転生した私は悪役令嬢の取り巻きの一人だった。ヒロインとか攻略対象を助けるたびに、死の恐怖を味わっています。
仲仁へび(旧:離久)
第1話
乙女ゲームの世界に転生した貴族令嬢の私。
そんな私は、なんと悪役令嬢マローナの取り巻きの一人だった。
どうしてか、気が付いた時には、なんか悪役令嬢取り巻きになっていたのだった。
だって、ヒロイン虐めてる所に偶然通りかかるなんて、普通思わないでしょう。
私はうかつな事に、悪役令嬢がヒロインに向かってねちねち悪口言っている現場に近づいてしまったのだ。
それで、護身用に持っていた鞭のせいで勘違いされ、とりまきに加えられてしまった。
「あら、気の合う方がいらっしゃいますのね」って、違いますから。
鞭でヒロイン虐めようとしていたわけじゃないですから。
ただのお守りですから!
まずい。
その悪役令嬢マローナの近くにいると、死亡フラグが半端ないのに。
彼女の機嫌を損ねた人間は、もれなく行方不明になるらしいから、何とかとりまきから離れなければならない。
しかし強引に離れたらそれはそれで機嫌を損ねるから困った。
一人であれこれ考えていたんだけれど、結局いい案は浮かばなかった。
だからある日から、頼れる執事のクリスと共に、色々と対策を考えるのが日課になった。
「クリス、今日も対策を練るわよ!」
「分かりましたお嬢様。前世云々の事は分かりませんが」
「分からなくても分かって! 私の命がかかってるわ」
、
そういうわけで、作戦会議を重ねた私達は、対策をまとめたノートを軽く一冊分作ってみた。
乙女ゲーム原作情報や攻略対象者の情報、ストーリーの流れなどをざっと書き記したものだ。
だが努力の成果を見て、ため息。
現在は、原作ストーリーが始まってしまっている。
その中で、次に控えているストーリーを思い起こしたら、大変な事に気が付いたのだ。
「もうすぐ本編のあのストーリーが始まってしまってしまうわ。大変じゃない」
「これは、大変そうですね」
「何とかしないと、犠牲者を出すわけにはいかないもの。(死んだ魚の目)」
「お嬢様、やる気に満ちたセリフと、目の色が全然違います。やる前からそんな目をしないでください。確かに私もとんでもない事だとは思いますけど」
「何言ってるのよ。私は、がんばる気まんまんよ(震え声)」
「だから、お嬢様そんな猛獣に食べられる事を悟った草食動物のような声を出さないでください」
私が転生した乙女ゲームには、中盤にやばいストーリーがある。
そのストーリーは、ヒロインと攻略対象の仲を大いに進展させてくれるものだが、ちょっと人死にが出るのが問題なのだ。
自分の事だけを考えるなら、知らないふりをしているのが賢明だろう。
けれど、前世の記憶が関係して小市民的感覚が備わっていた私には、見て見ぬふりができなかったのだ。
というわけで、私は自分が通っている学校の裏手をこそこそする事にした。
なぜって。
ここで、事件が起こるからだ。
でも、先ほどから何回も悪寒に襲われて、震えてしまう。
だって、失敗したら、悪役令嬢に処罰される。それが怖い。
乙女ゲームのシナリオでは描かれない悲惨な目に遭わされて、行方不明にされてしまうかもしれない。
そう考えたら、小刻みに震えたくもなる。
「お嬢様、そんなに震えたら、隠れて現場を見張っている事がばれてしまいます。ひそんでいる垣根の葉っぱが先ほどから震えっぱなしですよ」
そんなにわかりやすいだろうか。
近くで潜んでいるクリスに指摘されてしまった。
私は深呼吸して、体の震えを落ち着かせる。
「すぅー、はぁー」
まったくどうしてこんな苦労をしなければならないのだろう。
悪役令嬢のとりまきになんてならなかったら、ただの一般人として人の為になる行動ができたのに。
こんな事なら、子供のころに読んだ鞭の令嬢の話を思い出して、つい出来心で誕生日に鞭をねだって、学校でみせびらかそうと思ったりしなければよかったわ。
「たまに思いますけど、お嬢様ってすごく変ですよね」
何を言い出すのかこの使用人は。
仕えるべきお嬢様に直球で失礼してくるクリスだが、でもいざという時はそこそこ頼りになる。
密室に閉じ込められたヒロインを助ける時や、トラウマで苦しむ攻略対象を助ける時なども、色々とアドバイスしてくれた。
悪役令嬢に目を付けられるような事はしたくなかったけど、どっちも長期間放置しておくと健康を害する危険があったら、仕方なかった。
「はぁー」
「お嬢様、静かにしてください。先ほどから今度はため息がとまらなくなってます」
おっと、気づかなかった。
イベント発生を待つ事数十分。
いい加減生け垣の中に隠れるのも飽きてきそうだ。
「葉っぱの中にうもれる貴族令嬢ってどうなんでしょうね」
「しっ、クリス。気づかれたらどうするのよ。貴方が言った事でしょう?」
