第31話わたしとカレ㉛
あゆみが出て行った後、私も店を後にした。
しつこいかなと思ったけど、でも、やっぱりほっとけないし。
入社してまだ研修時代、一番初めに話しかけてくれたのはあゆみだった。
人見知り、という訳ではなかったけど毎日が緊張の連続で、
心身ともに疲れていた私に声をかけてくれた。
知り合ってから不思議とすぐ打ち解けることが出来た。これもひとえにあゆみのコミュニケーション能力の高さだろう。その後直人たちとも会わせてくれたのもあゆみだった。
その時すでに直人の事が好きだった事を私は全く気付かなかったけど。
そして研修を終えてみんなバラバラの部署に行くこととなった。
それでも、私たちの関係は変わらないと思っていた。
プライベートの友だちよりもあゆみたちと会う事が多くなっていた。
だからこそ、今までの関係をこんな事で崩したくない。
そんな事を考えながら家に帰った。
すると家の前に誰かが立っていた。直人だった。
私に気が付くと疲れた表情で
「みさこ・・・お疲れ。」と声をかけて来た。
「直人・・・ずっと待ってたの?」
「うん・・・電話もメールも出てくれないから・・・仕事中もなかなか抜けられなかったし。ごめん・・・突然。・・・・でも・・・どうしてもみさこと話したくて・・・」
直人と顔を合わせるのは久しぶりだったが、以前より少し痩せて見えた。
「・・・そか・・・ここじゃちょっとあれだから中で話そうか。」
そう言って私は直人を部屋に入れた。もうこの人を家に入れることはないと思ったけど、こんなに疲れ果てている彼を見たらやっぱりほっとけない気持ちに駆られる。
「とりあえず適当にすわっ・・・」言いかけたがあのおじさんがソファーで寝っ転がってる!今!?目が合ったので、しっしっと手で追い払うしぐさをするとおじさんが私たちに気付きカーペットに移動し始める。
「どうかした?」
直人に声をかけられたが変に動揺して
「え!?い、いやっ・・・なんでもない!何か・・・そう!虫がいてね!」ははっと笑って誤魔化したがおじさんを睨んだ。
「なんや・・・人が来るんやったら先に言うてや!全く人が気持ちよう寝てたのに」
「いいからどっか行ってて下さい!これから大事な話するんで」
私は小声でおじさんに言うと直人が不思議そうな顔で
「なになに?何かいるの?」と聞いて来た。もう勘弁して!
「なんでもないからっ!に、荷物置いてとりあえずソファーにでも座って!」
私は声が上ずっていた。おじさんはしぶしぶ移動し始める。
「直人!お茶!今お茶入れるから待ってて」そう言うとおじさんはキッチンに移動する私の後ろを付いてきた。
ホームレスなおじさん ShuRi @chichangogo
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