みずきの田にて

きし あきら

みずきの田にて

 見てください

 どうですか


 ああ 空です

 西ですよ


 三日月の

 あんな ぽつんとした

 月の幼さは


 ええ

 幼い桃いろと、むらさきの

 あれは淋しいもんです


 (爺さんは

 目をしょぼしょぼさした。

 短い指が

 みずきの枝の細いのを

 ぱちぱち折った。)


 ですが山は優しいでしょう

 落ちかかれば

 なんでも 懐に

 山はめますので


 はい

 山の懐は深いです

 わたくしらなんかも

 ひと晩 息をつかせるです


 ですから

 きょうの幼い月

 下ぶくれの あの月も

 まあ見送ってやれますな


 (積み石の窯で

 火はほんとによく燃えた。

 みずきの枝もすぐ燃えた。

 爺さんの眉毛が

 しろじろ照った。)


 あなたがたは

 もう帰られるでしょう

 いまは このへん

 宿もやめてますから


 (みんなもわたしも

 畑のうらの林道を

 ゆらゆらいった。)


 三日月の幼さ

 さみしさ……


 (夕ぞらが

 やけに薄い

 色あそびをしているとき

 爺さんはひとり

 火の番をして。)

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みずきの田にて きし あきら @hypast

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