「そうですけど。まあ、お嬢様が気にしていないなら、良いんですが」
たしかに深窓のご令嬢として、生け垣の中に隠れるというのはちょっとあれな気もするけど、ここしか良い場所がなかったのだからしょうがない。
私達はひたすら大人しく、とある人間を待つことにした。
数分後。
校舎裏に怪しい人間がやってきた。
人目を気にするようなそぶりをみせるのは、男子生徒と女子生徒だ。
葉っぱが視界にちらつく、邪魔だったけど払いのけたら動きでバレてしまう。
見えにくい視線をどうにかしようとしたら、クリスが私の肩を抱いて、そっと見えやすい位置に誘導してくれた。
いや、顔近い。
彼はこういう時気をきかせてくれるんだけれど、唐突にするから驚いてしまう。心臓に良くない。
思わず顔が赤くなってしまうけれど、幸い(?)にもそれどころじゃなかったので、すぐに戻った。
私の視線の先で、悪そうな顔をした男子生徒が口を開いた。
ザ・悪人という感じ。
一目で分かる。
あれは悪役令嬢サイドの人間だ。
なんか、彼女みたいに人を貶めようとしている人間って、分かりやすいのよね。
やる事が。
「という事だ。ここまで言えば、話はもう分かるだろう。違法な品を購入したという秘密をばらされたくなければ、これを校内にばらまくんだ。きっといい宣伝になるぞ。俺が目をかけている闇市に多くの人が流れ込むはずだ」
男子生徒は女子生徒を脅して、何かを頼んでいるらしい。
けれど、乗り気ではなさそうな女子生徒が、か細く反論する。
「でも、こんなことしたら、大変な事にっ」
しかし、男子生徒はそれ一笑した。
「いまさら人目を気にしてどうする。人に言えない事をするのはいまさらだろう。お前のような女にはお似合いだ」
女子生徒は躊躇うそぶりを見せたのち、肩を落として「分かりました」と返事。
顔を青ざめさせている。
その返事に満足した男子生徒は、さげすむような視線をその女子生徒に向けて、その場を去っていった。
さて、私達の出番ね。
この場で落ち込んでいる女子生徒はヒロインの友達だ。
だから、彼女に手を差し伸べた事を、悪役令嬢に悟られるとまずい。
でも、こんな場面を見たなら、やっぱり黙ってはいられない。
というわけで、私は特別なマスクをかぶって、登場。
昔話のマスクの勇者をまねて作ったのだ。
目出〇帽(改)!
銀行強盗に使う様な道具に似ているが、あんなのと一緒にしないでほしい。
こっちは高級布製品仕様だし、おしゃれな蝶の眼鏡がついている。
用意している間に「そういう問題ではありません、お嬢様」とクリスが言っていたが、おしゃれは大事だろう。
私の姿を見た女子生徒はきょとんとした顔になる。
「ひどい男ね、乙女の秘密を脅迫の材料にするなんて」
「あなたは! もしや噂のマスクレディですか」
「その通りよ! 困っている人に手をさしのべる正義の味方なの!」
背後の生け垣で、なぜかクリスがため息をついているような気がした。
たぶん気のせいだろう。
実は、この女子生徒はただ、彼氏のためにプレゼントを購入しただけなのだ。
でもそれを早とちりしたあの男子生徒が、違法な物を購入したと勘違いしているのだ。
それが今回の事件の原因。
まあ、買ったものが人に見せびらかすような物じゃないんだから、早とちりしてしまうのもある程度無理はないのかもしれないけれど。
でもだからって、脅すのはやりすぎだ。
「では、私の事はもう分かっているんですね」
「ええ、貴方が購入したものはちょっと特殊なものだから、人にあげるって言われても納得しがたくはあるけど。悪い事をしようとしているわけじゃないという事は、ちゃんとわかっているから安心して」
そう言ったら、赤面した女子生徒がその場にすわりこんでしまった。
そういえば、この子原作でも恥ずかしがりやだった。
「見られていたんですね。あの人だけでなく、あなたにも。なんて恥ずかしい」
「あっ、違うの。ごめんなさいっ。知り合いが、そう知り合いがよ!」
それで、私も一緒になって赤面する始末に。
生け垣の方を見たらクリスが何やってるんですか、みたいな顔になっていた。
そこ、うるさい。表情が。
「鞭とか、蝋燭とか、手錠とか、ごにょごにょ……そんなの恥ずかしくて。弁解するのに渋っていたら勝手に、違法な薬物を購入したと勘違いされてしまったんです」
その購入品は、確かに言いづらいでしょうね。
彼氏が特殊性癖を持っているなんて事、さくっと公にできるような事ではないし。
けれど、正直に話したとしてもあの男子生徒だったら、そのネタすら脅しの材料に使いそうな気がする。
「私が来たのは、そんなあなたの手助をするためよ」
「ほっ、本当ですか。ありがとうございます。マスクレディさん!」
「私があなたに協力する事実は、誰にも言わないって約束してくれるわね」
「それはもちろん。拷問されても言いません!」
例えが怖い!
