第6話 目玉焼きが完成


さて、目玉焼きを作ろう。


俺は、海水を蒸発させた時と同じようにコンロのひねりを回した。


コンロにセットされたフライパンが、火によって熱されていく。


ここでまた、問題が生じてしまった。


普通、目玉焼き作る時って……


油敷くよな!


「目玉焼きを作る」ということばかりに目がいって、こういう初歩的なものを見落としてしまっていた。


シェフ失格だな……俺。


おいおい、誰か、俺の星を取り上げてくれ。


むろん、ここは無人島なので、反応してくれる人なんて1人もいない。


しょうがないので、思考を回すことにした。


確かに、目玉焼きを作るには油を敷かなければ焦げてしまう。


でも、こんな所に油なんてある訳ない。否、あったとしてもそれを取りに行く気力なんて、俺にはもう残されていない。


じゃあ……油なし目玉焼きを作るとするか。


三ツ星シェフに取ってみれば、ノンフライ目玉焼きなんて朝飯前なのだ。


多分正攻法の目玉焼きの作り方だと、確実に焦げてしまうので、三ツ星流の作り方でいこう。


三ツ星流とは言っても、別に特段、珍しいという訳でもなく、ごく一般的なやつだ。


まず、フライパンに少量の水をそそぐ。


そして、沸騰するまで少し辛抱。


そう言えば、今まで何かと触れていなかったが、不思議なことにこのキッチンには調理道具が完備されている。


全く、料理をすることに関しては運営側の用意が周到だな……。


しばらくの間、適当に空でも見て暇を潰していると、水がいい具合に沸騰してきた。


俺はすかさず、沸騰した水入りのフライパンに卵を割り入れた。


綺麗に卵を割り入れることができたなら、後はフライパンに蓋をして少し待つだけ。


再度、時間を置いて蓋を開けてみると、見事な薄いピンク色の黄身を持つ目玉焼きが姿を現した。


「おおっ!」


思っていたよりも数段、クオリティーが高い出来だった。


すかさず、俺は穴が空いたフライ返しを用いて目玉焼きをすくった。


そして、用意されていた食器にその目玉焼きを盛り付ける。


盛り付けていると言えるのかは微妙な所だが、とにかく完成したので良しとしよう。


いや、まて。


思えば、まだ塩を振っていなかった。


あんなに時間をかけて作った塩を使わないで、食べる所だった……。


なべの中の塩をひとつまみ。


そして、満遍なく塩が行き渡るように工夫しながら塩を振った。


これで本当の完成か!


