最終話 画家・峰浜
私は画家です。絵のなかにリアルを求めています。
なかというのは、目に見える絵の具や線、物理的なもの以外のことです。
私はそのリアルを、人間のなかに見つけたいと思いました。それを絵で表現します。
一人目は平谷淳弥という男でした。
私はリアルを求めてホストクラブに通いました。
夜の街で働く人間は正直だと思ったからです。そして嘘をかぶせるのが上手だと思ったからです。嘘と正直が同じ割合で存在しています。とてもリアルです。
私は何軒か同時にホストクラブに通っていました。
そこで出会ったのが平谷です。平谷は欲望が顔に出ています。よく分かります。
平谷は欲望を叶えるために言葉を並べます。言葉には嘘と正直、両方入っています。分かりやすくてとてもよいです。それに、清潔そうです。
私は自分の家に絵のモデルを住まわせる計画でした。
あの大きな家をいきなり与えられて、でも住んでいることは誰にも知られてはいけない。この条件下のなかで人はどのような心理状態になるのか。その結果を描きたかったのです。
自分の家に他人を住まわせるのですから、清潔なことが一番でした。
平谷は、清潔なのはいいのですがだらしのない男でした。
テレビのリモコンをソファに置きっぱなしにする。床にものを置くなど、そういったところが許せませんでした。
平谷はもうここには住ませたくないので脅してアパートに移らせました。そして二人目を探すよう指示しました。
あれはもともと私の家だし、アパートも家賃なしで住まわせるのだし脅さなくてもよかったのですが。長い間住んでいると自分の家だと錯覚して反論してくるのも面倒なので、一応脅しました。
脅したのが気に食わなかったのでしょうか。平谷はプリペイド携帯を買って恋人と連絡をとっていました。平谷のスマホには盗聴器を仕掛けてあります。気づかれたのでしょう。
まぁ隠れて連絡をとるくらいならまだしも、恋人をアパートに連れてきたのです。何度も。
平谷はルールを破りました。この家に住んでいることを誰にも知られないこと。このたった一つのルールをです。
私はあの大きくてきれいな家に、平谷を無償で住まわせたのです。
その次のアパートも無償で住まわせたのです。
なぜなら私が、絵を描きたかったから。その見返りに、無償で住ませたのです。
けれども平谷は一方的にルールを破りました。
平谷には償いとして肉体を提供してもらいました。貴重な絵の資料です。
そして、平谷を観察して人間の中身を描いた絵がコンクールで入選しました。
タイトルは、等価交換です。
二人目は、石野彩未ちゃんという女の子でした。
夜の仕事をしている子です。掃除もきちんとして、テレビのリモコンもテーブルに置きます。真面目な子です。
彩未ちゃんは、ご両親と仲がよろしくないようです。実家にいるのが窮屈に見えます。そこで下らない男につかまり駆け落ちをして、一瞬だけ愉しく過ごして奈落に落ちたみたいですね。でもそのおかげで私と彩未ちゃんは出会えました。
彩未ちゃんは家をきれいに保ってくれたので、相応の見返りを渡そうと思いました。いえ、まぁ、家賃を払わず私の家に住んでいるので、それ以上私がサービスする必要もないのですが。
あまりにも平谷がだらしないので、彩未ちゃんが立派に見えたんです。
けれども彩未ちゃんは外出するふりをして警察に連絡していました。ひどくないですか?
彩未ちゃんは、私の描いた絵を見に来ると言っていました。
私の絵を見る? 時間と労力とお金と精神力を存分につぎこんだ作品です。
彩未ちゃんは警察に連絡するという余計なこと、裏切り行為をしました。そうして私の絵を見る? 相応の代償を払えますか?
私にとっての見返りは、絵のリアルを与えてくれること。
やっぱり次のモデルは彩未ちゃんです。タイトルはもちろん、等価交換です。シリーズ化しようかしら。
等価交換 青山えむ @seenaemu
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