勇者の俺だがモテてはいない!
夏沢とも
第1話
「なぁ、サルべル」
「なんだい?親友よ」
「お前さ……、俺があいつらの中でなんて言われてるか知ってる?」
大空に、星が瞬く夜。
空気が透き通っていて、星がよく見える。
美しい空、近くには焚き火がパチパチと音を立てていた。
俺はそんな中で、丸太に座りながら空を見上げ、悲しいかな男とともに雑談をした。
「あいつら……王女様たちのことかい?さあ、俺は知らないよ。なんて呼ばれているんだい?」
金髪碧眼の爽やかな青年、サルベル。
彼が、やれやれというように俺の話に付き合ってくれる。
「だってよ……」
「え?」
聞き返された俺は、すくりと立ち上がって、うがーっと感情を爆発させた。
「へっぽこ勇者だってよおおおおお!!なんだそれ!誰がへっぽこだ!!!弱くて魔物が倒せないだけだろおおおお!!!」
髪がぐしゃぐしゃとかき混ぜ、地団駄を踏む。
俺のいつもの発作に、親友は苦笑いをしていた。いや、もう、ここはいつものように付き合ってもらおう。
「大体!!なんなんだよ!!なあ!!サルベル!勇者ってモテるんだよね!?俺モテるって聞いたんですけど!」
「いやー……。勇者ってだけでモテたら君は苦労してないんじゃないかなぁ」
ぽりぽりと言いにくそうに頬をかく親友。
言いたいことはわかっている。
「うがー!!お前もモテたいなら先ずは魔物を倒せる様になれって言うんだろ!!?俺は賢者に!あのじじいに騙されたんだ!!こんなことなら、なるつもりなんてなかった!」
「いや、その前に…親睦というものを……」
あのじじいめ!何が勇者はモテるようになるだ!
いくら勇者が、魔物を退治して遠くまで旅をして魔王を倒しに行く、ワースト一位の職業だからって!ちくしょー!騙された!!
「お、おい、あんまり……」
「オマエ、何を騒いでいるのよ」
「っ……」
女性陣が使っているテントから現れたのは、人間とは思えない美貌の持ち主。銀髪金眼で、体からは仄かに蛍のような淡い光が発せられている。色白の足は地面に付かずに数センチほど浮遊していた。
「シルファ様!起こしてしまいましたか」
畏まったサルベルを少女は、手で御した。
「いいわ。構わないでちょうだいな。妖精女王は娯楽でしか寝ないから」
俺を嫌悪の眼差しで見つめるのは、妖精にして、妖精の女王、そして俺の契約妖精、シルファだ。
戦いの中でしか、いや戦いでも滅多に言うことを聞いてくれたりなんてしない。
「なんだよ、シルファ。大体オマエも俺の契約妖精なら……」
「いやよ」
「まだなんも言ってないよな!!?」
シルファは髪を手で後ろにはらって、高貴な仕草でふんっと顔を背けた。
「いやよ。どうせ、また戦いの時くらいは指示に従えなんて言うつもりなのはわかっているわ。だからいやよ」
「頭とお尻に付けて2回も言わなくても、散々聞いたわ!!!」
「偉そうなくせして、魔物退治はワタクシに任せるのだから、ホント、へっぽこ勇者ですこと」
「へっぽこ強調すんなぁぁあ!!」
「あら、ホントのことですわよ?」
シルファは、コロコロと鈴の音の様に笑った。
「ううーん、シルファ様……?ひゃあ!!ゆ、勇者様……それに、サルベル様……」
「あら、起きてしまったのねカナリア」
俺をまるで魔物が出たかのように扱ったのは、王女兼聖女のカナリアだ。どうやら隣にシルファがいないことに気がついて、テントから出てきたらしい。
まだ眠たそうな眼を擦って、厚めの羽織ものを着用した。
「なんでもないわ、ほら、早く寝なさいな。へっぽこ勇者が騒いでいただけよ。発作よ、発作。ワタクシが付いているわ。安心して休みなさいな」
フヨフヨと浮いたシルファがカナリアに近寄って、テント中に戻そうとする。
「は、はい。それではお休みなさいませ。お二人とも」
カナリアは、律儀に俺たちに挨拶をしてテントの中へと戻ったのだった。
「ほーい、おまえらー、見張りの交代の時間だぞー」
槍を持ったおっさんが、男用のテントから現れる。パーティメンバーの一人、クラガだ。
「ほら、交代してやるから、さっさと眠れ!」
「へいへい」
「お願いします、クラガさん」
俺とサルベルは、テントに戻って就寝した。
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