第126話
「ふぅ~疲れたぁ~やっぱイザークのお茶最高♪」
城に帰り、普段着に着かえ入浴も済ませたリディアはソファに座りイザークのお茶を一口飲むと皆の顔を見た。
ゆったりくつろぐリディアの周りにいつもの面々が揃っていた。
「今日は色々あったからなぁ、お疲れさん」
キャサドラもイザークのお茶を一口飲む。
(気にしなくてもいいのに…)
義父を目の前で殺した事、またそういった事があった事に対して別に何も言わないが、気に掛けて皆がリディアの部屋に集まったのだ。
「そう言えば、取り寄せていた美味しい茶菓子が手元に届いたので持ってきたのですよ」
「おおっディアの取り寄せたのって大体手に入りにくい高級品でしょう!やった♪」
キャサドラが目を輝かせる。
「さぁ、どうぞ、召し上がれ」
高価な箱の蓋を開けると上品な色とりどりの茶菓子が詰まっていた。
「綺麗ねぇ」
「何色がいいですか?お取りしましょう」
「じゃ、この赤いのベリー系かな?この赤で」
サディアスが赤を一つ取り出し、リディアに差し出す。
「ありがとう」
それにリディアが齧りつく。
「んーっおいしい!!」
口いっぱい広がるベリーの香りに幸せそうに頬に手を当てる。
その表情に皆の表情が和らぐ。
「では、俺も頂くか」
「あー私茶色がいい」
「ほら、イザーク、お前も食べろ」
「あ、ありがとうございます」
皆美味しそうに茶菓子を食べ、お茶をする。
和やかな雰囲気にリディアの心も和む。
(昼間の出来事がこうしていると嘘みたい…)
「んっ」
緊張が解れ、腕を上げ伸びをする。
のんびりとした空間。
その空間にふと思う。
(何だかこれって大団円?)
伸びをした手を下ろしながら見渡す。
大団円を狙いつつこの城から逃げて一人で、もとい、イザークとリオを連れて逃げる予定だった。
結局一人暮らしも出来たけど、皆に会う事を無意識に望んでしまった自分。
戻ってきたらパーティだー何だ―とやっぱり面倒で嫌だけど、今のこの空間は嫌いじゃないなとふと思う。
むわっ
(あ~もういい感じだったのに)
「リディア様?」
席を立つとテラスに続く窓を開く。
「これだけ筋肉質集まったら熱いわ」
窓から風が注ぎふわっとカーテンが靡く。
心地よい風に窓の外を見る。
(まぁ、これもこれでありかな?)
このままここで暮らしてもいいかな~なんて思ったリディアの背後に大きな図体が室内の光を遮った。
「やっぱりお前がいい」
振り返ったそこにオズワルドが真っすぐに見つめ下ろしていた。
「え…?」
少し首を傾げた顔にオズワルドの顔が近づく。
「?!」
影が重なる。
皆があまりの突然の事に固まった。
「姫はお前がいい」
「姫って… ガラじゃな…い」
リディアの顔が真っ赤に染まる。
「お前っ」
「離れろ!」
我に返った皆が慌てふためき声を上げた。
「取り消せと言ってるだろう!」
「リディア様っ」
「うわぁっ団長っっ」
ガチャガチャと机の上のカップなどを倒しながら、皆が詰め寄ろうと席を立つ。
「俺が叶える、お前の夢を、だから俺を選べ」
「どうしてそこまで…?」
「好きだから」
「信じられない」
オズワルドがフッと笑う。
「そうだな、俺も信じられない」
そして ――――――
「!」
再び重なる唇。
その唇に戸惑うリディアの身体が不意に発光し始めた。
「?!」
驚き自分の体を見る。
「これは一体?!」
リディアの身体が透けていく。
「リディア様!!」
「まさかっまた?!」
どんどんと光に包まれるように体が消えていく。
「行くな!!」
「行かないでっっ姉さまっっ」
「私もお連れ下さい!!リディア様!!」
皆の声が遠くなる。
オズワルドが必死に私の透ける身体を掴もうとしているのが見えたのが最後だった。
完全にリディアが姿が消えた事に愕然とする。
「なぜ…?」
「姉さまぁああぁあ!!」
リオが今居たリディアの場所に蹲る。
「いや、まだだ、まだどこかに移動したのかもしれん!」
「すぐに探しましょう」
「無駄だよ」
「!」
窓から聞こえた第三者の声に皆がバッと振り返った。
「ディーノ様‥‥、それはどういう意味でしょう?」
イザークの言葉に顔を俯かせたままディーノが口を開いた。
「あの時、リディアは死んでいた」
「!?」
「嘘だ!今までここに居たじゃないか!!」
ディーノが首を横に振る。
「精霊の命の灯を借りていただけだ」
「え‥‥?」
「その灯が今消えた、リディアは完全に……消えた」
「ここは…?」
リディアが辺りを見渡すと何もない無の世界が広がっていた。
前にも来た世界だとすぐに気づく。
「最後の時を楽しめたかい?」
のんびりとした声に振り返るとカミルが居た。
「ああ、そうだった、私、死んでたんだっけ…」
あまりに普通に肉体があったから、死んでいた事をすっかり頭から抜け落ちていた。
「死んで…、ですか、少しはこの世界を楽しめたようだね」
「?」
「あなたが皆に会う事を望むなんて思わなかったよ」
「私も思わなかったわ」
そう言うとカミルが嬉しそうに笑った。
「てことは、ゲーム終了ってわけね、…てあれ?ゲーム終了だと私どうなるの?」
「やはりあなたは勘違いをして…」
「え?」
首を傾げる。
「前に会った時に言いそびれたんだけど‥‥」
「リディア、ここ、ゲームの世界じゃないよ」
「え…?‥‥・ええええええええ?!?!!!」
リディアが素っ頓狂な声を上げる。
「ここはただの異世界」
「いやいや、私この世界のキャラの絵師知ってるよ?好きだったのよ?それにジークやオズにサディアスとか攻略キャラみんないたし!」
「たまにここと違う世界の人が夢でこちらの世界を見る事があるから、絵師がその夢を見たのかもね」
「は…?」
「よくある事だよ~、人はね、見たものしか描けないんだ、だから絵師がこの世界を垣間見ちゃったんだね~」
「な‥‥」
「あと、本当にリディアが言うキャラはゲームにいた?よく思い出してごらん」
「いたはずよ?オズワルドなんか一目惚れであのゲーム買ったわけだし‥‥」
カミルに言われて必死に思い出す。
当時の自分を思い描く。
初めて一目惚れしたオズワルドのキャラに涎を垂らし眺めてた自分を。
”何?!ドストライクなんですけど!!名前は――――”
――――― オズスロット!うわぁ、このキャラのスロットゲームとが出そう!絶対やるけど
「あ・・・・」
「その顔は思い出したようだね」
一度記憶が戻ると更に思い出す。
CMでジークヴァルトがニコッと笑う。
――――俺の名はローレンス!俺を楽しませろっ
そう言って豪快に笑うジークヴァルトもとい、ローレンス。
「ああぁあ…他にも色々おかしい所が蘇るぅ…」
「ちなみに、イザークは本物の魔物だよ」
「‥‥」
(あー、そこはどっちでもいいや)
魔物設定はむしろ好物。
(それよりも!!)
「でもイベントとか、内容はあってたのはどうして?」
「あなたは光を宿せる子としてこの世界に呼び寄せることとなったから、貴方の指導霊達が予め予備知識にゲームなどを使って見せたりと誘導したんだと思うよ~」
「へ?」
「人は皆、高次の導く存在が付いているからね~、ほらよく思い出してごらん、きっとそのイベントも違うゲームの中とかアニメや小説だったりしなかったかい?」
「!」
そこでハタッと気づく。
そういや魔法石爆発はあったが橋の爆発は違うゲームだったことに。
サディアスイベントも全く違うゲームで、思い出したスチルも青い髪だけが合っていたことに。
そうなると他のイベントもどんどん怪しくなる。
汗がだくだくと流れ出す。
「まぁ、君が勘違いした乙女ゲームもその絵を見せることが目的で、もれなく予備知識用にさせただろうから、似ている所もあるだろうけど似ているだけで全然違うよ~、だってここゲームの中じゃないからね~」
「えええっっ嘘でしょ?いや、でもシナリオ通りに…いや、それもバラバラで…、あれ?え?訳がわかんないっっ」
「もしかしたら選ばれたのはその適当な記憶力だったのかもね~」
「へ?」
「誘導しやすかったのかも」
「は‥‥はぁああああ?!」
愕然とするリディア。
(私の適当さが災いしたってこと? 何だろう… 自分で自分がいたたまれん)
「そう言えば…、何でこんなに攻略難しいんだろうってずっと思ってた…、あれ?よく考えるとリオの事って解決してない…なのに大団円?大団円成立できたから良かったものの…」
「だから大団円自体がないんだよ~、ゲームじゃないんだから」
「あーそうだ、ゲームじゃないから大団円とかないんだっっ」
絶叫しながら頭を掻きむしる。
その手がふと止まる。
「あれ?じゃ、最初から死亡フラグもあったって事?」
「ええ、もちろん、だって今死んでるじゃないか~」
「!?!!?」
サーッと顔が青ざめる。
「死なないと思ったから好き放題してたのに…下手したら死んでたって事…?」
「凄いな―って思って感心して見てた~」
「見てた~って、は???言ってよ!!!」
「いや~まさかゲームの中にいるとか思ってるなんて思ってなかったから~」
「ああぁああ…じゃぁ、ここは‥‥」
「完全、異世界」
「・・・・」
頭が真っ白になる。
(乙女ゲームの世界に入ってしまったと思ったら完全異世界でした‥‥てか?!)
