第4話 ファーストコンタクト

四限終了のチャイムがなるとすぐに壮太が俺のクラスまで急いできて、必死そうな声で、

「おい!翔琉!早く行くぞ!もう人だかりできてる!」

そんな人気なのかよ…と思い、重々しく腰を上げ、壮太と例の1組に向かった。

だか、1組に群がる先客たちに盛り上がりはない。すると少しして、みんな帰り出した。

その人だかりの中から、

「すぐ行ったのにいないなんてな…今日休みなのかな…」

という声がしたので、俺たちも教室に例のマドンナはいないことを悟り、帰ることにした。帰りながら壮太は、

「いないとは予想外だな。翔琉、帰りも終わったらすぐ行くから、待ってろよ」

「お、おう…」

俺は断るのも面倒になって、すぐ承諾してしまった。壮太と別れ、自分の教室で昼ごはんを食べようとすると、なんだか飲み物が飲みたくなって、体育館のすぐ横にある自販機に向かった。そこで、中学の時からよく飲んでいたレモンスカッシュを買うと、体育館からキュッキュッと音がするのに気づいた。

「昼休みなのに誰かいんのか?」

恐る恐る、体育館に向かうとバレーボールが転がってきた。それを拾うとすぐに、1人の女の子が急いで入り口に向かってきて、

「うわー!外に出るのはボール汚れる!

って、拾ってくれたんですか⁉︎ありがとうございます!」

「い、いえ…昼休みなのに自主練習ですか?」

俺は天真爛漫なその子のテンションに圧倒されつつ、質問した。

「はい!私、一年なんですけど、バレーボールやるって決めてて、それでまだ仮入部期間なんですけど、顧問の先生にお願いして自主練させてもらってるんです!」

「すごいやる気ですね。俺も中学バレーボールしてて、さっきボール飛んでくる前に飛んでるとこ見たんですけど、女子でそんだけ飛ぶってなかなかいないですよ。あ、自分も一年です。8組の空野翔琉といいます。」

「空野翔琉君ね!よろしく!あ、申し遅れちゃったね!私は桜並小春って言います!

