第2話
次の日。
「うおおおおおおおおああああえええいいい!」
俺は今日もいつもと変わらずに、皆が討伐をしている中、魔物から逃げ回った。
「シルファァァァァ!!!頼む!!はやく!死んじゃうから!!早くうう!!」
「……いやよ。オマエ、いい加減にワールフワイドくらい倒せる様になりなさいな」
「無理だっつーの!!!こんな頭3個あるやつ!!サルベル!!オマエでもいいからああああ」
「わ、悪い!!親友!!くっ、ちょっと……無理だ!!」
俺は魔物に噛まれそうになる中、逃げ回る。
犬の頭が三つあり、飛べない翼、大きな体、鋭い爪を持っているのがワールフワイドだ。
勇者なら倒せて当然の魔物なのは知ってる。
でもせめて、初級のゴブリンとか持ってこいやあ!
ついこの前、一、二年くらい前まで村人Bだった俺には無理だからな!?
サルベルも、クラガのおっさんも、自身に迫り来る魔物と対峙していて、俺に向ける戦力の余裕はない。
魔導士のリリィ、それに王女兼聖女のカナリアも、サルベルとクラガの援護をしている。俺の味方はシルファだけだというのに!!逃げ回る俺を愉快そうに眺めては、頑張りなさいなと笑っている。
「ギャァァ!!!シルファ!!てめっ」
「そう怒るものじゃないわよ。仕方がないわね。はい、これでいいのでしょう」
シルファがパチリと指を鳴らせば一瞬にしてワールフワイドがぐしゃりと潰れて、肉と血が四散した。
俺が、もう少し綺麗に倒せよという目で妖精女王を見る。
「なにかしら?注文が多いわ。それより礼がなくってよ」
礼は言うが、偉そうなのが嫌だ。
そんなことを言うと、シルファはヘソを曲げてしまった。
「おい、そんなに怒るとなくない?おーい、シルファさん??」
「いやよ、オマエとなんて話したくもない」
そのまま、ふよふよと浮いて、王女たちの方へ行ってしまった。
………、選ぶ言葉を間違えたな。
「……あんたって、なんで、そんなにへっぽこ勇者なわけ?勇者ならもうちょっとマシになりなさいよね!」
「は?」
魔物もあらかた一掃し、落ち着いた頃。俺たちは昼食をとって休憩していた。
座っている俺の前に仁王立ちし、つんけんとした物言いをしてきたのは、大魔導士のリリィだ。
黒髪ショートヘアで、紫紺の瞳をしているところが、たしかに魔導士っぽい。
「いや、俺は……。お前らとは違うんだよ。実力が元々あって、選ばれたわけじゃ……」
「なにそれ!もー耳にタコができるくらいに聞いたんですけど!カナリア様も何かコレに言ってあげてください!!」
おい、コレってなんだ、コレって。
いきなり話題が飛んできたカナリアがおろおろしちゃってるじゃんか。
「うえーん。カナリア聞いてよー酷いよーリリィが……」
俺は泣き真似をしながら、慰めてもらおうと、カナリアの隣に座った。のだが。
「はい、なんでしょう……」
にこりとカナリアは微笑む。
ん?
なんだか距離を空けられた気がして、詰めてみる。
カナリアは、俺から一人分座り直して離れた。
「んーと、カナリア?」
「なんでしょう?」
にこにこ。にこにこ。にこにこ。
俺は王女に笑顔で拒絶されていた。
切ない。。。
「ねえ、あんた何してんの?」
ひっ!
王女崇拝者のリリィが、軽蔑と嫌悪の眼差しを俺に向けいた。リリィの展開する魔法陣は今にも発動しそうになっている。
「お、おおおおい!落ち着け!」
「落ち着け?王女様に近づくなあ!!この勇者!」
「勇者を悪口にすんな!!この魔法馬鹿!」
「はぁ!?ま、魔法……馬鹿……」
「おい!ちょっといいかも、みたいな顔すんなよ」
「べ、べべつに!そんなこと思ったらわけないでしょう!!?」
サルベルもおっさんも、王女もシルファも、魔法の発動に気が付いて直ぐに避難したが、俺だけ逃げ遅れて。
「うるっさい!!このへっぽこ勇者あ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
結果、俺だけリリィの魔法をくらったのだった。
賢者のおっさんに、勇者はモテると言われて、俺は勇者になったのに。ここで、終わるのか。
「何してるの。まだ旅は続くわよ」
ENDに持っていこうとしたのだが、シルファに頬を叩かれて俺は覚醒する。
「……モテたいなら、もう少し努力しなさいな」
「は!?え!今、心でも読んだ!?」
「顔に書いてあるわ」
シルファに、呆れた顔をされてしまった。
頑張ったらモテるようになるなら、少しは頑張ってみようかなとか思ってしまう自分がいる。
だがまぁ、とりあえず現状は、勇者な俺だが、モテてはない。
勇者の俺だがモテてはいない! 夏沢とも @30_2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます