第4話 部屋の外へ

 目の前の球体を見る。

数字は300を超えていた。

多分SNSで拡散してくたんだろうと思う。

その証拠にさっきまで300だった数字は今は500を越えている。


「みんな拡散ありがとうね! これからもう一度事情を説明するから良かったら聞いてもらっていいかな」


:今来たんだけど、これどういう状況?

:一気に同接の数増えたな

:いきなりここ見ても確かに分からないよな。最初から見てる俺もよくわからんし

:なにこれ、映画の番宣?

:コスプレ似合ってるね 5000円


 そうか。今来たばかりの人には何もわからないよな。

お! 高額スパチャだ、ありがたい


「スパチャありがとう! ほんとうに嬉しいよ! さてそうだね、改めて説明するよ。僕の名前はウマミダイズって言います。個人でVtuberをしているよ。多分ここに今来てくれた人は事情を知らないと思うから最初から説明するね」


:個人勢? ってかVじゃないだろw 普通のYootuberじゃねぇの?

:一応アバターのコスプレしてるっぽいぞ?

:確かに昔のアーカイブ見てみたけど、アバターに似てるな

:それにしても背景の作りこみ凄いな 3000円


 そんなコメントを見ながら、昨日の出来事を簡単に説明した。

神となのる存在からアクションゲームをお勧めされた事、翌日起きたら異世界へ連れて来られたことなどだ。

面白がってだと思うけど、少しずつスパチャを投げてもらえるようになってきた。


「それで、今は証拠として僕のステータス、後は異世界の町を見せたって感じだね!」


:異世界……? そういう設定?

:そういうネタ? 最近のライバーは設定盛ってるからなぁ

:いやでも、あの町並みは流石に変じゃないか?

:ほんとに映画のセットみたいだったしな

:やっぱりヨーロッパっぽいんだなw


「じゃあ、これから僕がその自称神から説明された事を話すね。質問があればどんどん答えるよ! まずは僕がここにいる理由だけど、なんか異世界で配信業をして欲しいって言われたんだよ」


 そういいながら、俺は自称【神】に会った時の話。

そして、いきなりこの部屋に居たという話をし始めた。


「それで、このチュートリアルの書に配信方法とか書いてあったから、それで今も配信しるって感じだね! 分かった?」


:いや、わからん。

;確かにステータスのホログラムとか、その場所とか凄い気合入ってるのは分かるけど、ねぇ?

:そのチュートリアルの書にはなんて書いてあんの?

:っていうか結構拡散されてんだな、もう同接2000超えそうじゃん。お祝い 2000円


 そのコメントを見て、俺は球体の数字を見ると、2031と表示されている。

随分見てくれている、胡散臭いと思われているみたいだけど、結構拡散されているみたいだ。


「拡散ありがとー! えっとチュートリアルの書について説明するね! 簡単に言えば、この書には、結構色々書いてあるんだけど、ちょっと音読するね」


 そう言って俺はチュートリアルの書に書かれている内容を読んだ。

この世界が別の世界軸の地球であるということ、レベルアップのためには配信しないといけないこと、そしてショップのことだ。


「大まかに書いてあることはそんな感じだね。地球へ戻る方法はこのショップにあるアイテムを購入するしかないんだけど……」


 そういいながら、ショップを開き、アイテム欄をカメラに映るように見せる。

そして、例のアイテム”地球テラへ……”を指差す。


「この百万円のアイテムを買わないといけないんだよね……」


:100万もスパチャ貰わないと帰れねぇならもう無理だなw

:これ、普通にレベル上げ無理じゃない? 

:スパチャ貰わないと無理だなw

:お疲れサマ



「そうなんだよ、絶対無理だよねぇ! でもさ、せっかく異世界に来たからちょっと冒険してみたくない? だから、ちょっと怖いけど、外に出てみようと思います!」


:おぉーいいね! それならもっと分かりやすい

:いいんじゃない、どういう場所なのか期待 

:VRにしろ、映画の番宣にしろ、ちょっと楽しみだな


「おっけー。じゃ、外出るけど、なんか怖いな」


 そういいながら、カメラに映らないように震える手を抑える。

大丈夫だ。町に出るだけ、少し回ったらまたこの部屋に戻ってこよう。

ベッドから立ち上がり、ゆっくり、この部屋にある唯一の扉に向かって歩く。

後ろを見ると、球体型のカメラがしっかり浮遊して付いてくる。

これ、他の人に見えるのかな。


 そんな事を思いながらドアノブを捻り、ゆっくりと扉を開いた。

木が擦れる音がなり、ゆっくりと、扉を押す。

そしてゆっくりと顔を扉から出した。

そこは長い廊下がある。ちょうど俺の部屋は角部屋のようで、長い廊下には同じような部屋が5つ並んでいる。

どこかの宿屋なのか?


