第2話 生徒
任務を終えて帰宅途中に急に雨が降り出した。
雨の勢いは徐々に増していき、俺は高架橋の下に逃げ込んだ。そこには一匹の黒猫がいてじっとこちらを見つめていた。
「...早く家族のところに戻れよ......ってこの雨じゃ無理か」
黒猫は言葉が通じたように「にゃー」と鳴いた。
俺を怖がることなく逃げずにむしろ近づいてきた。足元をウロウロと歩き身体を擦り寄らせてくる。俺は思わず笑ってしまった。
「ははっ甘えたか!可愛いやつだな...何だかお前少しあいつに似てるな、その目の感じとか」
カオルと俺は親に捨てられるという同じ境遇の中、裏側として生きることを対価に育てられた。
厳しい訓練でもニコニコ笑ってて、変なとこは強情で、小さい頃はよく喧嘩をした。
本当の家族のようだった。
「俺もさ...会えるならもう一度ッ」
「こんな所にいたのか死神」
突然声が聞こえ振り返ると、そこには小柄な男性が立っていた。髪色や瞳の色素が薄く、儚い雰囲気があるこの男は
「何か用ですか...七瀬さん」
「用つーか、上からお前に伝えろってことがあってな」
七瀬は一瞬で気配もなく俺の背後に立ち首にナイフを当てた。
「『これ以上西条カオルを殺した犯人を探すのは辞めろ、任務だけに集中しろ、どういうことがわかるな?』だそうだ、お前が辺りに探りを入れてるのは上まで話が上がってる。そろそろやめとけ」
ナイフが皮膚を裂き、チリチリと傷んだ。
「って伝えるのがオシゴトな訳。ここからはプライベートな」
七瀬は首元からナイフを外し仕舞った。
_______ナイフ使いの七瀬奏。小柄ながらも仕事は完璧で訓練生時代からも成績優秀だったとか。裏側では近接戦で彼の右に出るものはいないと言われていた。今は前線から退き、訓練生を育てる教官になっている。
「まぁ本当は俺も西条がどうして死んだのか知りたいんだ。あいつだって俺の可愛い生徒だったんだ。それくらい知る権利はあるだろう?」
「...あんた、立場的に大丈夫なんですか」
「あぁ、心配ない。騙すなら味方からってな」
教官になった者は別名「neck《ネック》」とも呼ばれていた。その名の通り、首に力を抑える器具が取り付けられ上に歯向かえない様にされている。
七瀬の立場を考えると、カオルを殺した犯人を探すことに協力しているのがバレたら終わりだ。物理的に首が飛ぶだろう。
「あんた、長生きしないだろ」
「ははっ皮肉だな」
黒猫は七瀬の足元に擦り寄り、にゃーっと鳴いた。
七瀬はふやけた顔でよちよちと猫を撫でた。
「そこでだ、街の監視カメラの履歴を確認したんだが気になるところがあってな」
「?」
「...西条と並んで歩く一般人がいた。しかもその映像を何故か上は隠していて厳重に保管されていた」
「...ってことは、つまりあんたは上しか閲覧できない映像をパクった...ってことか」
「まぁそうなるな、隠されると見たくなるだろ?」
テヘっと笑顔で答える七瀬。
男の癖に若干可愛いと思ってしまった己が憎い。
「はぁー...」
「おいおい、幸せが逃げてくぞ?」
俺と七瀬は雨が上がり次第、映像を確認するため帰宅を急いだ。
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