第9話
「おにいしゃん、おやちゅみなしゃいでしゅ~」
まだヌイが幼い事もあり。
彼女の五回目の誕生日会は日が沈んでから二時間ほどでお開きとなった。
メイさんに連れられて寝室へと向かったヌイを見送り。
リビングに残った俺はロゼに本題である書の民という言葉について尋ねる事にした。
◇◆◇
「今日出会ったばかりだというのに、あんな豪勢な食事まで頂いてしまって悪いな」
「気にしないで。 貴方にはヌイを無事に連れ帰ってもらった恩があるわ。 それに、予想だけど…貴方はこの街についての知識はあるけど実際に来るのは初めてなんじゃないかしら? 」
「……! 」
ロゼの的を得た発言に思わず目を見開く。
知識はあるが実際に訪れるのは初めてという言葉は、EGOというゲームでパンダムは知っているが現実では訪れた事がない俺の状況をまさに表していた。
「その反応をみるに、今の話が的外れってわけじゃなさそうね」
「…ああ。 そうだ」
「はじめに言っておくけど別にアタシが相手の考えを見通せるとかじゃないわよ? それだけ、貴方たち書の民は有名なのよ」
「その…書の民というのは、俺がもつこのゲームブックが関係している言葉なのか? 」
「ええ、そうね。 といっても…アタシにはその本の姿形は見えてないんだけど。 たぶんお母さんも、もちろんヌイも」
「…そうだったのか」
「だから正直、貴方が転送の話を口にするまではアタシも貴方が書の民だっていう確信は持てなかったわ。 ただ…貴方の場合少し変だったから。 遅かれ早かれ気付いたかもね、ふふっ」
「へっ、変? 」
「あっ、違う違う。 悪い意味じゃなくて。 貴方ドラミンの冒険者って言ってたでしょ。 ドラミンの男性は殆ど竜の国ゴルデシアの王様であるエリザベートに囲われてるって話だから」
「王様が…? 男たちを集めているのか?? 」
「ええ。 今でこそだいぶ少なくなってきたけど…国の主が男王でもない限り王が男たちを囲うのは珍しくないことよ」
「男王? 」
「聞いたことないの? 男の王様のことよ。 まあけど、知らなくても仕方ないわね。 男の王様は数える程しかいないし。 実際に男王が国の支配権を握ってるところなんて殆どないしね」
初めて聞かされるこの世界の常識に軽く混乱しかける。
話を聞くに、どうやらこの世界の男女のありかたは俺が知る世界のものとは随分とかけ離れているみたいだ。
「それに、普通男の人ってアタシみたいな冒険者の女にはいい顔しないっていうか…。 初めから警戒してるから、ジークの対応の仕方をみて珍しいなって思ったのよ」
「警戒? 」
「ええ。 あんまり同業者のことを悪くいいたくないけど…。 冒険者って世間では少し粗暴なイメージを持たれてるから。 ただでさえ、力強い女は男の人に怖がられやすいのに…そこに冒険者なんて肩書が加わっちゃったら警戒されるのも無理ないわ」
「力強い女性が怖がられるだと…? 何故だ? 」
アスリートや力仕事が得意な女性が、称賛される事はあれど男から怖がられるというのはなんともおかしな話だ。
「えっ、何故って…。 書の民でもそこは変わらないでしょ? 力強さは女の魅力でもあるけど、男の人からしたら恐怖の対象でもあるわ。 一般的に、男性の方が傷の治りが早かったり生命力は高いっていわれてるけど。 魔法や力の強さはどうしても女の方が優れてるからね」
(男は生命力が高く、女は魔法や力に優れている…? まさか…EGOで存在した男女のステータス差がこの世界における男女の関係に大きく影響しているのか? )
EGOにおいて圧倒的に女キャラが占める割合が多かったのは、どの種族においても女キャラの方が火力に関連したステータスが初期から高く設定されており。
レベルが低いうちは各種能力値の差など微々たるものでもカンストまでいけば無視できなくらいステータスに差が出てしまうため、俺のようにタンクを目指さない限り男キャラを選ぶメリットが殆どないのだ。
「ジークの場合、書の民だから冒険者に対する偏見がなかったんでしょ? それにしても、女に急に家まで誘われてすんなんり着いてきちゃうのはちょっと警戒心が無さ過ぎだけど…。 ま、まあ連れてきちゃったアタシが言えたことじゃないんだけどね」
(なんというか……地球で暮らしてきた俺からすると違和感を覚える話だが、これがこの世界の常識なのだろう)
「あ、ああ。 次からは気を付ける」
「それがいいわ。 ただでさえジークは美人さんなんだから」
「……」
「あっ、照れてる? 」
「う、うるさい。 それより…肝心の書の民ってのについて、もう少し詳しく教えてくれないか? 」
「そうね、それじゃ…どこから話しましょうか――」
古の時代より。
度々この世界には唐突に現れる異邦の者たちがいた。
彼女あるいは彼らは皆一同に通常の者であれば目視する事すら出来ない「ゲームブック」なる書物を所有しており。
武勇に優れ特異な力を持ち、特殊なルールに従い行動していたという。
また不思議な事にこの者たちは、世界に対する知識を断片的に持ち合わせており。
人々はこのゲームブックを伴う異邦の者たちをこの世界の民として受け入れ、書物と共にある者…書の民と呼ぶようになったのだという。
「…これが書の民の概要ね。 人によっては本の迷い人なんて呼んだりもするけど…。 とにかく、貴方も何かやる事があってこの世界にやってきたんでしょ? 」
「そう、だな。 だが…まだ何をすべきなのかよく分かってはいない」
(それに、やること自体も。 俺自身の意思ではなく…元の世界へ帰るために半ば、強制されているようなものだ)
「あっ、そうだ。 貴方の本…ゲームブックのことだけど。 人から見える状態にしておかない方がいいかもしれないわ」
「ん? 見えるも何も…。 先ほどの話では、書の民でなければゲームブックを見ることが出来ないのではなかったか? 」
「ええ、そうなんだけど…。 アタシが聞いた話では”本の色の違い”で書の民同士が揉めたりするらしいわよ? 殺し合いにまで発展しちゃった事例もあるみたいだし…気を付けておいた方がいいわ」
火力こそ正義なゲームで不遇なタンク職を極めた男、集団転移でモテ期到来 猫鍋まるい @AcronTear
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