:やべぇドキドキしてきた

:作りこみがリアルだから、ただ部屋から出ただけでもちょっとドキドキするな

:これカメラどうなってんの?

:カメラは浮いてるって言ってたけど、ほんとにカメラマンいないのか?


「カメラは浮いてるんだよね、ごめん。ここからは人がいるかもしれないからちょっと無言になるかも」


:おけー

:了解

:映像見るだけでも面白いからよし

:気をつけろよー笑


 唾を飲み込み、廊下を進み始めた。

この隣の部屋にも誰か人が住んでいるのだろうか。

それなら、俺のさっきの声も聞こえていた? どうみても壁は薄そうだ。

配信用にあれだけ声を張っていたら、絶対に聞こえているような気がする。

しばらく廊下を進むと、階段が見える。

どうやらここは2階のようだ。

上に上がる階段がないため、二階建の建物なのだろう。

恐る恐る階段を下りていく。

少しずつ、階段で音を出さないようにゆっくりと階段を下りる。

なんの音も聞こえない。人がいないのか?

そうして1階へ降りると、そこは少し広い空間になっていた。

丸テーブルに椅子が複数置いてある。

左側には、扉があり、近くの窓からそこがこの建物の入り口なのだと分かった。


「すいませーん」


 声を出すが、特に返事はない。

玄関と思われる近くに、受付のような場所がある。

そこに行くと、台帳のような物があった。

中を見ると、このように書いてある。

1号室 空室

2号室 空室

3号室 空室

4号室 空室

5号室 空室

6号室 ウマミダイズ


 なんだこれは。

なんで俺の名前が、いやこのアバターの名前が書かれてるんだ?

他に何かないか、辺りを見回すが何もない。

本当にこの台帳だけだ。


:この建物は無人?

:さっきの廊下に6室あったからあの台帳に書かれていることが本当なら、ウマミだけってなるな

:色々謎が多いな

:ウマミ! 本当に誰もいないの?


「どうなのかな」


 少し小声でコメントに答える。

この建物についてもっとよく知った方が良さそうだ。

俺は玄関には向かわず、テーブルが並んでいる場所の奥を見る。

そこには、また別の扉と、何かこことは作りが違う空間があるようだ。


 いつでも逃げられるように、警戒しながら奥へ行くとそこが厨房という事がわかった。包丁や、まな板、あれは冷蔵庫か?

日本にある電化製品とは何か雰囲気が違うように思う。

見た感じ、電源ケーブルがどこにもない。

それに、水道もないようだ。

だが、コンロのような物が置いてあり、近くにフライパンや鍋なんかもある。


:キッチン?

:ぽいけど、なんか違うな

:冷蔵庫っぽいのあるし、開けてみれば?

:いや、人いるかもだろ


 そうだ、たまたま留守にしてるだけなのかもしれない。

あまり手を出さない方がいいだろう。

俺は次に、扉の方へ向かった。

部屋の扉と同じ木製の扉。

それに対し、ゆっくりと、でも聞こえるようにノックをしてみる。


 ドン、ドン、ドン


「すみませーん!」


 今度は声を張り、聞こえるように声を出した。



 返事はない。

本当に誰もいないのか?


:マジで誰もいないっぽい?

:とりあえず、ドア開けよう

:ってかさ、これコンセントがどこにもないな

:いや、異世界なんだろ? そういう設定ならないんじゃないの?


 もう一度、ノックする。

数秒まったが、何の返事もない。

俺は深呼吸をしてゆっくりと扉を開く。

すると、小さな部屋がそこにあった。

3畳程度の小さな部屋。だが、地面には謎の穴が開いている。

大きさは30cm程度だ。

でも、かなり深いのか穴の置くが見えない。


「何これ?」


:なんだこの穴

:地面に穴? なんだこれ

:あ、これってさ

:わかった、トイレか

:トイレ!?

:あぁ、その可能性あるな


 コメントを見て、俺も思わず納得してしまった。

しゃがんだ場所に何故かつかまるような取っ手がある。

なるほど、ぼっとんタイプって訳だ。


「紙……ないのかな」


:あ……

:あ……

:手で拭く系?

:きったねぇな

:ここなんか臭くね?


「ちょっと色々考える必要があるね」


 くそぉ。本当にトイレなら尻を拭く紙が欲しいぜ



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スパチャ貰わないとレベルも上がらないってマ? カール @calcal17

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