蛇口の水で手を洗ってから、改めてもう一度、盛り付けられた目玉焼きを眺めてみた。


なんか……感慨深いな……。


ミシュランの三ツ星取った時より嬉しいかもしれない。


なんせ、無人島で目玉焼きを作っちゃったんだから。


それも素材集めから。


輝く目で目玉焼きを眺めていると唐突に、腹の音がなった。


まぁ、一日中動いてたんだから腹減ってもしょうがないか……。


よし、食べよう。


いや、まだ早まるな……。


今、衝動に駆られて食べてしまったら、俺が目玉焼きを作ったという証拠が無くなってしまう……。


そうなると懸念されることは運営から「作った認定されない」可能性。


仮にそんなことになったとしたらまじでシャレにならない。


今までの努力が水の泡。


うーん……どうしよう……。


あ、そうだ。あのタブレットを見れば説明が乗ってるかもしれない。


俺はとっさにキッチンに置いてあったタブレットを手に取った。


タブレットを起動してみると開いていたページは目玉焼きのページ。


さっきとなにも変わっていなかった。


そのページをくまなく見ていると、左上の所に「完成した」というボタンがあることに気がついた。


「あっ」


俺は間も無いうちにそのボタンをタップした。


すると、現れたのはカメラ撮影のページ。


……なるほど。


証拠として目玉焼きを撮影しろと……。


タブレットを目玉焼きの方に向けた俺は、シャッターボタンと思われる所をタップする。


かしゃっ!っというシャッター音と共に目玉焼きはバッチリと撮影された。


「これで……いいのかな?」


撮った写真を確認してみると確かに目玉焼きが撮影されていた。


ただ……盛れていない……というかなんか、まったく美味しそうじゃない。


そうだった……。


俺、写真とるの苦手だったんだ。


自分の不甲斐なさに頭を抱えていると、タブレットからピコンと音がなった。


画面には「目玉焼きの完成を確認しました。おめでとうございます。100品中1品が完成しました。記念に50シェフポイントを贈与します!」と書かれていた。


「おし!これでいいんだな」


ひと仕事終えたような……そんな気分になりながら俺は再度、目玉焼きに向き合った。


腹減ったし、もう食べちゃうか。


「いただきまーす」


両手を合わせ、合掌をしてから俺は銀色のフォークを使って目玉焼きを頬張った。


黄身は半熟で、口の中に入れた瞬間にとろける風味を感じた。


「うまっ!なにこれ!?」


あれ?なんでこんなにも目玉焼きごときが上手いんだ?


高級フレンチと対等に渡り合える程なんじゃねーか?と疑ってしまうほどだ。


少なくとも、これは俺が探し求めていた目玉焼きの完成系だ。


おかしい……。


明らかに不自然なのだ。


調味料はいつもと変わらない……否、いつもより質の悪いものを使っていると言うのに……。


何が……こいつを変えた?


俺の切実な疑問は解消されることがないまま、自然と俺の肚の中に溜まった。


「うーん……」


俺はついに考えることを諦めた。


そういえば全然関係ない話だけど、結局シェフポイントってなんなんだろう。


目玉焼きを食べながら俺はタブレットをまた開いた。


しばらくの間、タブレットの色んなページに飛んだり戻ったりしていると、「シェフショップ」というページに辿り着いた。


「シェフショップ……?」


このシェフショップというページにはたくさんの道具や「助っ人(?)」が載っていてどうやら、シェフポイントでそれらを買えるらしい。


道具は分かるけどさ……。


助っ人ってなに?



たまらず、俺はどんな「助っ人」がいるのか見てみた。


スクロールする度に多種多様な人たちが出てくる。


【大工】


【力役】


【医師】


【応援するだけの美女】


【漁師】


etc.


とにかく、色々な役職を持っている人たちがリストにたくさん載っていた。


なるほど……。


無人島にこの助っ人を呼び込むことで、このデスゲームを有利に進めることが出来るのか……。


え……?


最高じゃね!?


これは本当に使わないという理由がない。


だって、すげぇ助かるじゃん。


例えば、大工を助っ人として召喚したらここに家作ってくれるってことでしょ?


なんでもっと早く言ってくれなかったんだろう……。


えぇと……。助っ人を呼び込むとしたら、誰をここに連れてこようかな?


大工とか漁師とかも非常に助かりそうだけど、やっぱり今1番欲しい「助っ人」は……。


【力役】かな?


俺は力が全くないから、多分だけども凄い助かると思う。


てか、これどんくらいシェフポイント払えば助っ人呼べるの?


試しに俺は力役のボタンをタップしてみた。


すると予想通り、必要資金が映し出された。


「【力役】をここに助っ人として召喚するには《100シェフポイント》が必要です」


え……?


100シェフポイント?


意外とリーズナブルなんだ。


ログインボーナスで手に入った50ポイントとさっきの50ポイント。


合わせて100ポイントだから、ギリ今の資金でも払うことが出来る。


「おっ!いけんじゃん!」


俺は衝動の赴くままに購入のボタンを押してしまった。


画面には「ご購入ありがとうございます。助っ人は明日の朝に発送されます。」と書かれていた。


これで、明日から力仕事をしなくても済むかもしれない!


あぁ、いい買い物した。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

―無人島シェフ―三ツ星シェフは無人島でも料理の手を抜きませんっ!! @kkk222xxxooohhh00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る