第4話

俺は夕食をすぐに食べ終わると無駄にでかい自分の部屋のベッドの上で唸っていた。


「この天職の数、明らかにおかしいよな…」


 天職は基本的に1人1つ、これがこの世界の常識だ。なのに俺は2つ3つどころか12個もある。いくらなんでも運が良すぎるんじゃないだろうか。


「そもそも、天職って後から獲得できるものだったんだっけ?……」


 今まで生きてきた中で天職を後天的に獲得した話は聞いたことがない。一応、この国の教会にて聖女と呼ばれる方が後天的に獲得したとかいうが……


 やはり、これはおかしい。1個2個あとから獲得したのでもとんでもないんだから。11個も獲得したなんて言えない。


「でもこのまま農民っていうのも損だよな」


 こんなにたくさんの才能がある中、農民でいるのももったいない。才能を腐らせて人生を終えるくらいならもっと色んなことを知ってから死にたい。


「そうなったら、冒険者が1番近いか?それとも案外『英雄英傑学院』に入る方がいいのか」


 現在、この才能を腐らせず世界を見て回るなら力をつけるべきだ。その中で効率よく力をつけるには冒険者になるか、学院に入るかのどっちかだ。


 しかし、うちは農家。学院に入るために必要な学費が簡単に捻出できるわけではない。


 ただ、学院は入学費はそれほどかからない。むしろお金がかかるのは学費の方だ。そして、学費は年末までに払えれば良しとされている。


「入学費だけは何とか払ってもらうか」


 12歳になったばかりの子供ガキに懇切丁寧に冒険者として生きていくための方法を教えてくれるほど礼儀正しく優しい人ばかりだとは思えない。


 それなら学院に入って、元冒険者だった人や教員にある程度習ってから学院と冒険者業を兼ねた方がいいだろう。


 学費は冒険者業での稼ぎから出せばこの家の世話にはならないしな。

 

 そうなったら後は親と交渉だ。俺は1番才能がない(ことになっている)が、親はだからと言ってめちゃくちゃ俺に対して当たりが強いかと言われれば全くそんなことはない。確かに兄弟に比べれば少しだけ雑に扱われているかもしれないが、話くらいなら聞いてくれるだろう。


 独り言を呟きながら、学院に入学するための入学費を出してもらうことについてどうやって両親を説得するか部屋で考えていた時。


「コンコン」


 俺の部屋に人が来た。誰だ?とは思わない。基本この部屋に来るのは決まった人物だからだ。


「どーぞ」

「邪魔するね。兄さん」


 俺に対して1番優しい四男だ。わざわざ俺に頼るのなんて四男ぐらいしかいないからな。


「とりあえずそこら辺にある椅子に座ってくれ」


 無駄に広い部屋なだけあって椅子や机はある程度ある。


「どうしたんだ?」

「実はさっきの兄さんの独り言が耳に入って」

「あぁ」

「本気で冒険者に?」


 心配そうな目をしてこちらを見つめてくる。


 だが心配してくれる四男に対して俺は決心をはっきりと言った。


「そのつもりだ」

「……」

「俺は農家として生きていくには才能がたりてない。それならいっそのこと冒険者にでもなって夢見た方がマシだ」


 正確に言えば今は才能が足りてないのではなく才能を腐らせたくないなだけなのだが。


 俺は弟に現在の天職について教えてない。だからこっちの方が通じやすいだろう。


「でも……」

「しかも、俺がこの家にいない方が長男と三男、そしてお前もたくさんの飯が食える」

「だとしても……」

「俺が冒険者になって家を出た方がこの家の利益になるんだ。間違った判断じゃないだろう」


 そう。俺は実際この家にとってマイナスな存在だ。弟が心配する理由もわかるがこれがベストだ。


「それでも!兄さんには戦うための天職がない!それで冒険者になったら兄さんは死んでしまう!」

「大丈夫だ」

「なんで!?なにがだいじょうぶなの!?意味わかんないよ!」


 俺が死ぬ気でいると勘違いしている四男は興奮しすぎて聞く耳を持ってくれない。


 まぁ、裏を返せばそれだけ俺のことを考えてくれてるってことだ。長男、三男との差がすごい。本当に同じ両親から生まれてきたのか?って俺も長男・三男あいつらとは違うと思うが……思いたい。


「大丈夫だから落ち着け。今からお前にだけ俺の秘密を教える。だから誰にも言うなよ。」

「な、何それ?」


 俺は戦闘に向いた天職の2つを見せる。1つだけだと農家から転職する意味がわからないからね。


「こ、これは……どういうこと?」


 俺は助猟師と計画師をみせる。正直計画師は戦闘だけではないが他のよりは戦闘向きだと思ったからだ。


「俺は戦闘に向いた天職を2つ持っている。まぁ、どっちも廃帝だが草植人師1つよりはいいだろ?」

「た、確かにそうだけど……天職が3つもあるなんてことあるんだ……」


 さっきの興奮はどこに行ったのやらで今はただただ呆然としている。


「まぁ、そういうことだ。だから俺は学院に通いながら冒険者になろうと思ってる」

「…わかった……」」

「あっ、あと入学費については俺の説得に口添えしてくれると助かる。」

「うん…」


 バタンッと扉を閉め四男は何か言いたげな感じで部屋を出た。


 なんとか納得してくれたみたいだ。なんだかんだ俺に優しい四男なら応援してくれるだろうとは思ってたけど、まさかあそこまで反対されるとは……


「両親を説得する場じゃなくて良かった。」


 四男が部屋から出たあと俺はそう呟くとベッドに倒れ込み、そのまま眠りにつくのであった。

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底辺農民の成り上がり〜生産能力に特化した俺は世界最強に。最強は名家でも最強種族でもなくちょっと特殊な農民です〜 @10021011

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