愕然とするリディア。
(あれ?違う)
リディアがハッとする。
「やっと理解したようだね~、ゲームでも異世界でもない、その世界に『入った』んじゃない、シナリオでもない、君は確かに元の世界で死んだ」
「っ‥‥」
「君たちの感覚で言うと、元の世界は『現世』ではない、『前世』だ」
「‥‥」
「まぁ、厳密にはまた違うんだけど~、というか~我々には時間という一方通行の概念はないからね、君たちのその感覚すら解らないけど、あれ?聞いてる?」
生きているようで生きてないような気持がずっとあった。
(そうじゃない、私、生きていたんだ‥‥)
自分の手を見る。
シナリオの中であっても私はこちらで生きていたのだ。
「そか、本当に死んじゃったんだ…」
「そう、君は”死んだ”、前世で持っていた肉体を脱したんだ」
(現実世界でも私は…)
「ん~‥・、やっぱ実感が沸かないや」
「そう…」
「そうか、今回の私、”リディア”もまた、亡くなったのか…」
「‥‥ふーん、そこで、『亡くなった』…ね、 それも正解だけど…」
「?」
首を傾げるリディア。
そんなリディアにニッコリ笑う。
「とにもかくにもお疲れさま~」
「お疲れ様じゃなくて、私どうなるの?…そう言えば、呼び寄せたって…あの聖女の力で魔物を封じ込めるために?」
「それもある」
「それもってことは他にも?」
カミルが困った表情をする。
「ここから先は制約があるから我々は教えることが出来ないんだ、ヒントは与えられてもね」
「制約?」
「この世界との制約さ」
「この世界?」
「君は元地球に住んでいたね、姿が地球なだけで地球は生きている、地球という世界もまた意思があるんだよ」
「‥‥意思?」
こくんとカミルが頷く。
「で、その世界に干渉するにはその世界との制約があるんだ」
「‥‥」
「人間に直接干渉する事はできない、だから君は指導霊の存在を知らないだろう?」
「うん…」
「人の意思を無視して無理矢理従わせるのはご法度でね、全ては人の意思に沿っている、この世界もそうだよ」
「私が拒否したら拒否の方向に行くの?」
「ああそうさ、全ては君の選択次第さ」
「選択ねぇ…」
「これからもそうさ」
「え?‥これから??」
「残念ながら今回は失敗に終わってしまったけど、まだ君は魂が残っているから頑張って~期待してるよ~」
「え?失敗?…てか頑張ってって?!!え???え???」
不意に体が無に溶けていく。
「ここから先は予備知識もないから大変だろうけど、それに長い旅になるだろう…だけど、きっと君なら大丈夫」
にっこり笑うカミルの姿が消えていく。
「ちょっと待ってっっ―――ねぇってば!!」
(意味わかんないんですけど―――――!!!!)
そして完全に無と同化した。
風に飛ばされかけた書類を手にすると、窓の外を見た。
「静かですね」
サディアスが風で床に落ちたもう一枚の資料を手にする。
「ああ」
ジークヴァルトが一つ息を吐く。
「まぁあいつらの事だ、どこかで元気にしているだろう」
あの後、リオとイザークとオズワルドが姿を消した。
賑やかだった城内がやけに静かに感じる。
「彼女がまだ亡くなったとは…私には思えません」
「そうだな、だから探しに行ったのだろう」
遠い眼をしながら窓の外を眺める。
「きっといつかまた会える、俺は、そう信じる」
窓から風が入って来る。
その風に飛ばされそうになった書類を慌てて抑える。
その押えた手の指にはめられた紋様の入った指輪がキラリと煌めく。
風がさらに書類を揺らした。
その風に飛ばされないよう書類の上に美しい小刀を置いた。
<END>
最後までご愛読頂き、ありがとうございました。
ここまで書きあげられたのもあなたのお陰です。
本当にありがとう!
で、
これで終わり??と思った方、たくさんいらっしゃると思います。
実は、この話は、本編の序章の話です。
要は、この物語全部が序章。
「はあああ???」
と、驚いてくださったあなた、ありがとうございます。
その反応を待っていました。
「乙女ゲーム」の中(だと思ってた)から、今度は完全「異世界もの」です。
ここから更にえっちぃなのとかぐろっきぃなのとかも表現入る予定でいるのと、「乙女ゲーム」から「異世界」と世界観が変わってしまうので、タイトルも変更する予定です。
それでもお前についていってやるぜっ!というあなたは、本編公開次第また読んでいただけると幸いです。
本編公開についてですが、今のところ、いつ公開するか、ここにUPするかどうかも検討中で、どこでUPするかは未定です。
大まかな内容は大体できているのですが、構成案が色々変更があって、まだまとまりきっていません。
いずれ公開できればと思っています。
違う作品も書きたい欲求もあって、どっちを先にするかも悩み中です。
とはいえ、ちょっと疲れたので、いったん休憩に入りたいと思います。
一年以上の期間にわたり、付き合って下ったあなた、ありがとうございました。
また感想や評価、誤字脱字報告、下さったあなた、ありがとうございました。
どれほど励みになったことか!マジで感謝です。
この物語を、数ある中から見つけて、読んで下さったあなたに感謝です。
ありがとうございました!
それではまた、いつかお会いできることを祈って!
またね^^
ありがとう。
蒼羽咲
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました 蒼羽咲 @aoiyuki
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