虹色ラリー

高牧 なつき

第1話 1回目の最後の夏

〜プロローグ〜

体育館に響き渡る高らかな音。

キュッキュッとなるその音は青春の音なのかもしれない。


第1章 『1回目の最後の夏』

「よっしゃあ!一回戦突破!この調子で二回戦も勝って全国大会行こうぜ!」

「一回戦勝ったくらいで騒ぎすぎだよ(笑)

初戦は格下だったし、こっからだよ」

「初戦は大事ってよく言うだろ!第一関門を乗り越えたんだから喜ぼうぜ!」

中学3年の夏、最後のバレーボールの県大会初戦を終えたうちのチームは勝って賑やかだった。

「次の相手はどこが来るんだろうな…」

俺は早速次の相手を警戒していた。

「翔琉は相変わらず心配性だなぁ。2回戦くらいは行けるだろ。俺たちベスト8から落ちたことないんだぜ?」

と俺の心配をよそに、チームメイトのライトの涼介は言う。それを聞いて先程喜びに浸っていたミドルブロッカーの一希と冷静だったセッターの海疾(かいと)も確かにと言った納得の表情で笑った。そして、リベロの裕樹、ミドルブロッカーの幸助、俺の対角を組む壮太も笑っていた。

「確かにそうだな!このチームなら今回こそは全国行けるよな!田舎者の力見してやろうぜ!」

キャプテンの俺のこの一言でみんながおう!と声をあげ団結した。この時は知らなかった。まだ自分たちが油断していたことすらも。


2回戦の時刻になり、俺たちはアップを終え、試合会場へと向かった。チームは全体的に緊張感には欠けていたが、勝とうという気持ちにはブレがなかった。

会場内ではボールを使った練習を行うので、

早速俺たちはボールを出しパスやスパイクに取り掛かった。相手はまだ格下で、ネット越しに伝わるその闘志は俺たちの肌を焦がすような感覚を与え、ここで自分たちが舐めていたことを各々が自覚した。が、もう手遅れだった。試合開始の笛が鳴った。初戦とは打って変わって、声を出そうにも喉で詰まる。拾えてたボールが拾えない。こんなにブロック捕まるほど自分は弱いスパイカーだったのか。と別人に成り果てた自分のプレイに動揺をチーム全体が隠しきれなかった。

結果、負けた。ベスト8が2回戦で負けた。

ベスト16にもなれず、俺たちは中学最後のバレーボールを終えた。勝って下剋上を果たした相手チームは喜びで優勝したかのように泣き出している人もいた。対して、うちのチームは泣く人などおらず、負けたことへの動揺が隠しきれず全員が時が止まったかのように棒立ちしていた。うちのチームの敗戦は瞬く間に会場で話題になった。普通はあり得ないことだからである。顧問の先生も驚きを隠せないままミーティングを始めた。引退と言えば、普通は優しい声をかけられるものだ。

しかし、先生の言葉はそんなものではなかった。

「お前たち、相手を舐めてただろ?

ベスト8が負けるはずがないって。普通にやれば勝てるって。」

俺たちは全員その図星の発言にドキッとした。返す言葉さえなかった。続けて先生は、

「ずっと言ってきたよな。慢心はするな、夏は何が起こるか分からないって。散々言ってきた結果がこれか?」

俺たちはここでようやく目頭が熱くなっていることを認識した。自分たちの夏が終わってしまったことが現実味を帯びてきた。

「さっきの敗因は俺の力不足だ。お前たちがこれからすべきことは人生においてこのような失敗だけはしないと念頭において日々を歩むことだ。今日の負けは通過点だ。先生もお前たちとやれて楽しかった。今日から受験勉強が本格的に始まるな!(笑) ちゃんと第一志望に行けよ?(笑) じゃあ解散!」

最後は先生が優しい雰囲気で最後のミーティングを終わらせた。負けは自分たちの甘さのせいだ。チーム全員が負けたのは先生のせいじゃないと、自分たちのせいでしかないとミーティングの後も自身を責め続けた。その後、写真撮影を先生含めチームで行った。先生に俺たちはお礼をして、先生もまた一言かけてくれて、その後、車を止めた駐車場でそれぞれの親が話してるから、俺たちは集まっていた。無言の沈黙の中で。そして、1番の熱を持っていた一希がいきなり号泣した。

それを引き金に俺たちの涙は止まらなかった。間違いなく生きてきた中で1番泣いた。

後悔しか残らなかった。やりきれず終わってしまったことに全力で自分を責めた。親はなく俺たちを帰らせようともせず、気がすむまで待っていてくれた。しばらくして涙が引いた後、俺たちは誓いを立てた。

"これからの人生は常に全力で、必死にもがいて悔いのないものにしよう。それが如何なるものであっても" と。

こうして俺たちはそれぞれ一回目の最後の夏を終え、家へと帰った。

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