悪役令嬢にばれた時のことを考えると洒落にならないのがもっと怖い!
ヒロイン(の友人だけど)を助けたなんて知られたら、きっと私も処罰されるんでしょうね。
いけない。
体の震えが。
考えないようにしよう。
私は思考を切り替えて口を開いた。
「じゃあ、この状況を切り抜ける方法を教えるわね」
かくかくしかじか。
女子生徒を脅していたあの男子生徒。
彼の弱みは分かっている。彼は両親、とくに父親を怖がっている。
だから、そこをつく事にした。
私は、クリスと女子生徒を連れて、彼の実家へ訪れた。
女子生徒は、実家の屋敷に踏み入りながらも、オロオロ。
「あっ、あのう。ほんとに会うんですか? 私達だけで」
「やるわ。あなたも覚悟を決めなさい。何を怖気づいているの、大人になったらご令嬢として、自分より歳上の人とよく合うようになるんだから。社会勉強だと思えばいいのよ」
「はっ、はい」
私はできるだけ自信満々に答えた。
ここで怖気づいて、やっぱり気が変わった。
なんて言われたら困るからだ。
そうなったら、人死にだ。
人死にはいけない。
しかしとんだ初見殺しよね。
何も知らない人間だったら、あの男子生徒の弱点なんて、絶対分からないわよ。
俯瞰の目線で情報が得られるゲームをしていたからこそ、分かる事実というか。
ゲームプレイしていた時も、これヒロインの目線だったら絶対分からないじゃないってツッコミを入れたわ。
私もゲームでやってヒロインとして行動していた時、対応が後手に回っていたもの。
そのかわり、学校で起きた事件の捜査をする過程で、攻略対象とヒロインが仲良くなるんだけどね。
とりあえず、男子生徒の実家に突撃して数分。
私達は応接室に通された。
対応に出てきたのは、男子生徒の父親だ。
まあ、当然よね。
今日は平日で、学校がある日なんだもの。
ここで、本人にお出迎えされたら計算が狂う所だったわ。
でも、大丈夫だった。
ゲーム通り、父親は屋敷にいたようだ。
「あの、こんな昼間から当家にどんな用が? 訪問の約束などはされていなかったはずですが」
当然でしょうね。
予定なんて伝えておいたら、あの男子生徒にばれてしまうもの。
だから申し訳ないけど、急に訪問させてもらったのだ。
様子を見るに、親はいたってまともそうだだった。
普通の態度で挨拶し、首をかしげてこちらの訪問をいぶかしんでいる。
私達もマナー通り挨拶をしてから、手早く本題に入る。
「実は、そちらの息子さんのせいで、私の友人が迷惑を被りましたの。本当は当人同士で話を付けるべきなんですけれども、事が事ですので直接訪問させていただきましたわ。この間、学校の裏庭であった事を全部お話ししますわね」
そう言って、さくっと事情を話す。全てを喋り終わるまで、ざっと十数分。
ゲームで得た知識もまじえて、ちょっと深刻っぽく話してみた。
この世界で生きていた私には知るはずのない情報もあったけれど(男子生徒がばらまこうとしている物の詳しい事とか)、今までゲーム通りのイベントが起きてきたから、外れたりはしないはず。
女子生徒が購入した品物については、やんわりとオブラートに包んで、ざっと説明。
男子生徒が学校にばらまこうとしていた品物については、特に詳しく教えた。
「なっ、何という事だ。それは禁止されている薬物ではないか。あのバカ息子め。そんなものを使用したら、大変な事になるというのに。しかも、闇市と関係を持っているとは。分かりました。ご報告ありがとうございます。息子が帰ってきたら、きちんと事情を聞いてみる事にします。事と次第によっては、牢屋に送らねばなりませんが」
話しを聞き終えた彼は、一人の親として、息子のしでかしたことを本気で恥じているようだ。
憤りを見せるその人物は、女子生徒に頭を下げた。
「後ほど、謝りにいくので今日はこれで勘弁していただきたい」
「えっ、いえ。謝ってもらえるなら、それだけで」
良かった。
私は体の力を抜いた。
これで、なんとか収まりそうだ。
途中まで一緒に帰っていた女子生徒と別れて、馬車で家に帰る。
