第28話暴露と結実

 このデートは普通とは違う点が幾つかある。その一つは、デートの始まりが朝食からだということだ。


 二人は城の前にあるカフェに入り、一番奥の席に座る。


 鈴華は慧について熱く語る。


「あの時の慧、かっこ良かったよ! 動くことも出来ないはずなのに、私が殺されそうになったら、魔法で助けてくれた。あの時、本当に感動した。ごめんね、私、一回諦めちゃったの、あの時。でも慧は諦めなかった。」


 鈴華は目をキラキラと輝かせて、あの日の慧を語る。


 鈴華にとって慧は、最高にかっこいいヒーローに見えていた。


 不可能を可能にした英雄だった。


 そしてそれは、慧の演技、偽物の塊である。


 結果慧は鈴華の純粋な瞳に耐えきれなくなり——がばっと頭を下げた。


「すまない、鈴華!」


 鈴華は意味が分からなかった。慧のかっこいい所を言っていたら、急に慧が謝ってきたからだ。


 そんな鈴華に、慧は策略の全てを話した。


 鈴華は悲しかった。


 激怒するのを止められなかった。


「じゃあ、あの時、実はピンチでもなんでもなかったの? あの魔法も、撃とうと思えばいつでも撃てたの。」


 慧は、ああ、すまないと静かに謝罪を繰り返す。


「慧が吹き飛んだ時、めっちゃ心配したんだよ! 慧が魔法で、守ってくれた時はとても感動した。諦めた自分を恥じた。慧の役に立てて、嬉しかった!」


 鈴華は、怒鳴る。


「それは全部、紛い物だったの?」


「すまない。」


 慧は頭を下げたまま動かなかった。風翔があの日言っていた通り、慧は許されざることをしていたのだ。慧は、鈴華に二度と見たくないと言われたらこの街を出よう、死ねと言われれば死のうと思っていた。


 そして——慧のその覚悟は、何の意味もない、的違いなものだった。


 慧は鈴華のことを全然理解していなかった。


 鈴華は、命を救われ、恋をした。


 鈴華は依存と言っても、過言ではないくらい慧を信頼している。


 ——だから、


「理由を話して下さい。何か私の為を思ってやったんでしょ?」


 裏切りに近い行いをした慧を——信じた。


 慧は混乱する。


「なんで? なんでそう思うの? なんでそんなに信用してくれるの?」


 だって、と鈴華は言う。


「慧が嫌がらせでそんなことするはずないって知ってるもん。私を騙して、他の人の為に何かするっていうのも、慧らしくない。きっと、慧が私を騙すのは、私に利益がある時だけ。騙している時以外の慧を見てたらそれくらい分かるよ。それとも——それ以外の時間も、演技だったの?」


 最後に戯けて見せた。


 慧は慌てて否定し、泣きそうになりながら理由を説明する。


 ——全ての理由を聞き終えた鈴華は妙に納得した。


 確かに方法はそれぐらいしか無かったのだろうし、慧は、私を守る為ならそれぐらいやる、と。


 結局、いつもの慧だったなーと思いながら慧に言う。


「許すよ、慧。というか、理由を聞いたら、怒る気なんて無くなったし。」


 そして、何も言えない慧に、鈴華は感謝を伝える。

「ありがとう。」


 慧がポカンとした表情を浮かべる。


「あの出会った日、一生懸命に私を生かそうとしてくれてありがとう」


「私の為に、色々用意してくれて、面倒を見てくれてありがとう」


 ——そして


「いつも私の事を考えてくれて、私の為に行動してくれて、ありがとう」


 慧の目が潤む。


 慧だって分かっていた、自分の行いが鈴華に対する酷い裏切りだと。


 それでも実行した、それがきっと鈴華の為になると信じて。


 心の葛藤に、苦しみ、悩んで、悔やんだ。


 それに鈴華が感謝した。


 慧にとってこれほど嬉しいことはない。


 そしてやはり、自分を信じ続けてくれた鈴華を見て、自分の行いを悔いる。


「ごめん……ごめんっ! 鈴華の信用を裏切って」


 鈴華は慧の対面の席から、横の席に座り、慧の手を握った。


「ううん、慧は裏切ってなんか無い。全部私の為だった。実際、上手くいった。——だから慧、もう気にしないで? それよりも、今日という私にとって大切な日を、暗く過ごしたり、疎かにした方が怒るから。」


 慧は頷く。


「分かった。だけど、何か埋め合わせをさせてくれ。」


 鈴華は笑う。


「とっくに私は、返しきれない程の恩を慧から受けてるんだけどなー。……でも何かしてくれるんだったら——」


 そこで鈴華は名案を思いつく。


「じゃあ今日一日、私が、最後まで聞いて、って言ったら、絶対に話を遮らずに聞いて? その後の答えがどうであろうと。」


 当然これは、告白のことを意図して言ったものだ。慧がその真意に気づけるはずもなく、混乱しながらも了承した。


「って、こんな騒いじゃって怒られないかな。」


 鈴華は今さらな心配をする。


「大丈夫だよ。今、お客さん僕達しかいないし、ここ、『アストライヤー』の全面バックアップで出来た店だから」


「ねぇ、『アストライヤー』ってなんなの? この自治区と同じ名前だけど、ギルドには専属の職員がいるし、武闘派組織の癖に、カフェのバックアップしてるし。」


 何って……と慧は思う。


「アストライヤー自治区の前身、アストライヤー王国。その中心を担っていた組織が今の世界最強派閥、『アストライヤー』だよ。」


 まさか王国の中心だとは思わなかったが、そこまでは鈴華も理解できた。


 しかし、慧がさらっと口にした世界最強という言葉には驚きを隠せない。


 はああああああああっ⁉︎と叫ぶ鈴華の声はカフェの外にまで響き、流石にもう少し静かにして下さい、と店員さんに怒られるのであった。

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希望と絶望の渦巻く戦の世界で僕は君と愛を誓う 志波奏多 @shiba55

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