同級生だしタメ語ね!」

「あーー!」

突然上げた俺の声に桜並の声が止まる。

「え?どうしたの?」

「君があの桜並小春⁉︎」

「私のこと知ってるの?」

「いや、むしろ同級生で知らない人の方が少ないんじゃないの?」

「なんで?私、芸能活動とかしてないよ?」

「いや、自分が一年の間でなんて呼ばれてるか知らないの?」

「知らないよ?」

「え」

「え?」

「え」「え?」 

2人の声が最後ではもる。そして、間髪いれずに桜並が続けて、

「えー!私なんか早速嫌われてる感じ⁉︎

私なんもしてないよ⁉︎最悪だ!どうしよ翔琉君!」

動揺する桜並に俺は慌てて訂正を入れるように、

「違う違う!お前すげーかわいいって1年の間で評判なんだと!マドンナって呼ばれてるって昨日友達から聞いた」

「え?」

「え」

「え?」「え!」

またハモった。次は慌てて俺が口を開き、

「…え?知らなかった感じ?」

「え、うん。聞いたことなかったよ」

「あ、そうなんだ。さっきもお前を一目見ようとクラスに人だかりできてたぞ」

俺は自分もその人だかりにいたことを隠し、一応その事実を伝えた。

「そうなんだ。でも、昼はすぐこうやって自主練しに体育館来ちゃうから無駄足になっちゃうんだよねぇ…(笑)」

「ちなみにこれ他の人に言わないでね!体育館に来られるのは流石に迷惑になっちゃうし、私も振り回したくないから、翔琉くんと私の秘密!情報漏洩厳禁!」

「あ、ああ…約束するよ…」

俺は桜並のバレーに対する熱量に圧倒されつつも凄いと心から思った。そんなことを考えていると、桜並が

「今暇してる?」

「あー、うん。弁当食ってないけど、お腹も空いてないし、暇だよ。なんで?」

「バレー部だったんでしょ?何中?」

「そうだよ。明林(めいりん)中。」

「え!明林って最後の夏のあの大番狂わせの?」

「そうだよ(笑)。あのジャイキリされた明林。流石に知ってるか(笑)。県内の中学?」

「そうそう!県内の中学だよ!そうなんだ…苦い思い出話させちゃってごめんね…」

「いやいや!大丈夫!今はあれに感謝してるんだ、気にしないでよ。」

「感謝?なんで?」

不思議がる桜並に向かって、俺は

「ちょっとだけ長くなるぞ?自主練の時間少し減っちゃうけどいいの?」

と聞くと、

「いいよ!聞かせてよ!」

そう言われるとすぐに俺は桜並にはあの苦い過去を話せていた。あまりダサいから言いたがらないのに不思議な感覚に襲われた。

そして俺はあの日の出来事、そっからの俺たちバレー部の努力、誓い、全てを話した。

全て話し終えると、桜並は目をキラキラさせて、俺の肩を力強く掴んで、

「すごいよ!それって才能だよ!みんながその状況からできることじゃないよ!高校はバレーやんないの?」

早口で言ってきたので俺は

「才能なのかなぁ?今悩んでるんだよね、いい大学行くには勉強時間は欲しいし、でもやりきれない感はバレーに残ってるし、考えてるんだ」

と言って、心中を吐露した。すると、

「そうなんだぁ…やった方がいいと思うよ!バレー!絶対翔琉くんは強くなれる!私が言うんだよ?間違いないって!」

「なんだよその謎の自信。(笑)」

桜並はそれを聞いてクスッと笑った。それを見て、すげー可愛いなって思ってしまった。

それが顔に出ないように努めていると、また桜並が、俺にむかって、

「さっき暇か聞いたじゃん?ねぇねぇ、私と今一緒にバレーしない?」

「え、今⁉︎別にいいけど…」

「じゃっ決まり!入って入って!何からやろうか!少し準備運動してて!」

バレーとなるとまた一段と目を輝かせる桜並は俺を完全に圧倒してきた。全く会話の主導権を握らせてくれない桜並を可愛いと思ったことを俺は少し後悔し、恋愛対象にはならないな。そう思った。

準備体操を終え、俺は早速バレーボールを触る。中学バレー部メンツで集まれば一希のボールで毎回遊んでたし、そんなに久しぶりという感覚には襲われなかった。

少し桜並とパスをした後、今日は対人というお互いに撃ち合いながらラリーを続ける練習をすることにした。対人が始まって、すぐに桜並のうまさを感じさせられた。一つ一つが丁寧で綺麗だった。打ってくるボールも男子ほどではないがしっかり重さがあって、強豪でもやっていける強さであると分かった。

俺もミスして練習の妨げにはしないように努めていたが次第に楽しくなってかなり本気になっていた。昼休みが終わる10分前になって、練習を終えると、桜並は俺の元へ来て、

「今日はありがとね。また明日!きて!やろうよ!バレーボール!後、このことをもっかい言うけど口外しないこと!帰りさ、終わったら体育館に来てくれない?連絡先交換しよ!」

俺は突然のことに驚きながらも、

「おう!俺も楽しかったし,桜並がいいなら明日も来るよ!でも、帰りってなるといつも一緒に帰る中学のバレー部の同期がいるんだけど、そいつはいてもいいか?」

と返事すると、

「うーん、なるべく2人の方がいいんだよなぁ…もう人が増えるとその分バレちゃうしなぁ…。その子は口が硬い?」

と聞いてくるので、

「あいつは約束は守るしいいやつだ!俺が約束する!」

と断言すると、

「翔琉君がそこまで言うならいいよ!

じゃあまた帰りね!私先行くね!バイバイ!」

と言って、昼休みを後にした。

そして、その後すぐに食べ忘れたお弁当を思い出し、家に帰ってから食べるか。と決意した。

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虹色ラリー 高牧 なつき @nattun72

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