もちろん、今回の事は誰にも話さないとしっかり口止めをしておいて、だ。
馬車の中で向かいあって座るクリスが、話しかけてきた。
「こういう話は、普通ご両親も同席してもらうものなんですが」
「仕方がないわ。私もあの子の親も、忙しいみたいだもの」
「大変ですからね」
「でも、訪問先の人が子供の話も聞いてくれる人で良かったわよ。そうではなかったら、この間みたいに鞭で対決する事になっていたわ」
例に持ち出すのは、うっかりでイベントに巻き込まれた時の事。迷子の子供を助けるために、なぜか鞭の達人と勝負することになったという出来事だ。
悪役令嬢に目をつけられるから目立つ事はしたくなかったけれど、性悪貴族の屋敷に子供が迷い込んだりなんかするから。
「あはは、あの時はさすがにびっくりしましたよ」
「私だってそうよ。まったく」
何はともあれ、今回も何とかなってよかった。
「うちの学校に、違法薬物が出回らなくてよかったわ」
「本当ですね。幻覚や幻聴の被害だけでなく、多量に摂取すると命にかかわる品物ですから。恐ろしいです」
さて、見て見ぬふりをせず人助けしてしまったが、悪役令嬢マローナは勘づいているだろうか。
できれば、何も気が付かずにいてほしいのだが。
今後の事を考えると気が重くなった。
とりまきとして、彼女の近くにいなくちゃいけないから、なおさら。
悪役令嬢マローナに朝の挨拶をしたら、にこりと笑われた。
その様はまるで毒花が咲くようだ。
特に特別な事はしていないのに、あやしげな雰囲気を感じた。
「先日は、大層ご活躍なさっていたようですわね」
めちゃくちゃバレてる!
取り巻きとしてべっていたら、先日の騒動について言及されてしまった。
ひっ、冷や汗がでてきた。
助けてクリス!
あっ、取り巻きとして侍ってるときは、彼はいないんだった。
私はとっさに頭を回転させる。
大丈夫。いくら名のある貴族でも、事態の細かな全貌はつかめていないはずだ。
そこに思い違いや勘違いをまぜれば、きりぬけられる。
「じっ、実はマローナ様。例の件は、同じとりまきの少女が被害にあっていると聞いていたので、つい手をだしてしまいましたの。でも、まさか被害にあっていたのがあのいけ好かない平民の、その友人だったとは。知りませんでしたわ」
嘘を並べ立てて、必死に弁明。
殊勝な態度も心がけて、しゅんとしてみせる。
彼女は果たして騙されたくれただろか。
そっと様子を窺う。
すると。
悪役令嬢マローナは、じっとことらを見つけめた後、にっこりと笑った。
こんどはふつうの、微笑みだ。
「ふぅん、そうですの。なら仕方がありませんわね」
よし、何とか切り抜けられたようだ!
「けれど、次に何かをする時は必ず私にお言いなさいな。かわいい取り巻きが一人で頑張っているのに、最後まで何もしてあげられなかったというのは心苦しいですもの?」
「はっ、はい分かりました」
けれど、次はないぞ、とクギを刺されてしまった。
それから、当たり障りのない会話をしたのちに開放される。
とりまきから離れると、クリスが待っていてくれた。
「お嬢様、大丈夫ですか」
「大丈夫、じゃないわよ。もう、死んだかと思ったわよ」
ストレス解消のため、今夜はクリスにお夜食を付き合ってもらおう。
太るけど、気にしない。
「お嬢様とは一蓮托生です。今夜も好きなだけ付き合いますよ」
「ありがとう。はぁ、今月もう何回目かしら」
これからも取り巻きとしてやっていけるのだろうか。
空を仰いでみたけれど、そこは校舎だったので天井しか見えなかった。
しかもその天井についている電球の光が点滅して、寿命が来ているというオチだ。
あっ、大丈夫な気がしない。
「お嬢様、小刻みに震えないでください。あと死んだ目にもならないでください」
転生した私は悪役令嬢の取り巻きの一人だった。ヒロインとか攻略対象を助けるたびに、死の恐怖を味わっています。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます