偉大な物を語るくだらない会話

原多岐人

 

このご時世、路上飲みは間違いなく顰蹙を買う。だが、今隣にいる守谷バカは2本目のストロングゼロ500mlを開けていた。俺は飲み会には参加していないという雰囲気を出す為に、スマホを適当にいじっていた。あと少し言い訳させてもらえば、ここは人通りがほとんどない夜の公園で、半径10m以内には俺と奴しかいない。

「俺の作品の何がダメだってんだ……」

しおらしく傷付いた風を装っているが、選考から落とされて凹む繊細さがあるなら、一般文芸のコンテストにラノベを送る慎重さを欠いた行動を取るなと言いたい。

「お前も読んだよな? 藤原。面白いって言ってくれたよな?」

「ラノベとしてはな」

これは応募前に伝えた感想と変わらないものだった。まあその時点では応募するコンテストについては何も聞いていなかった訳だが。

「いい加減見切りつけたらどうだ? 趣味でもいいだろう」

そろそろ俺たちはいい歳だし、色々と方向転換するならこれ以上先延ばしにするのは望ましくない。

「何言ってんだ。こんな偉大な物を作るのに片手間なんて失礼だろ。いいか、成功者ほど本を読んでいるし、本を出版することが成功者の証だ。何で本を出すかって? 自分の成功のノウハウ、知識を共有するためだよ。次の成功者を覚醒させる為に! それにな、世の中の大抵のことは本になってるし、それを読めばその世界に触れることが出来る。本は人と人だけじゃなく人と世界を繋ぐドアであり通路であり動く歩道なんだって!」

あまりに大声で、しかもマスク無しでがなりたてるので、俺は奴と少し距離を空ける。

 守谷の言っていることは半分は真理で半分は誇大妄想のような気がする。

「だから、本は万物に通じてんだよ。だから作家ってのはこの世界で最強の能力を持ってんだって!スペック的な?」

最後に何か気になる単語が聞こえたが、普通に英単語として辞書を引けるのでまあセーフだろう。

「あ、スタンドとか?」

限りなくアウトに近いセーフ、理由は上記に同じ。

「ヘブンズドぶへぁっ?! おい何すんだ」

アウト。それ以上は俺の左手が言わせない。一般的な名詞ではないし、わかる人にしか伝わらないし、伝わった相手の中では計り知れない程の重さと深さを持つ可能性がある。

「とにかく、だ。俺はそんな風な神的なものになりてえんだよ」

人差し指をブンブンと振りながら、泥酔寸前の酔っ払いが喚く。

 俺はこの先の世界がこいつに作家という重責を背負わせない事を心から祈っている。ただ、願わくばお互いジジイになってもこんな馬鹿なやりとりを繰り返さんことを。

まずは、予防というか自衛対策を徹底させることから始めるか。

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