海と龍の星アルマナイマ、そこに暮らす海洋放浪民セムタム族の文化を、星の外から入ってきた側、言語学者ドクター・アムの目線で描いた「博物誌」シリーズ。
今回は書き手のこだわりを感じる、食事や食べ物に関する描写がふんだんに楽しめる物語です。
誰かといのちを「いただく」行為を共にする、という情景が、頻繁に登場するアルマナイマシリーズ。
高価かつ非常食となるという団子を軸に、ドクター・アムの瑞々しく時に危うさのある感性は、今回、「自ら越えるべきではない一線」で幾度も揺れ動いています。
確信できるほど自惚れてはいないというものの、トゥトゥとの間にはお互いにある種の温かい感情が交錯していることは明らかなのに、踏みとどまろうとするのは究極の学者肌というかなんというか、なドクターが切ないような微笑ましいような。
そんなドクターとトゥトゥ、2人の行く先に、良い風が吹きますように。
「知らないことなんて、山ほどある」と、我々ならいうところだが、この星ではそんなことは言わない。「海ほどある」が正解だ。
主人公の女性言語学者・アムは、アルマナイマ星のセムタムの民と共に暮らしている。今回は宇宙船操縦の免許更新のために、一時的に帰還していた。その免許更新に落第し、海洋民・セムタムの男性との約束の時間に遅れてしまう。
セムタムの民は海と竜と共に生きる、海洋のノマドだ。その土地の言語だけでなく文化全般に惚れこんだアムは、口が悪い男性に団子汁をご馳走になる。ちなみに、セムタム語には鍋の種類を表す単語はない。
ところが話している内に、ご馳走になっている団子汁がとてつもなく「高価」な料理だと判明し、アムは申し訳なくなる。セムタムには金銭の概念がないため、「高価」とは、どれだけの犠牲を払って入手するかによって決まるものである。
今回のアルマナイマ博物誌は、飯テロ!
美味しそうな鍋の匂いが漂ってきそうでした。
ああ、お腹が減った。
是非、御一読下さい。