閉演 エピローグ
「やーっと片付いたね」
「疲れた……」
「右に同じ」
「アンタたちは体力なさすぎだよ」
ライブ終了後。
舞台裏で、無精ひげのなくなった魔法使いと、飲んだくれていない吟遊詩人、そして商会のおかみさんが集まって一息ついていた。
そこにすっかり在庫の捌けた番重を片付けに、露天商の風来坊が歩み寄ってくる。
「いやぁ、いい商売が出来ました。ライブ様々、アイドル様々、女神様々でさぁ」
「女神ねぇ」
ホクホク顔で稼ぎを数える風来坊に、おかみさんが苦笑いした。
「胡散臭い話だけど。結果としては乗ってみて正解だったよ」
「こうして口に出すと、マジで胡散臭いけどな……」
「あはは……女神に集められた、なんて。夢物語ですよねぇ」
顔を見合わせてひとしきり苦笑いしたあと、ふと思いついたようにおかみさんが切り出した。
「そういや、アタシのとこに来たのは、商売繁盛の女神だったけど……アンタたちのとこはどんな女神が来たんだい?」
「俺のとこは古代魔術文明の女神だ」
「僕のところは芸能の女神」
「あっしが会ったのは、安定収入の女神って言ってましたね。大臣様のところに来たのは、『国立競技場の女神』だったそうですぜ」
「いろんな女神がいるもんだね」
それぞれが自分の元に現れた女神を思い浮かべる。
存在自体が怪しすぎて今日までどこか信じきれていなかったため、こうして皆で女神のことを話すのは初めてのことだった。
やがて、魔法使いがやれやれと呆れた様子で肩を竦める。
「俺のとこの女神は、まぁずいぶんと調子のいいやつでよ。そのくせ無茶振りばっかで」
「あれ、そうなのかい? アタシのとこもだよ」
「僕も」
「あっしも」
「……もしかして」
一同が再び顔を見合わせる。代表して、魔法使いが聞いた。
「黒髪に、こげ茶の目の女神か?」
皆が神妙な顔で頷いた。
「……同じ女神かよ!!」
「あー、そういうオチなわけね」
くつくつと風来坊が笑う。そこに、着替えを終えたセイラが合流した。
「何の話?」
「ああ、セイラちゃん。それがアタシたちが会った女神様って、全部同じ女神様だったみたいなんだよ」
「ええっ!?」
セイラが目を丸くする。
過去、それぞれから簡単に女神のお告げによって協力していると聞かされていたが、皆、別々の女神からお告げを受けたのだと思っていたからだ。
「でも、みんな違う名前の女神様だって言ってたような……」
「どうも会うやつ皆に違う名前で名乗ってたみたいでな」
「ど、どうしてそんなことを……?」
「さァ? 神様の考えてることなんざ、分かりませんねぇ」
風来坊が肩を竦める。
セイラは自分のもとに現れた女神のことを思い出していた。
黒髪に、こげ茶の瞳の女神様。白くてゆったりしたワンピースの、優しくてちょっと変わった、お姉さん。
みんなの所にも行っていたんだな、と思うと、何故か少しだけ寂しい気持ちになった。
ふとセイラは不思議に思う。
あれ? わたし、どうして……あの女神様は、わたしのところにだけ来てくれている、なんて思ったんだろう。
「そういえば、セイラちゃんには何の女神だって名乗ってたの?」
「え?」
言われて、女神が自分の前に現れるときに決まって口にしていた台詞を思い出した。
――こんばんは! あなたの女神です!
「……ふふ」
思わず笑みが零れる。
不思議そうに首を傾げる皆の顔を見回して、セイラはにかーっと笑って悪戯っぽく答えた。
「内緒!」
転生女神は勇者ちゃんを一生推す! 岡崎マサムネ @zaki_masa
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