【不定期更新創作百合】先輩と私。
水研 歩澄
先輩と私。
────私の先輩は、表情が読みづらい。
あまり感情が表に出てこないし、声にも抑揚がないから何を考えてるのかわかりづらい。
学校で見かけても大抵1人で本読んでるし、昼も1人で弁当食べてる。友達いないのかな?
「先輩って友達いないんですか?」
ふと気になって、すぐ傍でベッドに寝転んで本を読んでいる
「んー? どうだろ、わかんない」
「なんですかソレ」
「いやぁだって、わたしが友達だと思ってなくても相手が友達だって思ってたら可哀想だし」
「何かそれ可愛くないから、せめて逆にしてくださいよ」
「え、わたし、可愛くない?」
「え……」
うっかり目を合わせてしまった。
この人は表情は貧しいものの、ムダに顔立ちが整っている。なめらかな雫のような肌に、くっきり通った鼻筋。切れ長の瞳は、スラッと伸びるまつ毛も相まってうっかりしてるともろに視線を吸い込まれそうになる。
「いや、可愛いですけど……そんなこと自分で言わないでよ」
「いや、学校だとカッコいいって言われることのほうが多いから、たまにはいいかなって」
「ぐっ……」
悔しいけど、正直この人のスタイルは本当に羨ましい。何着ても似合うだろっていうくらいのモデル体系だし、大した運動もしてないのにお腹や二の腕がたるんでるのを見たことがない。
そんな人がぼっちで本を読んでれば、それだけで『キレーでクールなお姉様』の完成だ。
アコギな商売してるよね、まったく。人の気も知らないで。
「はぁ……」
わかり易くため息をついてみても、先輩は気にも留めず文字の海に視線を落としていた。
「先輩って、本当になんで私のこと好きなの?」
そんな先輩と私は、半年くらい前から付き合っている。とはいえ、放課後2人で寄り道したりはしないし、休日も一緒に映画を見たりショッピングに行ったりはしない。
ただ暇さえあれば先輩の部屋にきて、日が暮れるまでこんな風にダラダラ過ごすだけだった。
「どうしたの? 急に」
「いや、先輩は学校でもモテるのにどうして私の告白を受け入れてくれたのかなって……」
先に告白したのは、私のほうだった。
その時は先輩の人となりもろくに知らず、図書室で何度か話したことがあるくらいの間柄だった。
ただそのクールな雰囲気に憧れてとか、蒼く透き通った声に惹かれてとか、そんな誰とも変わらない理由しか持ってなかったありふれた人間を、どうしてこの人は選んでくれたんだろう。
「んー、飽きもせずにわたしとずっと一緒にいてくれるからかな」
特別悩むこともなく、先輩はそう答えた。
「一緒なんて……先輩と一緒にいたい人なんて他にいくらでもいるよ」
「そうかもしれないけど、その人たちはきっと、映画とか買い物とか自分のための思い出を『一緒』にしたいんじゃない? 誰かみたいに、当たり前のように傍にはいてくれないよ」
私だって、最初はそうだった。
憧れの先輩と付き合えるって精一杯舞い上がって、アレやコレや行きたい場所を調べたり、休日のプランを妄想して舞い上がったりもしてた。
けど、先輩がそういうの苦手だって知ってからはこの部屋で一緒に本を読んだり、お茶を飲んだり、特別なことはしなくてもただ先輩のそばにきて先輩の温もりに触れている時間が、何にも変えがたい大切な時間になっていた。
それが2人の『当たり前』になっていただけだ。
「傍にいるのは私がそうしたいからです。当たり前だよ」
「……そうやって
そう言うと、先輩は読んでいた本を閉じ、ゆっくり起き上がった。
「ねぇ、ちょっと目閉じて」
「え、なんでですか?」
「いいから」
不思議に思いつつも私が目を瞑ると、必死にセットした前髪をかき分けて、溶けるような優しい口付けが額に触れた。
不意のことで思わず目を開くと、すぐ目の前にいた先輩と目が合った。
「こんな感じに好きだけど。どう?」
相変わらず、その表情に大した変化はなかったけれど、私の額に触れた唇はそこからは想像もできないほど熱く火照っていた。
「どうって……嬉しいです、もちろん。当たり前だよ」
「そっか、よかった」
私の先輩は、やっぱり表情が読みづらい。
2人きりの時も本ばっかり読んでるし、相変わらず声に抑揚がない。半年付き合ってても、未だに何を考えてるのかよくわからないし、何かとかわれてばかりな気がする。
けど、そんな先輩はどうしてか私のことが好きらしい。
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