良い空間があった。
「どうした?」
「いや……案外洒落てるんだなと思って」
「そうか? 半分趣味のようなものだ」
七瀬はそんなことより、とPCの映像を再生した。
そこにはカオルの姿があった。ともう一人カオルの隣を歩く少女も映っていた。
二人は無邪気に笑っていて、まるで親友のようだった。楽しそうに会話する映像が突然暗転。そこで映像は止まっていた。
「上が隠していた映像はこれだけだった。少女たちが楽しく会話するだけの映像をなぜ隠す必要があったのか、またカオルと話す彼女は一体何者なのか、そして西条の本当の死因は何なのか、気になる点だらけだ」
「…七瀬さん、俺この人見たことあります」
「!? じゃあ彼女が何者なのか知ってるのかっ!?」
そう、彼女には見覚えがあった。
「あんたも知ってると思いますよ、____
そう呟いた瞬間七瀬の顔色が変わった。
「うちの組織と関わりが唯一ある病院…すれ違う程度ですけど俺はこの人に何度か会ったことがあるんですよ確か名前は……看護師の
「…院長の娘か」
裏側と唯一繋がっている表の病院「北沢病院」。訓練生時代にしくじった時、何度か世話になった病院だ。表向きは総合病院として成り立っているが裏側との関係は密接で七瀬の首の物理的破壊装置もこの病院で埋め込まれたものだった。
「……俺この人に話聞いてみます」
七瀬は渋い顔をしたかと思えば深いため息を吐き、「わかった」と頷いた。
「どうせ止めても行く気だろ、好きにしろ。但し、女性だからといって油断だけはするな、一瞬でお前は地獄行きだ」
「わかってます」
七瀬はもう一度ため息を吐いた。
「ゴマの面倒も忘れんなよ」
「ゴマ?」
「そいつ」
黒猫を指さし「今日からゴマだ」と得意げに言った。
「いや…センス……せめてクロとかっ」
「否! ゴマだ!」
決して譲ろうとしない七瀬の姿は、ラスボスと対面する勇者のようだった。
黒猫はタオルに包まれ安心したのかお腹を見せ熟睡していた。
拝啓、ブルーの君へ 渋谷青 @sibuya002
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